役者、映画監督として活動してきたのち小説家としてもデビューを果たした小川紗良さんの初の著書についてお話を伺いました。
小川紗良さん著者インタビュー
書き進めながら主人公として生きた、
役作りに近いような感覚でした
天は二物どころか、三物を与えることもあるようです。役者として、映画監督として、さらにこのほど小説家としてもデビューを果たした小川紗良さん。タイトルは6月に公開された初長編映画と同じく「海辺の金魚」。ただ映画の“原作”でもなく、“ノベライズ”でもないというのです。「『海辺の金魚』という映画を原案とした、また新たな小説として。まったく違うものにしたいという意識は、最初からありました」
どちらも主人公は、小さい頃から児童養護施設で過ごしてきた18歳の花。同じ境遇を持つ子どもたちとの姉妹のような関係、拭いきれない母親への思い、そして自身と向き合う姿を、こよなくやさしく繊細な視点で描いた成長物語です。「映画では多くを語りすぎず、表情やしぐさで心情を伝えようとするのに対して、小説は言葉で語る媒体。まったく違う表現でしたね」
思わずのめり込んでしまうのは、子どもたちの活き活きとした会話やエピソード、みずみずしい映像的なシーンの描写と、花の心中が語られる文学的な表現が、バランスよく紡が
れているから。「撮影期間、子どもたちとずっと一緒に時間を過ごして。すごく魅力的なんだけど、映画には収まりきらなかった部分が小説では戻ってきたのかなと思います」
執筆にとりかかったのは、映画を撮り終えてから。じっくり1年間を費やし、書き上げていきました。「最初から順番に書き進めながら、花として生きていたような。そう、ある種役作りに近いような感覚でもありましたね」
さらに映画では、全体のプロットを仕上げてからみんなで作り上げていくのに対し、小説は先が見えない状況のまま、いわく「長距離マラソンのように」ひとりでひたすら掘り下げ
ていく。「すると、不思議なことが起きたんです」と小川さん。「自分の意思で書いているはずなのに、キャラクターが勝手に動いている。伏線をここに置こうと思っていたわけじゃないのに、いつの間にか偶然つながっていたり」
役者、映画監督、小説家。表現方法は異なりつつも、時々シンクロし、交差し合う。そうして唯一無二の作品に仕上がっていきます。
「どっちもおもしろいですね。映画で予想外なことが起きるのも、小説のように、気づいたら道筋ができていくのも。多分どちらもやることで、バランスが保てているのかもしれません」
デビュー作『海辺の金魚』
小川紗良/¥1,650(ポプラ社)
身寄りのない子どもたちの暮らす家で育った花。18歳を迎え自立のときが迫る中、将来のことや遠く離れた母親のことで葛藤を抱えていた。そんなある日、かつての自分を思わせる女の子・晴海が施設にやってくる……。アンデルセンの童話をモチーフにした深い描写や繊細な表現、初の小説執筆とは思えない完成度に驚き!
お話を伺ったのは……小川紗良さん
PROFILE
小川紗良
おがわ・さら/1996年6月8日生まれ、東京都出身。2014年デビュー。NHK連続テレビ小説『まんぷく』や、ドラマ『ブラックスキャンダル』、映画『イノセント15』などに出演。映画監督として手掛けた『最期の星』がPFFアワード2018に入選。今年6月、ともに初となる長編映画と連作短編小説『海辺の金魚』を発表。
岡根谷実里『世界の台所探検 料理から暮らしと社会がみえる』インタビュー
photograph:Shinnosuke Soma text:BOOKLUCK web edit:Liniere.jp
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