麻生久美子さんが尊敬する松尾スズキさんと対談! 「自分なりに演じていいんだと背中を押していただきました」 麻生久美子さんが尊敬する松尾スズキさんと対談! 「自分なりに演じていいんだと背中を押していただきました」
大人計画の「ドライブイン カリフォルニア」に出演する女優の麻生久美子さん。久しぶりの舞台に緊張が高まるなか、脚本・演出の松尾スズキさんとの待望の対談が実現しました。
“麻生さんは真面目な顔の裏に
バカバカしさを抱えてるよね(松尾さん)”
麻生: 松尾さんに初めてお会いしたのは、2007年の『帰ってきた時効警察』で俳優として出られたときだったんですが、「ブス」って言われてテンションが上がったのを覚えてます(笑)。今でも声のトーンや言い方を頭の中で再現できます。
松尾: あはは。あの頃、突然「ブス」って言うのにハマってたんですよ。どの現場でも言ってました。
麻生: あんまり口数は多くないほうですか? それとも私にだけ?
松尾: 時と場合によります。それに、お会いするのはだいたい仕事中だし。僕としては一生懸命喋ってるつもりだったんだけど。
麻生: えぇっ! そうなんですか。嫌われているのかもしれないと、余計なことを考えてました(笑)。
松尾: 嫌ってはいないですよ(笑)。
麻生: よかった~。ひと安心です。
松尾: 麻生さんはすごく明るい人ですよね。2019年のミュージカル『キレイ―神様と待ち合わせした女―』と昨年のWOWOWのドラマ『松尾スズキと30分の女優』に出てくれたときも助かりました。
麻生: 本当に!?
松尾: 演出をつけるときにはムチャぶりすることも結構多いんですけど、普通なら「これは一回持ち帰らせてください」と言われそうなところも、迷いがゼロ秒。『30分の女優』のややこしい台詞もちゃんと言ってくれましたよね。
麻生: あのドラマは松尾さんの脚本と演出を気楽に楽しもうと思っていたのに、すごい台詞の量でひーってなりながら必死に覚えました。だから、あまり余裕はなかったけど楽しかったです。
松尾: 最初にご一緒した『キレイ』は心に闇を抱えている女性の役で、麻生さんが本来持ってるバカバカしさを引き出せなかったんです。だから、『30分の女優』では持ち味を生かしたいなと。真面目な顔してくだらないことを言えるって、できそうでできないことだから。
麻生: やったー! 褒められました。当て書きだったので台詞がしっくりきて、お芝居しながら私のために書いてくださったんだなって実感しました。言ってて恥ずかしくなるような台詞もあったけど。
松尾: そう? 恥ずかしい台詞は言わせてないよ(笑)。『時効警察』をはじめ三木聡さんの作品で鍛えられているから、意味がまったくわからなくても台詞を言えるんですよ。僕ら、ナンセンスを作っている人間からすると、センスを問われても困るときがある。意味がなくてもおもしろいということに拒絶反応が起きる場合もあって、「これはどういう気持ちで言うんですか?」って聞かれることも。だけど麻生さんは、まるでないじゃないですか。
麻生: いいのかなと思うこともあるけど、確かにまるでない(笑)。
松尾: 大人計画はコントから始まった劇団なので、その場の笑いが成立すればいいんです。キャラクターがついていればもっといいというくらいで、一般的な演劇とは作り方が違う。だから、ただ“台詞を言う”ことが大事なんです。
“舞台への不安とトラウマから
救ってくれた恩人です(麻生さん)”
麻生: なるほど、勉強になります。実は『キレイ』は私にとって大切な作品なんです。舞台に苦手意識があって不安で仕方なかったんですけど、『キレイ』は稽古も本番も楽しくて、千秋楽まで無事に終わったときはホッとできました。みなさんには当たり前のことなのかもしれないけど、私にとっては大きな経験でした。おかげでトラウマが消えて次に一歩進めたなという手応えがありましたね。
松尾: 麻生さんはいつもゲラゲラ笑ってたから、そんなふうに思ってたとは気づかなかった。
麻生: 松尾さんのおかげです。
松尾: 僕は何もしてないよ。
麻生: やさしいですよ。乱れたりもせず、淡々と演出されるのにおもしろいし。役に集中してお芝居できるのはなんて幸せなんだろうって。
松尾: 昔はピリつくこともあったけど、ピリついてもピリつかなくてもさほど公演の出来は変わらないんです。なら、ピリつかないほうが楽しくできていいよねって。
麻生: やっぱりやさしい~。『ドライブイン カリフォルニア』も松尾さんの舞台だから出たかったんです。
松尾: ありがとうございます。麻生さんが演じるのは悲しみを背負った女性で、悲劇的にしようと思えばいくらでもできる役なんです。そうではないところを目指したいので、麻生さんなら悲劇を演じてもどこかファニーさのある感じになったらいいなと。裏側にはバカバカしさを抱えていらっしゃいますけど、やろうと思えばしっとりもできる方だから。
麻生: (笑)。久しぶりの再演になりますけど、役者はどう映っているんですか? イメージとちょっと違うなと思ったり……、本当に、私で大丈夫なんでしょうか?
松尾: 大丈夫ですよ。その人にはその人の味があるし、演出家の目の前にいる俳優は次々変わっていくもの。今まで、はっちゃけた役が得意だった俳優も年齢とともに変わるから、それをどう受け入れていくかということだけです。それに、同じ台本でもこれくらい変えられるんだと証明することが演出家の醍醐味でもあるから。映画と違って、脚本があればいろんなアプローチができるのが演劇の強みじゃないかな。
麻生: 全然違う解釈で演じたらどうなるんだろうって妄想すると怖いけど、がんばってチャレンジしてみます。違っていたらきっと松尾さんが導いてくださるはず! 個人的には星野源さんが作曲された劇中歌を歌うのも楽しみです(笑)
今回の麻生さんの会いたいヒト
松尾スズキさんPROFILE
1962年12月15日生まれ。福岡県出身。作家、演出家、俳優。1988年に「大人計画」を旗揚げ。2020年よりBunkamuraシアターコクーン芸術監督に就任。
対談を終えて......
【麻生的感想文】
『ドライブイン カリフォルニア』は初演と再演が素晴らしくて、大きなプレッシャーがありますが、松尾さんのお話を聞いてヒントをもらえました。自分なりに演じていいんだと背中を押していただきましたし、嫌われていないとわかったのもよかったです(笑)。みなさん、ぜひ見に来てくださいね♪
【PROFILE】
女優。ドラマ、舞台で幅広く活躍。今年の出演作に映画『とんび』、待機作に『はい、泳げません』(6月公開予定)など。
麻生久美子さん出演
日本総合悲劇協会VOL.7『ドライブイン カリフォルニア』
1996年の初演、2004年の再演から18年ぶりにキャストを一新して上演される、松尾スズキによる不朽の傑作悲劇。とある田舎のドライブインを舞台に、人生の悲喜こもごもが入り交じり、生きていくことの悲しさ、可笑しみを誘う、切なく愛おしい大人たちの葬送曲(レクイエム)。
INFORMATION:
作・演出:松尾スズキ/出演:阿部サダヲ、麻生久美子、皆川猿時、猫背 椿、小松和重、村杉蝉之介、田村たがめ、川上友里、河合優実、東野良平、谷原章介
【東京公演】公演中~6月26日(日) 本多劇場 前売発売中
【大阪公演】2022年6月29日(水)~7月10日(日) サンケイホールブリーゼ 発売中
お問い合わせ:大人計画 03-3327-4312(平日11:00~19:00)
【公式HP】 https://otonakeikaku.net/stage/2191
【企画・製作】大人計画(有)モチロン
photograph:Ryoko Amano styling:Nami Kagiyama(Kumiko Aso),Tomoko Yasuno(Suzuki Matsuo) hair & make-up:Yumi Narai text:Harumi Yasuda web edit:Masako Serizawa
リンネル2022年6月号より
※画像・文章の無断転載はご遠慮ください
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