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:【映画『キノ・ライカ 小さな町の映画館』】 共同経営者のミカ・ラッティさんが語る、アキ・カウリスマキ監督とフィンランド・カルッキラ
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フィンランドの自然豊かな小さな町・カルッキラに、映画監督のアキ・カウリスマキを中心に作られた初めての映画館「キノ・ライカ」。
その開館に至るまでを追ったドキュメンタリー映画『キノ・ライカ 小さな町の映画館』が、現在公開中です。
アキ監督と共に映画館を共同経営する、ミカ・ラッティさんにカルッキラの町の魅力や、現在のキノ・ライカについて、たっぷりお話を伺いました。
ミカ・ラッティさん profile
カルッキラ在住の作家・詩人でありキノ・ライカの共同経営者。キノ・ ライカを始める以前はアキ・カウリスマキとともに自主上映サークル 「キノ・イグルー」を運営していた。
初めての映画館が誕生した町、カルッキラ

工場跡に作られた「キノ・ライカ」。© 43eParallele
「キノ・ライカ」が誕生したのは、フィンランドのヘルシンキから車で約1時間の場所に位置する、鉄鋼の町カルッキラ。劇中にもここに暮らす人々がたくさん登場します。今回お話を聞いた、作家のミカ・ラッティさんもその一人。
「人口は9000人ほどの、200年以上の歴史を持つ今でも稼働する鋳物工場を中心に発展した、工業と産業、自然と文化がある町です。首都へのアクセスもよく、実際にヘルシンキまで通勤している人も結構います。ヘルシンキと比べると人が少ないということもありますが、プロジェクトを実現しやすい、物事がうまく進みやすいというのはいえるかなと思います」

アキ・カウリスマキ監督と写る、ミカ・ラッティさん(左)。
家族と20年、カルッキラに暮らしているというミカさん。アキ監督も35年以上この町に暮らしているそう。
「アキとカルッキラで、『Kino Iglu(キノ・イグルー)』という映画サークルを運営していて、ここ10年ほどは理事長をしていました。35mmフィルムの映写機で映画を上映したり、プレゼンターやゲストを呼んでイベントをしたり。そこでアキと友達になりました」
芸術家が多く暮らすというカルッキラ。映画館ができたことで移住してきた人もいるのだとか。
「キノ・ライカができたことで、カルッキラの町に文化に触れるものが増え、ポジティブに変わったと実感するときがあります。映画を見にきたり、バーに集まったり、ゆったりとした生活をする人も出てきています。アキが言うには、“ヘルシンキはカルッキラの港”だと。映画の中でも言っていますが、カルッキラの町に何かしてあげたいという気持ちがあり、映画館を作ることによって恩返しができるのではという思いはありました」

カルッキラは森と湖のある、自然豊かな小さな町。右に写るのは、『希望のかなた』『枯れ葉』に出演した女優のヌップ・コイヴさん。© 43eParallele
発案から開館までわずか半年! みんなで作った映画館

実際に手を動かして映画館を作っていたアキ監督。© 43eParallele
映画館のアイデアがスタートしたのは、2021年の春のこと。6月には工事を始めて、オープンしたのは同年の10月8日でした。
「映画にも登場するペペ・トイッカさんが、キノ・ライカの入居する建物のオーナーになり、そのときずっと空き家だったこの建物をどうしようという話が出て。私が“もしかしたら映画館にいいのでは?”と話すと、ペペさんが直接ポルトガルのアキに電話して(アキ監督は冬の寒い時期はポルトガル在住)。2週間後、春になりアキが戻ってくるタイミングで、作ろうとすぐ決まりました。翌日には私が“バーがあったらいいね”と話すと、じゃあバーも、とどんどん話が進んで。アキが来てから2週間後にはもう共同経営することまで決まったんです。あっという間にオープンすることになって、この数か月の間に10キロ痩せたくらい、本当に大変でした」

左はアキ監督の『希望のかなた』や『枯れ葉』に出演する、俳優のサイモン・フセイン・アルバズーンさん。キノ・ライカ建設も手伝っていたそう。© 43eParallele
アキ監督は現場責任者として、設計やインテリア、作る作業を担当、ミカさんはそれ以外のすべて、バーの運営の準備やウェブサイトの制作などを担当したそう。
「いろいろな問題もありました。例えば映画館で使っている椅子は、もともとアキがヘルシンキで運営していた古い映画館「Andorra」で使用していたもの。古いものなので、部品が壊れてもその部品がないんです。だから3Dプリンターを使って部品を作ったりもしました。地元のいろいろな映画関係の友達が、なかばボランティアのような形でたくさん集まってくれて、みんなで一緒に作業をしたり。こけら落としでユホ・クオスマネン監督の『コンパートメント No.6』を上映したのですが、上映権を支払う代わりに、ソビエトの古いポンコツ車を一台あげたり。とにかく手作りとみんなの協力で完成したんです。
本当におかしく聞こえるかもしれないけど、いろいろな話をするなかで“こんなアイデアどう?”と話すと、“じゃあやろう”と実現できるところまでやるのが、アキとの共同作業のおもしろいところ。お互いの信頼もあって、そんな感じで物事が進んでいったんです」

映画館の椅子に座るアキ監督。© 43eParallele
「映画館作りに関してはアキがリードした感じです。35年間映画のセットの設営もやってきたから、彼の映画の要素がたくさん。モダンなバーの看板、犬のライカの絵、アキの映画で何度も使われてきたバーカウンターとか。色彩的にもサロン室は『ル・アーヴルの靴みがき』の世界観になっています。
アキ監督のなかにしっかりしたものが通っていて、多分映画を作るのと同じだと思うんですよね。いろいろなものを集めていって、一つの映画を作るのと同じプロセスなんじゃないかと思います。ある意味カオスなのですが、それがちゃんとコントロールされている感じがしました」
オープンから3年。現在のキノ・ライカは?

劇中に登場するアキ監督。© 43eParallele
映画はキノ・ライカが完成したところで終わりますが、オープンから3年経った現在の姿は?
「バーは初めからありましたが、テラスをオープンしてひさしを作ったり、キャビネットという別の部屋を用意して、そこにイベントで使えるような場所を作ったり。最初はとにかくひとつひとつやっていくので精一杯でしたが、今は少し余裕が出てきたので、コンサートの企画を毎月のようにしたり、いろいろな企画ができるようになってきています。
地元のお客さんはもちろん、世界中の人が来てくれるようになりました。日本からもたくさん来ていただいて、本当に素晴らしいことだと思います。あとは犬! うちの映画館は“世界で一番犬に優しい映画館”と謳っているのですが、犬と一緒に映画を楽しんでいる方もいます」

劇中には、アキ監督の盟友、ジム・ジャームッシュ監督も登場。© 43eParallele
キノ・ライカでの仕事が大好きだと語るミカさん。
「カルッキラで映画館をやることがとても大事なことだと思っています。特に人々がここに来て、楽しく豊かに過ごしてくれることがとても大事ですし、私はそのためにできることを最大限にやろうと思ってやっています。こうして日本の方々からインタビューを受けること自体、予想もしていなかったとても大きな広がりです。アキのファンの方、あるいはそうでない人もカルッキラのキノ・ライカに来てくれて、やっていてとても楽しいです」

カルッキラ在住の日本人の篠原敏武さん(左)が歌う音楽も印象的。アキ監督のプロデュースで3枚のCDを出している。© 43eParallele
カルッキラでのおすすめの過ごし方

『枯れ葉』にも登場する、アンナ・カルヤライネン(ギター)とカイサ・カルヤライネン(キーボ ード)姉妹によるポップ・デュオ。アキ監督の映画好きにはたまらない、さまざまな人が登場するのも魅力。© 43eParallele
最後に、リンネル読者に向けてカルッキラでのおすすめの過ごし方を教えてもらいました。
「バスで1時間なのでヘルシンキから日帰りもできますし、カルッキラには『工場ホテル』という名前のホテルが、キノ・ライカのすぐ裏にあります。そこはシネフィルのためのパッケージもあって、ホテルの宿泊と映画館のチケット、それにウェルカムワインまでついているんです。近くには散策できる森と湖もありますし、文化に触れることもできます。
2025年はちょうどムーミンの小説が出版されてから80周年という記念イヤー。キノ・ライカの中にあるイベントスペースで、トーベ・ヤンソンの写真展を開催する予定です。トーベ・ヤンソンの映画上映やコンサートも企画しています。
もちろんアキの映画もスペシャルなスペースで楽しんでいただけるし、夏になればアキ監督自身もカルッキラにいて、ほとんど毎日キノ・ライカで仕事をしています。あっちを直したりこっちを直したり、ウェイターをやったりしているので、ぜひ来ていただけたら嬉しいです」

監督・脚本・撮影・編集:ヴェリコ・ヴィダク
脚本:エマニュエル・フェルチェ
出演:アキ・カウリスマキ、ミカ・ラッティ、カルッキラの住人たち、ジム・ジャームッシュ、ヘッラ・ウルッポ、マウステテュトット、ヌップ・コイヴ、サイモン・フセイン・アルバズーン、ユホ・クオスマネン、エイミー・トービン
2023年/フランス・フィンランド/81分/2.00:1/DCP/フィンランド語、英語、フランス語/原題『CINEMA LAIKA』
配給:ユーロスペース 提供:ユーロスペース、キングレコード
ユーロスペースほか全国順次公開中
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text & edit:Mayumi Akagi
※画像・文章の無断転載はご遠慮ください
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