CULTURE
:藤間爽子さん「砂の世界は、どんな空間なのか。ひたすら想像しています」|舞台『砂の女』インタビュー
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:安部公房の代表作を、現代ならではの舞台表現で描き出す『砂の女』。深い穴の底で、主人公の“男”と奇妙な共同生活を送る、ミステリアスな“女”を演じる藤間爽子さんは、この不条理な物語をどう捉えているのでしょうか。作品と向き合う中で、見えてきた思いをうかがいました。
価値観が180度変化する。
それは今の世の中でも起こり得ること

——この春、藤間爽子さんが挑むのは、舞台『砂の女』。原作は1962年の発表以来、世界中で読み継がれてきた安部公房の代表作です。藤間さんが演じるのは、砂穴に埋もれた家へ“男”を閉じ込めようとする、謎めいた“女”。不条理な状況の中であぶり出される人間の心理は、半世紀以上を経た今も、私たちの心を揺さぶります。この物語と役に、藤間さんはどのように向き合おうとしているのでしょうか。
「主人公の男は人生に疲れて、自由を求めて砂丘までやって来たのに、そこで砂の穴に囚われてしまう。最初はその世界になじめずに逃げようとしていたのに、年月を重ねるうちに次第に受け入れ、幸せすら見出してしまう。そんなふうに、価値観が180度変わったり、これが正解だと思っていたことが覆されたりすることって、今の世の中でもありますよね。そこは私自身も共感しますし、この物語が多くの人を引きつける理由でもあると思います」
——今の段階で藤間さんが捉えている「女」の人物像は、ひと言では言い切れない複雑なもの。
「稽古が進むうちにまた解釈が変わると思いますが、やはりミステリアスな部分があった方が面白くなると感じています。ただ彼女の行動は、男を困らせようとしているわけじゃなく、あくまでも自分が生きるためにしていること。それを忘れずに演じたいですね。彼女は自分が置かれている状況を受け入れ、疑うことをしない人。彼女のように淡々と与えられたことだけしていたら、人は幸せに生きられるのかもしれないな、と考えたりもして。そういう人間の本質を突くような問いかけが散りばめられているのも面白いです。この話がハッピーエンドなのか、バッドエンドなのか。皆さんがどう受け取るのか、今から楽しみです」

——稽古前の今、藤間さんの生活にはすでに『砂の女』の世界が入り込み、日常でも作品のことを考える時間が増えているそう。
「作品によって役作りの方法はさまざまですが、今回は『砂の穴ってどんな世界なんだろう』『どれだけ閉鎖的な空間なんだろう』とひたすら想像を巡らせています。最近、茶道を習い始めたのですが、炉を上から覗きながら、砂の世界を重ねたりして。炭の置き方にも決まりがあって、ちゃんと立てられたと思っても、不安定ですぐに倒れてしまうんですよね。『もしかしたら砂の世界も、こういう不安定な場所なのかな』と、日常の出来事とリンクさせながら、作品のことを常に頭の片隅で考えています」
——ちなみに茶道を始めたきっかけは、「和菓子が好きだから」
「本当にそれが理由なんです(笑)。30代になって、何か新しい習い事をしたいなと漠然と思っていたとき、近所に教えてくれるところが見つかって。通い始めたばかりですが、仕事にも通じるような発見があります。日本舞踊もそうですが、私は“人に見せる”ための所作を、仕事以外の場でも無意識のうちにやっているようで。でもお茶では、そうしたニュアンスを削ぐようにと指摘されて、ハッとしたんですよね。そぎ落とすことも大切なんだな、と気づかされました。お茶は人生をかけて長く付き合うものだと先生がおっしゃっていて。私もこれから、長く向き合っていきたいな、と思っています」
藤間さんへのQ&A

稽古場でいつも意識していることは?
自分の「こうしたい」という思いも大切ですが、優先すべきは、演出家が描きたい世界を役者が体現することだと思っています。演出家の言葉を信じて、まずはやってみること。その求めにきちんと応え、さらにその先のものを提示できるよう、信じて取り組むことを大切にしています。
舞台中、体力や気力をリカバリーするためのルーティンは?
あまりルーティンは作らないようにしているんです。それができなかったときに、「失敗するんじゃないか」と思ってしまうのが怖くて。緊張したり、気持ちが高ぶって眠れなくなったりすることはあるんですけど、もうそれは受け入れる。「ちゃんと稽古を重ねていれば、そんなことで芝居は変わらない」と信じるようにしています。
いちばんのリフレッシュ方法は?
お仕事とは別に、自分が所属できるコミュニティを持っておくと、リフレッシュできて、人生が豊かになる気がしますね。ジムでもいいし、習いごとでもいいし。私の場合、茶道や踊り、劇団はそれぞれ違う人間関係なので、いい息抜きになっています。

Profile
藤間 爽子
1994年、東京都生まれ。幼少より祖母である初世家元藤間紫に師事。7歳で歌舞伎座で初舞台を踏む。2021年、三代目藤間紫を襲名。2017年、NHK連続テレビ小説「ひよっこ」で俳優デビュー。主な出演作にドラマ「silent」「つづ井さん」「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」「良いこと悪いこと」、映画『ゆきてかへらぬ』など。
作品情報

砂の女
20数カ国語に翻訳され、海外でも高く評価される安部公房の代表作を舞台化。昆虫採集のため砂丘に赴いた教師の男・仁木順平は、砂を深く掘った穴の中に建てられた家に閉じ込められてしまう。家が埋まらないよう、砂を掻き続ける女と同居生活をすることになった男は、なんとか穴から脱出しようと試みるが……。
原作:『砂の女』安部公房
脚本・演出:山西竜矢
出演:森田剛 藤間爽子 大石将弘 東野良平 永島敬三 福田転球
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