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:俳優・安藤玉恵さん「目に入る色や匂い、身体の記憶だと思います」/はじめての著書『とんかつ屋のたまちゃん』
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話題の映像作品や舞台で活躍する俳優の安藤玉恵さんによる、はじめての著書『とんかつ屋のたまちゃん』が刊行されました。
生まれ育った東京・尾久のとんかつ屋「どん平」、明治生まれのたくましい祖母、生粋の放蕩人の祖父、サービス精神旺盛の父、太宰治推しの母、そんな家庭で一緒に育った兄。そして商店街の人たち……。
あらゆる全ての人生を肯定したくなるような、たくさんの人に読んでほしい一冊が誕生です。
全員の人生を肯定したかったんだと思います
数々の舞台、映像作品で強い印象を残す俳優、安藤玉恵さん。今年頭に出演した舞台『花と龍』で演じた女性は、明治をたくましく走り抜けた、パワフルで正直で、観客も一緒に元気になっちゃうような女性でした。偶然この時の共演者と安藤さんの演技についてお話する機会があったのですが、「胸に豪速球を投げてくるような喋り方ができる人」と表現していて、深く頷いたものです。そんな安藤さんが書いた、はじめてのエッセイ本『とんかつ屋のたまちゃん』(幻冬舎)が5月末に刊行されました。
実家である東京荒川区のとんかつ屋「どん平」で過ごした幼少期、個性的なご家族やご近所さんたち、都電にベーカリーに八百屋さんに駄菓子屋さん……元気な“たまちゃん”と一緒に走り回るような一冊に浮かび上がる商店街は、知らない場所なのになんだか懐かしい。街の温度を感じ、おいしい匂いも漂ってくるよう。「人に『実家がとんかつ屋なんです』って言うと、『分かる、いかにもとんかつ屋の娘だね』と言われるんです」と笑う安藤さんに、ご近所に愛された女の子の顔が重なります

「若い頃から友人に家族や育った商店街の話をすると、みんな面白がってくれたんです。そういう意味では長年の経験で、人が喜んでくれるエピソードを熟知しているというか(笑)。家族一人ひとりについて書こうと早い段階から決めていたので、祖母と祖父、父と母の名前がそれぞれ章のタイトルになっています。最終的には両親の戒名まで書いちゃいました」
なるほど文字になる以前、根っこに“語り”があると聞いて納得しました。笑いと郷愁、ちょっぴりの涙がまぶされた文章は、友達とお喋りしているように、心に真っ直ぐ、ぐんぐん入ってきます。
「おそらく身体の記憶なんでしょうね。目に入る色とか匂い、周囲の大人に叱られたり教えてもらったり……直接的な影響ばかりですから。みんなのことを考えながら、気持ちを伝えるように、『これは愛情表現だ』と思いがら書きました。みんなの人生を肯定したかったんだと思います。うちの斜め前にあったお寿司屋さんのオヤジさんと呑みながら『あんなことあったね、こんなことあったね』なんて明るく、死んだ人たちの話をすることもあるんですよ。こうして故人を偲ぶのもいいもんです。小さい時はお酒も呑めなかったのにね。すっかり大きくなりました(笑)」
脇役にも主役の人生がある

確かにこの本では、男も女も全員が実にイキイキと“人生の肯定感”に彩られながら呼吸しています。取材が行われたのはまさに、ご実家のとんかつ屋「どん平」でした。撮影のために味のある店内を眺めながら、ふと、大黒柱としてこの店を切り盛りし、明治から平成まで102年を生き抜いたというおばあちゃん「あや子さん」はまさにここにいたんだなあ……と気づきました。“尾久のジュリー”と呼ばれたサービス精神旺盛の父・一男さんも、体が弱くても根性みなぎる母・カツ子さんも、ここで日々を過ごしたかと思うと、とっても感慨深い空間。現在は安藤さんのお兄さんが、日々美味しいとんかつを揚げています。
「祖母が“どしっ”と座っている写真も残っていて、とにかくかっこいいんですよ。面白かったのが、『花と龍』で演じた女性、マンさんの古い写真を見ると、全く同じ座り方をしていたこと。明治の女はたくましいです。今回本を書いて思い至ったのは、いつも役を考えるときに『身近な人で誰に近いかな』と考えていたこと。なんせ、祖母、母、そして、たくさんのおばたちもみんな近所に住んでいたんです。まわりにあらゆる女性のタイプがいるのでモデルに困らないんです(笑)。主人公じゃない役でも、その人物の人生があるはずじゃないですか。物語では脇役だとしても、その人が主役の人生が存在する。そういうつもりで毎回役を生きています」
時にはロシアのしっかり者の女性や、イギリス人の7歳の少女(!)だって自然体で演じてしまう安藤さん。彼女が生きるフィクションがいつだって「信じられる」秘密が、分かったような気がしました。
はじめての著書『とんかつ屋のたまちゃん』

¥1,540(幻冬舎)
昔の記憶って、いったん思い出すと、どうして止まらなくなるのだろう――。実家は、元花街、東京・尾久のとんかつ屋「どん平」。話題作にひっぱりだこの個性派俳優が綴る破天荒な家族と愉快な街の記憶話題の映像作品や舞台で鮮烈な印象を残す俳優の安藤玉恵さんの実家は、元花街、東京・尾久のとんかつ屋「どん平」。阿部定事件が起きた尾久三業通りの待合茶屋は、「どん平」から20メートルくらいのところ。一家の大黒柱だった祖母、放蕩する祖父、数々の地元の伝説を持つ父、太宰治好きで、ファンキーで臥せがちな母、そんな母を一緒に看病した兄。そしてまわりにはいつも商店街の人たちがいた――。若手芸人が小学校の通学路で稽古し、着物を着たお姉さんが歩いていた時代、昭和の最後のほうの話。なつかしくて、おかしくて、バカバカしいのに、涙が出ちゃう。そんなノスタルジックな感情を呼び起こす名エッセイ。
安藤玉恵さん PROFILE
あんどう・たまえ
1976年生まれ、東京都荒川区出身。早稲田大学演劇倶楽部で演劇を始め、舞台、テレビドラマや映画と幅広く活動。 映画『夢売るふたり』で第27回高崎映画祭最優秀助演女優賞を受賞。たしかな演技力で様々なジャンルの役を演じ、注目を集める。連続テレビ小説『あまちゃん』『らんまん』、『阿佐ヶ谷姉妹の のほほんふたり暮らし』(以上、NHK)、ドラマ&映画「深夜食堂」シリーズ、舞台『花と龍』『命、ギガ長ス』など多数の作品に出演。
今後の予定に、Eテレ「100分de名著」(アトウッド著『侍女の物語』『誓願』/2025年6月期毎週月曜22:25〜) 、「未病息災を願います〜かしまし3姉弟より〜」(毎月最終日曜日19:00〜レギュラー放送)、映画『でっちあげ〜殺人教師と呼ばれた男』(監督:三池崇史/2025年6/27公開)、舞台Bunkamura Production 2025『リア王』(作:ウィリアム・シェイクスピア、上演台本・演出:フィリップ・ブリーン/2025年10月〜11月)など。
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photograph:Miho Kakuta hair & make up:Kazumi Oowada styling:Kei (salon de GAUCHO) text: Fumiko Kawazoe
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