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【内田彩仍さん連載:明日もいい日になりますように】 「第16回 始まりの季節を花とともに」 【内田彩仍さん連載:明日もいい日になりますように】 「第16回 始まりの季節を花とともに」

内田 彩仍
連載 #明日もいい日になりますように

丁寧な暮らしぶりやセンス溢れる素敵な着こなしで人気を集める内田彩仍さん。日々のなかで内田さんが見つけた小さな幸せや、暮らしの工夫をお届けします。新生活が始まる4月。年に一度の桜の季節を内田さんはどのように楽しんでいたのでしょうか。「明日もいい日になりそう」と、皆さまが穏やかに前を向けますように。

内田彩仍さん Profile

内田彩仍さん
福岡県在住。夫と愛猫そらと暮らす。雑誌などで紹介される丁寧でセンスのある暮らしぶりが人気。 『内田彩仍さんと作った 白のキャンバストートバッグBOOK』(宝島社)、『幸せな心持ち』(主婦と生活社)など著書多数。 新刊『変えること変わらないこと: 人生後半を機嫌よく過ごせるよう見直した毎日の暮らし』(主婦と生活社)が発売中。

桜の花が散り、葉桜の時季となりました。皆さまいかがお過ごしでしょうか。
家の前が桜並木なのですが、今年は秋から冬にかけて雨が多かったせいか、ここに越してきて一番の桜を見ることができました。
咲き始めた頃、急に暖かくなったので蕾から満開までがあっという間。それでも、2階のリビングの窓から見る桜は、手を伸ばせば届きそうなほどに咲き溢れて。淡いピンクの花びらを愛でながら、友人とおやつを持ち寄ってリビングで花見をしたり、夫と窓辺のカウンターで桜を見ながらお茶をしたり。年に一度の花時間を満喫しながら、幸せな気分になりました。

その後、はらはらと花びらが舞うようになり、窓越しに桜吹雪を「きれいだなあ」と眺めていたら、玄関先のどこもかしこも桜の花びらを敷き詰めたように。落ちた直後はきれいなのですが、すぐに茶枯れして地面やタイルにくっついて取れなくなってしまうから、この時季は掃き掃除が日課になります。

やっと掃き終えたと思ってもまた散るので、掃いても掃いても終わらない(笑)。年に数日のことなので、本当に面倒だけれどこれもよしとして掃きながら、来年の桜を楽しみにしようと思います。

桜が終わる頃になると、わが家の庭が賑やかになります。玄関先の通り庭の白山吹が咲いたり、アジュガが紫色の花をつけたり。近くの公園の藤棚の藤も今年はたわわに咲いて見惚れてしまうほど。日に何度も外へ出ては庭を眺め、ちょっと散歩がてら藤を見に公園へ。近所の方から「この人何してるんだろう」と思われやしないかとちょっとためらいながらも、つい外に出てうろうろ、うろうろ。庭先に立ってぼーっと眺めている日もあって、「本当にこの時季の庭が好きだなあ」と毎年思います。

4月といえば、新しいことが始まる季節。入学したり就職したり、転勤されたりしてこれまでとは違う新たな道に進まれる方も多いのではないでしょうか。
私は4月と聞くと、新しい出会いや出来事にわくわくしたり、楽しみが増えたり。何かに期待するような前向きな気持ちはもちろんあるけれど、ちょっとした不安や憂鬱さもある。そんな月のように感じます。

就職したての頃は、仕事のやり方がよくわからなくて焦ってしまい、家に帰ってからも寝られないくらい落ち込むことがありました。
地元でスタイリストをしていたときは、新年度、担当の方が入れ替わってまだ馴染めていないなか、戸惑いながらもいい感じになるようにと懸命に作業することも。
本づくりでも、形にするべく撮影が本格化するのが毎年4月。新たなスタッフの方々と仕事をする際には、緊張しながらもいいものになるよう、話し合いながら進めています。どんなときも、より良いものになるよう願いながら自分に期待するのと不安は背中合わせで、もともと人見知りで不慣れな状態に弱いので、ちょっと憂鬱に感じる日もあるのです。
それでも、月日が経つと、いろんな経験をしながら慣れてきて楽しくなったり、人との会話も「こんな伝え方でいいのだろうか」と初めは探り探り話していたのが、すんなりと会話できるようになったり。時間薬というか、不安に思っていたことも段々薄れていく気がします。

先日のこと、今年発売予定の本でご一緒している編集の方と話しながら、初めてお会いした頃の話になりました。
遡ること19年。私の一冊目の本を見てご連絡をくださって、雑誌で二度ほどご一緒したのち、本のお話をいただくことに。「本当に作れるだろうか」とあれこれ迷っている私の背中を、丁寧な企画書で押してくれました。
当時を懐かしく思い返しながら、初めのうちはお互い手探りで進んでいたなあと(笑)。まだ私も本作り自体に慣れていなくて、今よりもっと不安や憂鬱が押し寄せていたと思います。
それでも、そんなことはとっくに忘れてしまっていて、笑い合いながら「楽しい記憶しかないですね」と話しました。暗闇の中のような不安な気持ちも、楽しいことで上書きされると、ダメなことはすっかり忘れてしまう。人間の脳はよくできているなあと感じます。

4月初めに購入した蘭を木製の花器にしつらえて玄関先に。生花店でどれにしようかと迷っていると「蘭は葉が命」と教わって、葉が肉厚でピンとしたものを選びました。この蘭の葉のようにいつもしゃんとして動じない人になれたらうれしいと思います。
5月は久しぶりの東京出張。初めての方との仕事なので、ちょっと緊張しそうです(笑)。
弱い自分も受け入れて楽しみながら暮らしつつ、皆さまも私も明日もいい日になりますように。

ほかの記事も見る>>>内田彩仍さん連載:明日もいい日になりますように



photograph: Kyoko Omori text: Ayano Uchida
※ 画像・文章の無断転載はご遠慮ください

エッセイスト・スタイリスト

福岡県在住。夫と愛猫そらと暮らす。雑誌などで紹介される丁寧でセンスのある暮らしぶりが人気。 『内田彩仍さんと作った 白のキャンバストートバッグBOOK』(宝島社)、『幸せな心持ち』(主婦と生活社)など著書多数。 新刊『衣食住、暮らしに寄り添うもの選び』(集英社)が10月25日に発売。
リンネル.jpでは、日々の中で見つけた小さな幸せを綴る「明日もいい日になりますように」を連載中。

連載 明日もいい日になりますように

内田 彩仍

連載 #明日もいい日になりますように

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