CULTURE

俳優 林 遣都さん 喜んでくれる人が一人でもいる限り芝居をやり続けたい 俳優 林 遣都さん 喜んでくれる人が一人でもいる限り芝居をやり続けたい

2007年のデビュー以来、出演作が切れない林 遣都さん。等身大の男性からクセの強い人物まで演じ切るパワーは、どこから生まれるのでしょう。

目次
俳優 林 遣都さん 喜んでくれる人が一人でもいる限り芝居をやり続けたい
  1. 出演作インタビュー
  2. 出演作『恋する寄生虫』
  3. お話を伺ったのは……林 遣都さん

自分を労わったり、人に頼ったりすることが
大切だと気づかせてくれる作品

ーーどんな役にもするりとなじんでしまう抜群の演技力で出演作が切れない林遣都さん。キャリアを積み重ねるなかでコロナ禍を経験し、仕事への思いを新たにしたといいます。

「芝居をすることで喜んでくれる人が一人でもいるならやり続けたいと思えるようになりました。誰かを元気づけたり、救いになる可能性を秘めた仕事をするのは誇らしいことだなと。自分はもともと人前に立つのが苦手な人間なので、本当は向いていないんじゃないかと悩むこともありました。だけど逆に芝居に夢中になっている自分もいて、相反する気持ちを共存させながら仕事と向き合ってきました。俳優は強い精神力が求められるし、恐ろしい仕事だと感じながらなお続けたいと思えるのは、人の役に立てる可能性があるとコロナ禍を経て改めて考えられたからです」

ーー順風満帆の俳優人生のように見えて、心の内には葛藤を抱えていたことに驚かされます。そんな林さんにとってふたつの転機があったと話します。ひとつは2016年にNetflixで配信され、2017年には連続ドラマとして、NHKでも放映された『火花』。又吉直樹さんの原作をもとにした作品で、売れない芸人・徳永役で主演を務めました。

「俳優を始めて10年目だったのですが、演出の廣木隆一監督との出会いが大きかったです。自分にしみついていた余計なものをそぎ落としてもらって、芝居に対する感覚が大きく変わりました」

ーーもうひとつは大ブームを巻き起こしたドラマシリーズ『おっさんずラブ』(テレビ朝日)。シーズン1で主人公に思いを寄せるエリートサラリーマン・牧 凌太を演じ、新境地を開拓。健気な姿が話題と人気を集めました。

「たくさんの方に見ていただいて、自分を知ってもらうきっかけになりました。『おっさんずラブ』から応援してくださっている方も多いので、とても感謝している作品です」

ーー公開中の映画『恋する寄生虫』もまた記憶に残る出演作になりそうです。新鋭作家・三秋 縋さんの同名小説が原案で、小松菜奈さんとのダブル主演。不安症状も恋心も脳に寄生する〝虫〞が原因という設定で、二人が運命と“虫”の狭間を揺れ動くロマンティックなラブストーリー。

「ファンタジー要素を含む恋愛作品は今まで通ってきていないジャンルなので、柿本監督と小松さんと一緒ならぜひ挑戦してみたいと思いました。原案を読んだときには発想がおもしろくて物語の世界に没入してしまいました。でも、この世界観を生身の人間で作り上げていく難しさを想像したら、ワクワク感はすぐに消えてしまいましたけど(笑)」

ーー林さん演じる高坂は極度の潔癖症で人とかかわることができない青年。ひとクセもふたクセもある役どころですが、本当に存在しているかのようなリアリティのある演技を披露しています。それは丁寧な役作りによって紡ぎ出されたものでした。

「自分は大雑把でどこでも寝られますし、誰が作ったものでも食べられるタイプで、高坂とは真逆です(笑)。自分自身とかけ離れた、まったく違う環境で育ってきた人物だからこそ、お芝居の底に説得力が出るようにしなくてはと思って臨みました。現場のスタッフの方に潔癖症の方がいたので、実際に話を聞いてしっかり意見を取り入れながら作っていきました。役に向き合うときはいつも変わらず、背景などを調べたり、気持ちの面で準備したり、一人の人間を大切に作り込んでいくようにしています」

ーーメガホンをとる柿本ケンサク監督は、幾多のCMやミュージックビデオをはじめ、大河ドラマ『青天を衝け』のタイトルバック映像の制作も手掛ける鬼才。本作のファンタジックな世界をおしゃれに描いています。その演出方法も独特だったそうです。

「キャストやスタッフの方とセッションしながらみんなで作っていく一体感がありました。時間をかけて話しながら役や作品のことを突き詰めて、アイデアを出し合いながら同じ方向に向かっていく感じ。柿本監督は発想力が普通の次元とは違うところにあって、演出も感性的でした。特に印象に残っているのは、後半、高坂の家に押し掛けてきた佐薙を抱きしめるシーンで『時間も決まりごとも何もないので、二人が肌と肌を重ねて感じるものを大切にしてパッションを見せてください』という演出があり、おもしろいなと感じました」

ーーさらに、今の時代と重なって考えさせられることが多く、ラブストーリーを超えたインパクトがあるとも。

「撮影はコロナ禍の直前だったので意識していなかったのですが、結果的に今の時代にすごく響く作品になったように思います。世の中に不満や恐怖、疲弊感を抱いていて、生き辛さを感じている人は、心に負荷をかけながらどうにか克服しようとあがいてしまうけれど、あまり無理せずに自分を労わったり、人に頼ったりすることがすごく大切だと気づかせてくれる。そんなメッセージを受け取ってもらえたら嬉しいです」

ーー二人に宿る虫と恋心がどんな結末を迎えるのかは圧巻の映像美とともにぜひ映画館で見届けていただきたいところですが、最後に林さんにも“虫”がいるか聞いてみました。

「感情はもっと繊細なものだから、高坂と同じように虫なんかに左右されてたまるかと思っていました(笑)。だけど、コロナでウイルスと免疫の関係や精神が免疫に与える影響などを少し知ったことで“ない”とも言い切れないなと。何より、早く終息してほしいです」

出演作『恋する寄生虫』

監督:柿本ケンサク/脚本:山室有紀子/原案:三秋 縋『恋する寄生虫』(メディアワークス文庫/KADOKAWA刊)
出演:林 遣都、小松菜奈、井浦 新、石橋 凌/11月12日(金)より全国ロードショー

極度の潔癖症の青年・高坂賢吾(林遣都)は、見知らぬ男から視線恐怖症で不登校の高校生・佐薙ひじり(小松菜奈)と友だちになって面倒を見てほしいという依頼を受ける。露悪的な態度の佐薙に辟易していた高坂だが、弱さを隠すためだと気づき共感を抱くようになる。孤独な二人はやがて惹かれ合い恋に落ちていくが、それは運命か、偶然か、それとも虫の仕業か―― 異色のラブストーリーが幕を開ける。

お話を伺ったのは……林 遣都さん

PROFILE
はやし・けんと/1990年12月6日生まれ。滋賀県大津市出身。2007年映画『バッテリー』に主演し俳優デビュー。同作で日本アカデミー賞、キネマ旬報ベスト・テンなど数々の新人賞を獲得。2018年ドラマ『おっさんずラブ』(テレビ朝日)、2019年大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺~』(NHK)、朝の連続テレビ小説『スカーレット』(NHK)他で存在感を放つ。今年の出演作に主演映画『犬部!』、映画『護られなかった者たちへ』、舞台『友達』(シス・カンパニー)など。

photograph:Chihaya Kaminokawa styling:Yohnosuke Kikuchi hair & make-up:Miki Nushiro(GUILD MANAGEMENT)  text:Harumi Yasuda web edit:Masako Serizawa

※写真・文章の無断転載はご遠慮ください
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