デンマークの小さな島・ロラン島は、グリーン電力自給率800%。市民みんなが環境について自分の言葉で語れるというSDGs先進国では、日本とどんな意識の違いがあるのでしょうか? 教えてくれたのは、20年以上ロラン島に暮らすニールセン北村朋子さん。
<テーマ1>SDGs先進国になれた、デンマークの秘密はどこに?
taraさん:ロラン島では風力発電が盛んだそうですね。どうしてデンマークではSDGsの取り組みが盛んなのでしょうか。
ニールセン北村朋子さん(以下北村さん):沖縄本島とほぼ同じ面積のこの島ですが、風力発電で電力をまかない、今や自給率800%を超えました。協定を結ぶ首都コペンハーゲンにも電力を送っています。デンマークは環境先進国といわれるようになりましたが、将来どういう国として存在したいか、市民や政治家、企業の間で絶え間なく意識され続けていることが、それを叶えた一番の理由だと思っています。こちらでは日々トップニュースにも気候変動が特集され、学校の授業でも最新の情報に触れていて、自然とみんなの意識も高まるんですね。デンマーク政府は再生可能エネルギー100%をめざしていて、2050年までに化石燃料を全面廃止する予定で、それに向けみんなが自分にできることを粛々とやっているという感じです。
taraさん:いろんな課題がありますが、デンマークの方は特に何に関心がありますか?
北村さん:30代までの若い世代は、特に気候変動に関心があるようです。近頃のデンマークの地方自治選挙では、気候変動を争点にしている立候補者がたくさんいます。デンマークは投票率がとても高く、9割近いんですよ。それは多分、教育の影響がとても大きいと感じます。デンマークでは先生はファシリテーターのような役割で、上から教えるスタイルではありません。テストもなく、子どもたちは何を学びたいか自分で決めていきます。世の中にはたったひとつの答えしかないことのほうが少ないわけで、多様な答えや考え方を尊重しながら「みんなの最上の妥協点を探す」ことを幼いうちからしています。学校からは「近くの農家に、農薬を使っているか、使っているならなぜなのか聞いてきて」とか、「祖父母と一緒にゴミのリサイクルセンターに行って、どんなゴミが捨てられているか観察してきて」といった宿題が出されたりします。ご近所の農家さんも、農薬について子どもたちに聞かれたら考え直すかもしれないし、大人もゴミについて学ぶきっかけになる。そうして子どもから大人を巻き込んでいくのもデンマークの人は上手だなあと思いますね。そして、性から政治の話までタブーはなく、小さいうちから何でも聞いて話していいのがデンマークの社会の特徴といえるでしょう。日本では、あまりそうした話題を友人同士でしませんよね。デンマークでは子どもも政党に入れますし、学校では実際の候補者と議論し、投票する模擬選挙をして、親たちの出した結果と比べることもします。立候補は18歳からできてお金もかからないので、日本よりぐっと政治が身近なんです。そうしたことから、気候変動についても、自分たちが直接関わって解決していくべき課題だという当事者意識があるのではないでしょうか。
<テーマ2>プラントベース推進に日本の知見が役立つ?
taraさん:ヨーロッパにはベジタリアンの方、多いですよね。私もかつてベジタリアンでした。
北村さん:そうですね。二酸化炭素の排出を減らすためにも、お肉の消費を減らしプラントベース(植物由来の食べ物を中心とした食事法)にシフトしていくことにも関心が高く、34歳までの若い世代の2割ほどはベジタリアンだといわれます。私はお肉の消費を減らすために、日本の知恵や工夫が生きるのではと思っています。日本にはお豆腐や納豆もあるし、お肉を薄切りにして食べる習慣もありますよね。こちらでは、お肉といえば厚切りのステーキ。お肉は厚くないと食べ応えがないと思われていて、日本のような薄切りの肉は売っていないんです。
tara:私もクロアチアに住んでいたとき、薄切り肉が恋しくて、冷凍してチーズスライサーで薄切りにしていました!
北村さん:そうですか、和食には薄切り肉は欠かせませんね。薄切り肉と野菜の合わせ方など、日本はとても上手だと思います。私もデンマークで日本の「薄切り肉」を広めようと思っているところなんです。また、醬油はデンマークでもとてもポピュラーな調味料ですが、味噌や麴などの発酵食品が持つうまみも、プラントベースを進めるために役に立つと期待しています。
<テーマ3>日本に住む私たちがやるべきこと、できることとは?
taraさん:コロナ禍だからこそ進んだSDGsの取り組みもありますか?
北村さん:「Too Good To Go」という飲食店やスーパーのフードロスをレスキューできるデンマーク発のアプリがとても流行りました。商品はMagic Bagに入っていて、何が入っているかわからない状態で買うのですが、それも楽しくて。これを作るためにこれを買おうというお買い物の仕方から、これが入っていたからこれを作ってみよう、とおうち時間を楽しむきっかけにもなりました。デンマークの人はSDGsについて日常に落とし込んで楽しむのが上手なんだと思います。
taraさん:フードロス軽減のアプリは、日本でも最近増えてきました! 北村さんから見て、日本にはどんな課題があると思いますか?
北村さん:日本では、新しくて正しい情報が、みんなの興味を惹く形で発信されていないな、と感じています。どんな番組やニュースが見たいのか、市民がもっと声をあげていけばいいと思います。そしてひとりひとりができるとても大事なことは、「ただ受け取ることをやめる」ことではないでしょうか。リンネルの読者さんならすでに心掛けていることかもしれませんが、日々のお買い物でも、電力会社の選択も、これを選んだら未来がどうなるか、数多ある中で自分はなぜこれを選ぶのか、どういう作り方をしているのか、どんな会社なのか……ちょっと立ち止まって考えてみる。そして、どんどん声をあげていく。「お買い物は投票」という言葉もありますが、まさにその通りですよね。
お話を聞いて、taraさんが感じたこと
「どこか思想の根っこのようなものが似ている気がする日本と北欧の国々。親しみを覚えることも多い半面『エコ』に対する意識には大きな差を感じます。特にエネルギー問題は、気の遠くなるような長い道のりを予感させますが、小さな行動を積み重ねることで生まれた結果が今のロラン島であり、その“小さな行動”は、誰にでもできることばかりだと語ってくれた北村さんのお話に希望が持てました。自然に学び、生かされているという気持ちが国民の共通認識として存在するデンマークに学び、変容を受け入れる勇気とそこから生まれる選択に責任を持って行動することで、私たちも変わっていける、いや、変わっていかなければいけない! と、強く感じました」
教えてくれた
ニールセン北村朋子さん profile
話を聞いた taraさん profile
中に着たブラウス¥35,200、ボーダーTシャツ¥30,800/以上2点キン(マチュピチュ)、その他/本人私物
photograph:Miho Kakuta(tara), Tomoko Kitamura Nielsen(Lolland) text:Miho Arima web edit:Riho Abe
リンネル2021年12月号より
※画像・文章の無断転載はご遠慮ください
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