クリープハイプのボーカル・尾崎世界観さんに、著書『母影』についてお話をお伺いしました。芥川賞候補にも選ばれた本作の背景にあるものとは?
言葉にした瞬間に終わってしまう気持ちを、言葉を使って表したい
はじまりは編集部に届いた一通のメールでした。
クリープハイプの尾崎世界観さんによる新しい小説『母影』。
この原案となったのが数年前、リンネルに寄せたショートエッセイ。
そこに特別のご縁を感じてくださり、この度のインタビューが実現しました。
「このとき、バーッと頭に浮かんだアイデアを、いつか形にしたいと思っていたんです」
主人公は小学校低学年の少女。
父親はおらず、放課後はもっぱら母親の働くマッサージ店の空きベッドで過ごしている。
客を施術する母親のようすをカーテン越しに感じながら、息を潜める少女の一人称で物語は進みます。
「急に神様のような視点で書いてしまうと冷めてしまうので、子どもから見たもの、感じたことしか文章にできない。
なかなか点と点が線にならないもどかしさがありました」
ただでさえカーテンの向こう側が見えない上、子どもゆえの断片的な理解や語彙力の乏しさを感じさせながら、
読み手に状況も伝えないといけない。その矛盾がむしろ、ひりひりとスリリングな読み味をもたらします。
「自分も子どもの頃、わかりたくないことがわかってしまう瞬間が多かったんです。
意味ははっきりわからないけれど、言葉の前後から、言葉以外の要素も受け取っていました。
ちゃんと理解できない分、なおさらそこにたよるしかない。
そんな、言葉にした瞬間に終わってしまうような気持ちを、言葉を使って表したいと思ったんです」
今も記憶に残る、子どものときに感じた不自由さ
そして「本当に子どもはこんなふうに考えているのかもしれない」と本気で感じさせる、圧倒的なリアリティ。
「あの時の記憶は、けっこう残ってるんですよね。
対話ができない、受け取るだけしかできないことの不自由さ。
そうした中で、大人同士のかけらみたいなものが自分に入ってきたときの、違和感や興味。
自分でも驚いたのは、大人になった今も、それが消化されず、きれいに残っていたことです」
この挑戦が文壇でも評価され、芥川賞候補に選ばれたのは記憶に新しいところ。
「表現者として幸せだったし、単純にうれしかったです。
候補になっている期間がずっと続いてほしいと思ってました。
でももう終わってしまったので、また自力でそこにたどり着けるようにがんばります」
音楽も文学も。尾崎さんのこれからの動きを、ずっと追いかけ続けていきたいと思ったのでした。
尾崎世界観(おざき・せかいかん)
- 1984年、東京都生まれ。ロックバンド「クリープハイプ」のボーカル・ギター。16年に初の小説『祐介』(文藝春秋)を刊行。他著書に『苦汁100%』(文藝春秋)、『泣きたくなるほど嬉しい日々に』(KADOKAWA)など。
Photograph:Shinnosuke Soma styling:Hiroaki Iriyama hair & make-up:Satoshi Tanimoto text:BOOKLUCK web edit:Liniere.jp
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