精神科医・星野概念さんとモデル・taraさん。お互いに発酵好きのお酒好き。話せば話すほど「なんだか似てる」というふたりの、好きなものと、それに向き合うスタンスとは?
星野概念さん&taraさん対談
小さな取り組みを省略しないことが、“いいケーキ”への道
面識のあるふたりはともに“発酵好き”。この日持ってきた発酵ドリンクの話題で最初から大盛り上がり。
tara:概念さんも、発酵がお好きなんですよね。
星野概念:お酒好きなのですが、おいしいお酒はどうやってできているのか調べ始めたのがきっかけ。日本酒ができる過程では、菌がめちゃくちゃ複雑なバトンリレーをしていく。それを知ると、その菌たちはここらへんにも一緒にいると思ってうれしくなって(笑)。『もやしもん』を読んだら、さらに身近になりました。
tara:わかります! 私も自然派ワインが好きなのですが、下北沢のバーであった自然派ワインのイベントでおいしさに出会ってしまって。土っぽいと思ったら華やかになったり、お酒って酔っ払うためだけのものじゃないんだなって。
星野概念:お酒って、大袈裟だけど時間の芸術ですよね。いきなりパッとできるわけじゃないから。
tara:本当。私は糠漬けもやっているのですが、これは正直、たまにめんどくさいなあと感じることも。側から見たら「発酵にはまっている人」かもしれないけど、混ぜたりするのがストレス解消になっているわけじゃないんです。でも、漬けたものがおいしかったり、これをやることで明日の私がもっとよくなるかもと思えることが、私のお守りになっていて。
星野概念:糠漬けは僕も好きでやっていますけど、やり始めは楽しい。今日一日このためにやってきたぜ、ってルンルンで混ぜるんだけど、だんだん慣れるとめんどくさいし、冷蔵庫に入れてる糠床なんて、手を入れるともうぎっしり冷たくて(笑)。あー!ってなっています。でも、時間が経つとできたものが初期と違ってくるんですよね。だから“好き”な気持ちが途中でダレても、結果が少し自分を上げてくれることもある。糠に限らず人生もそんなものなのかなって思うんです、勝手に解釈すると。
tara:壮大! でも、似た感じでよかったです(笑)。
星野概念:糠、冷たいよね(笑)。誰しもがとは言わないけれど、いつの時代もみんな焦っていて、不安要素もたくさんあるし、成功しないといけないと思っていますよね。そのときに、そういう小さな取り組みを省略しないことは自分のためにとても大事だと思います。先の未来に囚われすぎたとき、さて今の自分は?となる。だって、小さな時間の積み重ねで未来があるわけで。どこかを省略すると不安になるし、今好きなもので一瞬を充実させることをミルフィーユのように積み重ねていくと、いいケーキになるんじゃないかな。
tara:ミルフィーユ! なんだか、自分の中で答えが出た気がする。自分なりに“好き”について数日考えてて、オタクではなくて浅く広いことが、自分ではコンプレックスだったんです。でも、自分のリズムやペースで好きでいられたらいいんですね。
星野概念:そうだと思う。好きなものがあるというのは、一瞬一瞬を大事にしていくための、軸にはなると思う。ふわふわしているにしても、何かにつかまってふわふわしているのか、何かを握ってふわふわしているのかでは違うし。僕が発酵を好きなのは、菌のペースで進むのを省略できないから。「省略しない」で過ごすことが、不安や焦りを抱えながら、それでも生活していくための、ひとつのコツなんじゃないかな。
好き→ご機嫌、がつながれば、人も自分もリラックスできる
tara:人は、言葉以外のコミュニケーションのほうが大きくて、それで通じ合うことのほうが多い気がしているんです。見えない世界のほうが大きくて広いって、私はどこか信じていて。それで「ご機嫌でいる」ことが、自分がまとっている空気や背景のような言葉にならない部分を活性化させてくれると思っています。
星野概念:機嫌よくいるのは大事ですね。自分が機嫌がよければ、まわりも機嫌がよくなる。まわりがリラックスすれば自分もリラックスできるし、波及していくものなんですよね。僕もご機嫌というキーワードを大事にしたいと思っています。
tara:一緒にいて気持ちいい人と一緒にいたいし、自分もそうありたいですよね。そうなれるように、いい菌が醸してくれたものを食べようとか、好きなことをしているのかも。
星野概念:わかります。
tara:だけど、好きなものがない人もいますよね。それはそれで私はうらやましいんです。だって好きなことがないと言っている人は、その状態で幸福で、いい温度のお湯に浸かってるように見える。やりたいことがあって楽しそうって言われるけど、私は冷水と熱々のお湯に交互に浸かりたいタイプだからどんどんいってしまうだけで、こちらからすれば落ちついていていいなあ…って! でも、急に何かに目覚めるかもしれないし、何がいつどれくらい響くかはそれぞれ違う。狭く深くの人、浅く広くの人もそれぞれよくて。もし好きなことを見つけたいと思っているなら、とりあえずなんでも当たり前と思わずに、気になったものに立ち止まって話を聞いてみるといいかもしれませんね。
星野概念:仕事に直結しなくても猪突猛進して、それが短期間でもいいと思います。その興味が、ある日突然何かに響き始めることもあるし。
tara:うん、好きな人の真似とか、きっかけって、なんでもいいんですよね。ご機嫌な自分につながれば、さらに素敵だなと思います。
健康マニアのtaraさんがずっと続けていること
#受け継いだ発酵ドリンク
ずっと大好きで続けているというのは、パラダイス酵母のリンゴジュース。福島のあんざい果樹園のシードルが天然発酵したものが、鎌倉のパン屋さん・パラダイスアレイ経由で、人づてに株分けされている。「シュワッとおいしくて。無添加のリンゴジュースに残りを継ぎ足しながら、ずっと飲み続けています」
#糠漬けを手作り
「発酵って、奇跡みたいなもの」と語るtaraさん。「糠床は冷蔵庫に入れているから冬は寒いし、混ぜない日もあります(笑)。でもうまくできるとうれしいし、やっぱりおいしい。見えない菌たちのお手伝いをしているというイメージも、なんだか楽しくて。糠漬けは、基本夜のお料理中に飲むビールのおつまみです(笑)」。お皿は砥部焼作家の杉浦綾さんのもの。
#お酒を飲む幸せな時間
窯焼きピザと自然派ワイン&クラフトビールがおいしいお店にて。「パティシエ・ユーコツチヤの旬のパフェ(パフェも大好き)とナチュールをペアリング、誕生日バージョン」。赤も白もロゼもオレンジも微発泡もビールも、全方位のお酒好き。友人知人や店主とお酒を飲みながら過ごす時間も含めて至福の時。
taraさん profile
星野概念さん profile
photograph:Miho Kakuta hair & make-up:KOMAKI text:Miho Arima web edit:Riho Abe
リンネル2022年3月号より
※画像・文章の無断転載はご遠慮ください
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