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:世界のユニークな人形劇が集結!【第二回下北沢国際人形劇祭開催】「孤独な子育て期を救ってくれた海外の人形劇を日本にも」人形劇研究者 山口遥子さんインタビュー
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「人形劇」と聞くと、多くの方が「ああ〜小さい頃に観た」と、ぬいぐるみのような人形が単調な動きを繰り広げるものを思い浮かべるかもしれません。
でも2月に開催される「第二回下北沢国際人形劇祭」に集うパフォーマンスはどれも、新鮮さに満ちた刺激的なものばかり! ベルギー、チリ、スロベニア、フランス、アルゼンチン、チェコ、ドイツ、イギリスといった世界各地から、魔法を見るような超絶技巧、シャレたユーモア精神、創造性あふれた尖った表現、大人の鑑賞に耐えうる奥深いテーマを内包した、人形劇の概念を覆すパフォーマーが下北沢に大集結。
このユニークなフェスティバルの仕掛け人である、人形劇研究者の山口遥子さんに人形劇の魅力について、下北沢国際人形劇祭の見どころをたっぷり聞いてみました。
人形劇を「観る」側から「企画する」側へ

もともとは、哲学の研究者だった山口遥子さん
山口さんが人形劇の魅力を知ったのは、当時、孤独な気持ちを抱えていた子育て中だったと話します。
「もともとは哲学が専門だったんです。でも子どもが生まれて初めて、日本では子連れで芸術に触れられる場所が少ないことに気がつきました。なので研究でベルリンに行き、街のあらゆるところで人形劇が観られることにびっくりしたんです。子育てで疲れていたこともあり、ものすごく芸術を欲していましたし、心が慰められました。ドイツの哲学者であるヴァルター・ベンヤミンも『人形劇が好きなのに哲学者ではないという人がいるだろうか?』なんて不思議な言葉を残していて、『ほんとか?』と思いつつ(笑)、実は昔から気にはなっていたんですよね。こうしていろいろなことが重なって、研究対象が人形劇にも広がっていきました」
そんな時期の数少ない貴重なオアシスだった「こどもの城(かつて渋谷にあった国立総合児童センター)」の閉館(2015年)も、山口さんの心に火をつけた出来事の一つ。
「閉館は大きなショックでした。こどもの城の職員は専門家揃いで、児童芸術のシンクタンクのような機能を持つ素晴らしい施設でしたから。あの素晴らしさを伝えるために、もと職員の方々や、文化行政の専門家を呼んでシンポジウムを開催したら、口コミでものすごい数の方が足を運んでくださった。論文を書くだけではなく、『芸術は社会とかかわっていくべきだ』と考えたきっかけです」

この山口さんのエネルギッシュな行動力とマインドはやがて、「第一回下北沢国際人形劇祭」に向かいました。
「私が研究対象としている海外の人形劇は、あまりにも日本に知られていません。人々が観たことがないものにかんして論文を書いていても仕方がないじゃないですか(笑)。何百年もの歴史を持ち、陽の当たらないところで培われてきたスピリット、実は文化の起点をつくっているこの人形劇の厚みとすごさをお見せしたいんです」
2024年の第一回目は、どの公演も大盛況。新しい表現に出合った喜びと驚きの声に溢れていました。そして2月に迎える第二回目。なんせ専門家が「人形劇史に残る作品だけを呼びました」と太鼓判を押す、ワールドワイドな人形劇の最前線。アツい……アツすぎる! この貴重な機会を、どうぞお見逃しなく。
第二回下北沢国際人形劇祭の
注目プログラム7作品をチェック!
いち研究者の視点のみならず、純粋な観客として、そして子どもを育てる母親として、若者たちの未来を考える人間として、芸術とは何かを考えたい――
ここでは、多角的にプログラムを組み立てた山口さんのコメントを織り交ぜながら演目を紹介します。メインプログラムは全部で8団体(一部2本立て上演)。等身大の人形を操る芝居、オブジェクト・シアター(人形の代わりに日用品や抽象的なオブジェなどを使用)、テーブルトップ・パペット(卓上で演じる小さな人形劇)、影絵、糸操り人形劇などさまざまな技術が一挙に見られる、バラエティに富んだプログラム立てになっています。
子どもと大人のための無料公演や、トークなどの関連イベントも盛りだくさん。フェスティバルセンター&BARには美味しい食べ物や飲み物も用意されています。
#エクストリーム・ソロ芝居
『かもめ』
Compagnie Tchaïka(カンパニー・チャイカ)
チリ/ベルギー

ロシアの劇作家チェーホフの『かもめ』をモチーフにした、演劇好きも楽しめる人形劇。
「チリの天才人形劇俳優が、全役を演じ分ける技術も素晴らしいですし、老いとは、記憶とは、芸術とは……といった、深いものに触れる重厚な観劇体験になるはず。ヨーロッパの人形劇フェスティバルで評判になった重要な作品の一つです」
#プラハのクールキッズによる
東京のクールキッズのための人形劇
『EXIT』
DAMUZA + Fekete Seretlek (ダムーザ + フェケテ・セレトレク)
チェコ/スロベニア

生演奏の音楽に彩られた物語、観客巻き込み型の心躍る作品で、第一回下北沢国際人形劇祭で話題となった集団が再来日!
「前回はトルストイの『アンナ・カレーニナ』をモチーフにしたオブジェクト・キャバレーでしたが、今回はアンデルセン物語。ライブ演奏のフォーク・エレクトロニカに、オブジェクトの音と動きが絡み合う、圧倒的な人形劇です」
#ブエノスアイレスの路上から
『KAZU』
Compagnie Singe Diesel (カンパニー・サンジュ・ディーゼル)
アルゼンチン/フランス

人形劇だけがつくり出すことができるマジック・リアリズム。
「ブエノスアイレスの小劇場を営む家に生まれ育ったカリスマ的人形遣いが、20体の人形をたった一人で操りながら語りかける物語。詩的で温かくて美しい作品です」
#オオカミ目線のライブビデオ
『白い牙』
Divadlo Drak (ドラク劇場)
チェコ

チェコ人形劇界をリードする名門の一つ、ドラク劇場の作品。
「役者も素晴らしく、手持ちのカメラライブ映像の使い方も秀逸。ジャック・ロンドン『白い牙』をスピーディかつ詩的にまとめ上げ、チェコのあらゆる演劇賞を取りました。本物の雪を用意しないといけなくて、現在、埼玉の人工スキー場と交渉中です(笑)」
#影絵技術の最高峰
『シャッテンヴェルファー:「もの」のかげやさん』
Tangram Kollektiv (タングラム・コレクティブ)
ドイツ/フランス
『シャドウグラフィー:「て」のかげやさん』
Drew Colby (ドリュー・コルビー)
イギリス
ドイツとイギリスのカンパニーを一度に見られる二本立て公演。
「影絵の最前線をご覧いただけます。画期的な技術とアイデアに満ちたドイツの若いカンパニーと、これぞエンターテイナー、“影絵うますぎおじさん”による口が開きっぱなしの40分間です」
#手に汗にぎるレストラン
『危険な関係』『インベーダー』
Compagnie Bakélite(カンパニー・バケリット)
フランス

フランスのオブジェクトシアター界をリードするカンパニーによる、爆笑二本立て。
「80年代にフランスで生まれたオブジェクトシアターの第一世代が今再び脚光を浴びていて、彼らに直接学んだ次世代のアーティストですね。主演は素晴らしい喜劇役者でもあって、佇まい自体が面白い。不運な状況がとっても似合うんです(笑)」
#チェコ人形的沼の入り口
『ファウスト博士』『ドン・ファン』
Divadlo Alfa (アルファ劇場)
チェコ

チェコを代表する公立人形劇場、トップランナーの一つであるアルファ劇場による公演。
「舞台や人形造形のインパクト、内容の面白さ、作品の奥行きなど、チェコのみならず、ヨーロッパにおける重要な人形劇カンパニーの公演です。ヤン・シュヴァンクマイエルの映画がお好きな方はぜひ」
公演情報

第二回下北沢国際人形劇祭
ベルギー、スロベニア、フランス、チェコ、ドイツ、イギリスといった世界各地から、魔法を見るような超絶技巧、シャレたユーモア精神、創造性あふれた尖った表現、大人の鑑賞に耐えうる奥深いテーマを内包した、人形劇の概念を覆すパフォーマーが下北沢に大集結。今最も面白い人形劇をまとめて観ることができる7日間です。
2026年2月17日(火)~23日(月・祝)
会場:ザ・スズナリ、下北沢アレイホール、BONUS TRACK、下北沢Club251
チケット(全席自由・税込):一般¥4,200、U-30(30歳以下)¥2,000
お問い合わせ先: ticket@sipf.jp
PROFILE

やまぐち・ようこ
人形劇研究者。博士(美術)。JSPS海外特別研究員としてドレスデン国立美術館に在籍し、ヨーロッパを中心とした現代人形劇論、および日本現代人形劇史を研究。NPO法人Deku Art Forum理事長。2025年に開催された舞台芸術祭「秋の隕石」ではオブジェクト・シアターのキュレーションを手がけた。「下北沢国際人形劇祭」では企画統括を担当。
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text : Fumiko Kawazoe
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