CULTURE
:北村匠海さん・河合優実さんインタビュー/映画『悪い夏』に込めた思いとは
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:『アルプススタンドのはしの方』『女子高生に殺されたい』の城定秀夫監督が、染井為人さんの小説を実写化した『悪い夏』。
気弱で真面目な性格ゆえに犯罪に巻き込まれてしまう主人公を演じた北村匠海さんと、彼を罠にはめようとするシングルマザーを演じた河合優実さんに作品への思いを伺いました。
悲劇が連続する中で、なぜか最後には笑えてしまう(北村さん)
——映画『悪い夏』は、横溝正史ミステリ大賞優秀賞を受賞した染井為人さんの同名小説の実写化です。「クズとワルしか出てこない」とうたわれているように、登場するのは欲望とエゴをむき出しにした癖の強い人物ばかり。北村さんは市役所の生活福祉課に勤める気弱で真面目な主人公・佐々木守、河合さんは佐々木を犯罪に巻き込もうとする、育児放棄寸前のシングルマザーの林野愛美を演じていますが、演じる上で意識したことは?
北村匠海さん(以下、北村):社会の中でただ生きている…という無気力さですね。でも愛美と出会うことで良くも悪くも人生の歯車が動き出していく。それまでの彼は生活保護を申請する人々に対しての感情移入は一切なかったけど、愛実という人物に恋をして、親身に接するようになる。ずっとモノクロの中にいた彼の心が色づくタイミング、というのを大事にしていました。
追い詰められた佐々木が“闇落ち”してしまうシーンは、実は撮影が始まってまだ2日目だったんです。どこまでやっていいのか、誰も算段が付いていない状態で飛び込んだので、もう思い切って暴れちゃえ、と。プロセスを踏まなかったからこそ、あの爆発力が生まれたのかもしれません。
河合優実さん(以下、河合):私はいま24歳で、本格的に母親役をやるのは初めてだったので、どう見えるかはチャレンジでもありました。でも愛美は若くして子どもを産んで、母親になりきれないまま、ああいう状況に陥っていると思うので。無理に母親らしくするより、今の自分の年齢を活かして娘との関係を築くようにしました。コンビニとパチンコ店、自宅を行き来して、狭い人間関係の中で生きている愛美がどんな歩き方や座り方をするのか…ということも考えましたね。
ただ、「母親」「生活保護受給者」といった属性をもたせてお芝居するは、それだけで「こういう環境にいる人はこうやって生きています」と提示してしまうことになりかねない。光を当てるという意味ではいいことかもしれないけど、エンタメの中の道具にはしたくなかったです。そのバランスを取るのが難しかったです。
——佐々木と愛美、お互いの関係についてはどう捉えていますか?
北村:難しいですよね。守としてはケースワーカーとしての葛藤もあっただろうし。それでも抗えないほどの好意だったんだと思います。ただ、最初は愛とかではなく、今まで愛美が他の男性から向けられていた感情と何ら変わらなかったかもしれない。ただ、そこに美空という存在があったことで、2人への愛情に変わっていったんじゃないかという気がします。
河合:守からの好意が、他の大勢の男性たちと同じだった…というのは皮肉な話だけど、その通りだと思います。それを愛美自身もわかっていながら、「もしかしたらこの人が今の生活からすくい上げてくれるんじゃないか…」と自分にとっての光のように感じていた。最初は自分のためだったけど、そこから関係を育んで「この人を大切にしよう」という気持ちに変わっていったんだと思います。
あるシーンの撮影は、今までの「過酷ランキング」に入りました(河合さん)
——劇中では悲惨な出来事も起こりますが、クライマックスでは非常に喜劇的な側面もあります。おふたりは完成したものを観てどのように感じましたか?
北村:貧困や生活保護受給など現実でも問題になっているテーマを扱っていて、作品を通じた問題提起もしていますが、それらをエンタメとして昇華しているところが、この作品のいいところだと思っていて。悲劇が連続する中で、最後はなぜか笑えてしまう…という。
僕たちの仕事って、どんなことが世界で起きていても「120%の笑いを作れ」と言われたら作るし、逆にどんなに穏やかな日常でも、その裏にある闇の部分に焦点を当てることもできる。どちらにも振れてしまうからこそ、怖い部分もあるんですよね。
河合:とくに終盤のシーンは、それまで積み上げたものが一気にひっくり返るというか、すごく喜劇的ですよね。台本を読んでいても、「こういう映画だったんだ」と驚きました。あるシーンは夜を徹しての撮影で、みんな泥まみれになってたき火が必要なくらい凍えて…。あれはいつでしたっけ?
北村:5、6月だね。でもすごく寒かった。
河合:これまで経験した撮影の過酷ランキングに入りました(笑)。私は「撮影は辛ければ辛いほどカッコいい」みたいなノリはあまり好きじゃないんですけど、がんばっている自分たちに酔わないと乗り切れない、みたいな一夜でした。
——俳優としてのお互いの魅力をどんなところに感じていますか?
北村:すごいなと思うことは多々ありますが、特に感じるのは思慮深さですね。シーンをすごく俯瞰で見ていて、自分の中にちゃんと答えがある感じがします。動作ひとつとっても、「このタイミングで水を飲んだら、こういう意味が出る」「だからここでは水を手に取らない」みたいな。一つ一つの動きに対する考えが深いんですよね。
河合:そう言っていただけるのはすごくうれしいです。作品やシーンについて考えるのが好きだし、そういう時間を事前に持ちたいタイプなので。
撮影中もそうですし、今日いろんな取材を受けていても感じますが、北村さんはお芝居だけでなく、これまでの人生でいろんな場所を見て、いろんな人と会ってお仕事をして…。その上で、腰を据えて自分が真ん中に立っていられる人だな、と思います。
北村さん&河合さんへのQ&A
Q.最近見たコンテンツで、刺激を受けたものは?
北村:僕は色々ありますが、ドキュメンタリーかな。ドキュメンタリーというジャンルが好きなんです。「これを芝居でやれ、と言われたら難しいだろうな」という表現が、ドキュメンタリーだと成り立っている。やっぱりどこか役者目線で観てしまっている自分がいますね。
河合:私もよくドキュメンタリーを観ますが、これが脚本だったら、こんなに劇的な表現はしないだろうな…というくらい感情が表に出る人もいますね。勉強にもなるし、ひとつの作品としても面白いと思います。
Profile
北村匠海さん
1997年生まれ、東京都出身。2008年、『DIVE!!』で映画デビュー。2011年に4人組バンド「DISH//」を結成し、メインボーカルとギターを担当。『君の膵臓をたべたい』で第41回日本アカデミー賞新人俳優賞をはじめ、数々の新人賞を受賞。近年の出演作に映画『とんび』『スクロール』『法廷遊戯』、配信ドラマ「幽☆遊☆白書」、ドラマ「アンチヒーロー」など。2025年には企画・脚本も手掛けた初の短編映画監督作品『世界征服やめた』が公開。連続テレビ小説「あんぱん」が3月31日よりスタート。
河合優実さん
2000年生まれ、東京都出身。2021年出演の『サマーフィルムにのって』『由宇子の天秤』での演技が評価され、各賞の新人賞を受賞。2024年には主演作『ナミビアの砂漠』が第77回カンヌ国際映画祭国際批評家連盟賞を受賞。同作および『あんのこと』で第67回ブルーリボン賞、第98回キネマ旬報ベスト・テンなどの主演女優賞を受賞。近年の出演作にドラマ「不適切にもほどがある」、映画『ルックバック(劇場アニメ)』『敵』など。3月より連続テレビ小説「あんぱん」に出演。公開待機作に映画『今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は』『ルノワール』がある。
作品情報
市役所の生活福祉課でケースワーカーとして働く佐々木守(北村匠海)は、同僚の宮田優子(伊藤万理華)から「先輩の高野(毎熊克哉)が生活保護受給者のシングルマザー・林野愛美(河合優実)に肉体関係を迫っているらしい」と相談を受ける。真面目で気弱な佐々木は宮田の頼みを面倒だと思いつつも断ることができず、渋々愛美のアパートを訪ねるが……。
©2025映画「悪い夏」製作委員会
公式X:@waruinatsumovie
河合さん:シャツ¥41,800・ジャンプスーツ¥81,400(共にオーラリー)、北村さん:ジャケット ¥156,200 ニット ¥144,100 パンツ ¥96,800 シューズ ¥99,000 すべてアワー レガシー(エドストローム オフィス)
photograph: Chihaya Kaminokawa styling: Mayu Takahashi(河合さん),Shinya Tokita(北村さん) hair & make-up: Yuko Aika[W](河合さん),KOHEI NAKASHIMA,HARUKA FUJIMURA[UNVICIOUS](北村さん) text: Hanae Kudo
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