CULTURE

高良健吾さん 自分の幸せは自分で決める 高良健吾さん 自分の幸せは自分で決める

熱血漢からアウトサイダーまでどんな役でも演じ切り、高い評価を得る高良健吾さん。 クールな面差しの奥に秘めた芝居への想いとは。

今と過去を交錯する物語

凜々しい顔立ちと強い目力、静かな佇まいに垣間見える男の無骨さが人の心を揺らす高良健吾さん。出演映画『くれなずめ』では、そんなイメージを打ち壊すような楽しい演技を見せています。ご自身も台本を読んでテンションが上がり、普段はしないような行動をとったと苦笑い。「出演者にハマケン(浜野謙太)さんの名前があったので、携帯に電話して 『台本読みました? これヤバいですよね』と言ったんです。そのときは、まだ話が通ってなかったらしくて『なんのこと?』って(笑)。『順番間違えてすみません』と謝ったのですが、誰かと共有したくなるくらいおもしろいと思ったんです」

本作は、初監督映画『アフロ田中』(2012年)で鮮烈なインパクトを残し、独創的な作品を発表し続ける松居大悟監督が手掛けています。監督が作・演出の劇団「ゴジゲン」で 2017年に上演された舞台を映画化したもの。友人の結婚披露宴で余興を披露するべく集まった高校時代の友人6人が、披露宴と二次会の間の“今”と思い出の中の“過去”を交錯しながら物語が進みます。高良さんは劇団を主宰する欽一を演じます。

「6人の関係性が大事なので、リハーサルの時間がしっかりあったのがよかったですね。最初は手探りでしたが一緒に過ごす時間が長くなるほど、 仲間意識が強まっていきました。役作りも一緒にしたので、みんなで作品を作り上げた感覚です。欽一は舞台では監督自身が演じた役だったので、 最初は意識していましたが、『気にしなくていい』と言ってもらえて楽になりました。後に監督にキャスティングの理由を聞いたとき『友だちが少なそうだから』と言われて笑っちゃいました。でも、ちゃんと友だちはいますよ(笑)。地元の熊本の友だちとは今も繋がっているし、東京でできた仲間もいます。友だちがいるからがんばれる瞬間がありますね」
高校時代の思い出で、結婚披露宴の余興でと、6人の絆を象徴するのが裸に赤いふんどし一丁で踊る“赤ふんダンス”。こんなにはっちゃけた高良さん見たことがありません。 「最初から“赤ふん”をすることは決まっていたので、恥ずかしさはなくて楽しかったです。普段できないことだし、台本に書いてあるから絶対にやらなきゃいけないし(笑)。みんなで盛り上がっていました」

あえて白黒つけない
グレーゾーンのままがいい

本物の同級生のようなまろやかな空気が6人を包み、クスッと笑ってしまう場面もたくさん。ところが、ある真実が明らかになると切なさや寂しさ、温もりがごちゃ混ぜになって押し寄せてきます。高良さんは作品の印象をこう話します。
「“狭間”が魅力です。6人の関係には曖昧なところがあるけれど、あえてはっきりさせないのがいいなと。いろんな人がいていいし、グレーゾーンのままにしておけばいい。今は何かと正解を求められがちで、なんでも白黒つけたりしたがるけど、そんな必要はないんだと共感しました」

高良さんはこれまでも幅広い役柄に扮し、強い存在感を残してきました。たとえば、2019年の主演映画『アンダー・ユア・ベッド』では、ベッドの下から愛する女性を監視するストーカー役を怪演。今年公開された映画『あのこは貴族』ではハイスペック弁護士をクールに演じ、かっこよさを余すところなく放出。はたまた、大河ドラマ「青天を衝け」では、主人公とともに歴史の波に身を投じる従兄役を熱演。登場人物そのままの血の通った演技に驚くばかり。「100%役になり切るのは無理ですが、役としてその場にいることはできると信じています。“なりきる”のは個人的な作業だけど、“その場にいる”のはまわりの人がいるからできること。俳優は人が書いた台詞を言って経験していない人生を演じるので、ある意味噓をついているわけです。それをちゃんと理解して、常に意識的でいることがいい芝居に繋がると思っています。だから、演技に対して真実やリアル、自然という感覚を一番前には置きたくないんです」

その信条の礎となったのが、2007年の映画『M』。馳星周原作の短編集を廣木隆一監督が映画化し、高良さんは母親への屈折した愛情を持つ少年を演じました。「当時18歳で熊本の高校に通いながら撮影していたときで、駆け出しだった自分の芝居に対する意識を確実に変えてくれた作品です。『演じるのではなく、その場所にいなさい』と 監督に言われた言葉が今もずっと心に残っています」
2019年の主演映画『多十郎殉愛記』も俳優人生に影響を与えた一本。『極道の妻たち』シリーズなどの傑作を生みだした巨匠・中島貞夫監督の20年ぶりの長編映画でした。 「中島監督との出会いは大きかったですね。演出のしかたも、監督自身も多くは話さないけど一言が雄弁。 短い一言なのに真っすぐ伝わる雄弁さに、表現者として憧れます」

経験を重ねた今だから感じる俳優業の魅力と今後を聞いてみると――。
「おもしろい人や個性的な人などいろんな人に出会えるのが醍醐味。だけど、正解がなくて人の好みで評価されるのは正直難しいと感じますね。常に試されている感覚はありますが、あまり気にしすぎずに目の前にある作品に集中するようにしています。ずっと俳優を やり続けられたら最高だし、今はこの仕事にこだわっているけど、執着しすぎて自分の首を締めたくはない。自分の幸せは自分で決めたいと思っています」

INFORMATION 映画『くれなずめ』

監督・脚本:松居大悟/出演:成田 凌、高良健吾、若葉竜也、浜野謙太、藤原季節、目次立樹、前田敦子
配給:東京テアトル/テアトル新宿他にて全国ロードショー

友人の結婚披露宴で余興を披露するべく、久々に集まった高校時代の友人6人。ある者は結婚し、ある者は劇団を続け、 それぞれに別々の道を歩みながらも、再会すれば話題にのぼるのはしゃかりきだった学生時代。披露宴と二次会の間の“今”と、それぞれが友との思い出を振り返る“過去”が交錯し、笑いと切なさ、温かさと寂しさが『くれなずめ』のタイトル通りにごちゃ混ぜになっていく。やがて、6人の間に横たわる“真実”が、それぞれの人生に立ちはだかり――。
©2020「くれなずめ」製作委員会

photograph:Chihaya Kaminokawa styling:Shinya Watabe(Koa Hole) hair & make-up:Kohei Morita(TETRO) text:Harumi Yasuda  web edit:Liniere.jp
※写真・文章の無断転載はご遠慮ください

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