個性的な演技で人気のムロツヨシさん。初の主演映画では今までとはまったく違うお芝居をめざしたといいます。そこには彼の重い決意がありました。
- 出演作インタビュー
- 映画『マイ・ダディ』
- お話を伺ったのは……ムロツヨシさん
自分探しをする中で出会った新しい自分が体験する、演じるということ。
ムロツヨシさんの圧倒的な個性を世に知らしめたのは、2011年『勇者ヨシヒコ』シリーズなど福田雄一監督とタッグを組んだ作品の数々。「あのおもしろい人は何者?」と視聴者の目をくぎづけにし、次々と話題作に出演。今ではコメディに限らず、等身大の役柄でも人気を集めています。主演ドラマはいくつかありますが、意外にも主演映画は9月に公開される『マイ・ダディ』が初めて。
「飛行機の機内で脚本を読んで人目もはばからずに号泣してしまいまして、これほど感情を揺さぶられる作品ならば、ぜひとも出演したいと思いました。最初の脚本のよさを大事にしたいと強く感じていたので、役柄や構成などについても意見を通させていただきました。映画の初主演でそこまで関われることはあまりないと思いますが、だからこそ、やりがいがあるし責任も感じましたね」
ムロツヨシさんが扮する主人公・御堂一男は小さな教会の牧師で、ガソリンスタンドでのアルバイトを掛け持ちしながら、一人娘と穏やかに幸せに暮らしています。ところが、娘が白血病に侵され、ドナー検査をすると自分が本当の父親でないことが発覚。さまざまな思いを抱えながら娘のために愚直に奔走する男性の姿を、ときに痛々しく、ときにほほえましく、こまやかに演じています。
「僕は父親になったことはないですが、物語のなかで活かしていただけるならば、父親として生きてみたいと思いました。娘がいたとしたらという仮定ではなく、娘がいる状態として自分を置き換えて演じました。いい父親のふりの芝居、説明芝居だけはしたくなかったんです」
他の作品での濃くて個性的なお芝居に比べると、とても真っすぐでナチュラル。ムロツヨシさんと一男が重なり合って、なおのこと物語が感動的に映ります。実はその演技には、ある決意が秘められていました。
「過去の成功体験も失敗体験も一切使わずに、“役者ムロツヨシ”を一度捨てて“これからのムロツヨシ”としてゼロから作ったつもりです。この物語を生きるのは生半可なことではないですし、これまでの自分を捨てて臨むべきだと思わせる力がありましたから、ここからリスタートするぞという強い気持ちで取り組みました。今までは役に向き合うときには、必ず役のなかに自分のやりたいことを見つけて演じることを心掛けてきましたが、それを止めるときが来たなと。芝居に対して一番大事にしてきたところから決め直す時期だと感じています」
傍から見れば、順調にキャリアを積み重ね、まぶしいくらいに成功しているように思えますが、ご自身にしてみれば芝居への情熱はまだまだ不完全燃焼。ここから先に進むための原動力を探しているようです。
「5年前に想像していたときよりも、思いがけず仕事ができていると思います。だけど、自分にもうちょっと期待したい自分がいますね。見てくださる皆さんの期待に応えるだけじゃなくて勝てるくらいに、自分にもっと自分を楽しんでほしいというか。以前は仕事がほしい、お芝居で食べていきたいという野心がとてつもなく大きくて動き出す燃料になっていました。おかげさまで舞台が満席になったり、主演をさせていただいたり、ひとつひとつ叶っていくうちに野心も小さくなっていく。それでも野心が明確ならいいんですが、少しあいまいになっている気がしたんです。なので、次に進むためには、表現者としてお芝居をする、演じるということに自分の欲をもっと強めないといけないと。そのためには、今までの結果を捨てるぐらいの覚悟がないと、新しい目標や新しい期待を持てないんじゃないかと考えました」
重い決断を下すほどに自分を追い込むきっかけになったのは、コロナ禍での自粛生活だったといいます。本作も2020年4月からの撮影が12月まで延期になったそう。
「今まで当たり前にできたことができなくなってしまい、“芝居をする自分”に向き合う時間が増えました。おかげで、このままではダメだという結論に至ったわけですが、思った以上に自分と向き合ってしまったので、自分のよさを捨てすぎやしないかと怖がってもいます(笑)。そんなことを毎日フワフワと考えながら、模索しているところです」
そこから始まったのが“自分探し”。新しい自分と出会うためにさまざまな試みを行っています。
「在宅期間には毎朝インスタライブをやっていたのですが、誰かを元気づけるためではなく、本当に自分探しのためでした。エンターテインメントが止まったからといって立ち止まってしまったら、自分には何もないことを証明することに。あがくためには人前に立ち続けようと思いました。それから趣味はもともと少ないタイプなので、意識的に幅を広げるようにも。昔好きだった漫画を改めて読んだり、子どものころに夢中になった『ドラゴンクエストⅢ』をやろうとテレビゲームをもう一度買いました。アクションやレース、サッカーなどソフトもそろえましたが、操作性がよすぎてうまくできず(笑)。今ではすっかりオブジェになっています」
新たに経験するさまざまなことを糧に、ムロツヨシさん自身がどのような自分と出会い、見出していくのか楽しみなところ。「過去の成功体験とは違う選択肢を提示できるようになりたい」と新たな野心はすでに燃え始めているようです。
映画『マイ・ダディ』
監督:金井純一/脚本:及川真実、金井純一/出演:ムロツヨシ、奈緒、毎熊克哉、中田乃愛、臼田あさ美、徳井健太(平成ノブシコブシ)、永野宗典、光石研/配給:イオンエンターテイメント/全国ロードショー
小さな教会の牧師・御堂一男は、中学生になる一人娘とふたり暮らし。一男はやさしくて、おもしろくて、お人よしで、誠実な人。8年前に最愛の妻を亡くしてから、娘とふたりで穏やかな日々を送っている。牧師として慕われ、アルバイトの職場でも頼りにされ、娘は思春期に突入し難しいお年ごろながら素直に育ち、一男は幸せだった。娘が白血病に侵されるまでは……。さらに信じがたい事実に翻弄されながら、娘を救おうと一男は奔走する。
©2021「マイ・ダディ」製作委員会
お話を伺ったのは……ムロツヨシさん
PROFILE
むろ・つよし/1976年生まれ、神奈川県出身。99年に作・演出を行った舞台で活動開始。現在はドラマ、映画、舞台など幅広く活躍。2008年から始めた自身のプロデュース舞台「muro式.」では脚本・演出を手掛け、自らも出演する。近作に、現在放送中のドラマ「ハコヅメ~たたかう!交番女子~」(21)、ドラマ「大恋愛~僕を忘れる君と」(18)、「親バカ青春白書」(20)、映画『最高の人生の見つけ方』(19)、『新解釈・三國志』(20)、舞台「恋のヴェネチア狂騒曲」(19)など。待機作に映画「川っぺりムコリッタ」(21年11月公開予定)。
上白石萌歌さんインタビュー 映画や音楽に救われた10代、今度はその恩返しをしたい
photograph:Masahiro Tamura styling:Masayo Morikawa(FACTORY1994) hair & make-up:Maki Ikeda text:Harumi Yasuda web edit & text:Masako Serizawa
※画像・文章の無断転載はご遠慮ください
Latest News
CULTURE
-
【映画『コール・ミー・ダンサー』インタビュー】 親子でぜひ観たい、インド人ダンサー、マニーシュ・チャウハンさんが夢を追いかけ続ける姿 【映画『コール・ミー・ダンサー』インタビュー】 親子でぜひ観たい、インド人ダンサー、マニーシュ・チャウハンさんが夢を追いかけ続ける姿
-
秦 基博さん「さまざまな軽やかさ・奥深さに触れられた1年でした」/アルバム『HATA EXPO -The Collaboration Album-』インタビュー 秦 基博さん「さまざまな軽やかさ・奥深さに触れられた1年でした」/アルバム『HATA EXPO -The Collaboration Album-』インタビュー
-
【モネ 睡蓮のとき 開催中!】 展覧会アンバサダーの石田ゆり子さんが語る、モネの魅力 【モネ 睡蓮のとき 開催中!】 展覧会アンバサダーの石田ゆり子さんが語る、モネの魅力
リンネル最新号&付録
2025年1月号
暮らしの道具大賞2024
- 付録
- marble SUD[マーブルシュッド]
ボアバッグ&
リング付きちょうちょ柄丸ポーチ
特別価格:1,520円(税込) / 表紙:上白石萌音 /
2024年11月20日(水)発売 ※一部の地域では発売日が異なります