CULTURE

滝口悠生さんインタビュー 目の向け方一つで、何にもない日常も楽しくなる 滝口悠生さんインタビュー 目の向け方一つで、何にもない日常も楽しくなる

4年ぶりの長編小説をリリースした滝口さん。エッセイを書くつもりで気がつくと小説になっていたと語る本作を書き進めるうちに見えてきた、大切なこととは?

目次
滝口悠生さんインタビュー 目の向け方一つで、何にもない日常も楽しくなる
  1. 最新作インタビュー
  2. 最新作『長い一日』
  3. 滝口悠生さんPROFILE

取り上げるのは、大きな出来事も何もない、当たり前の日。

ーー今回の作品は日常をテーマにしたものだとか。

「退屈でしかない日でも、昨日とまったく同じ今日はないので、目の向け方ひとつで、何にもない日常も楽しくなるし、見慣れた風景も特別になる、というのは、生きる基本としてあります」

ーー4年ぶりとなる長編小説『長い一日』は、まさにそんな氏の「生きる基本」がほとばしり、読んでるほうにまで伝わってくるような一冊です。主人公は、とある小説家の夫と妻。そう、まるで滝口さん自身の日常を写した、エッセイのように見えます。しかし、まわりの親しい友人たちや1階に住む大家さんなど、いろんな人たちの視点や記憶が曖昧に交わり、リアルのような、フィクションのような、不思議な読み味に変わっていきます。

「最初は、読み切りエッセイの連載ということでスタートをしました。ただ書いていくうちに、途中から小説みたいになっていって、最終的には『もう、これは小説だな』と」

ーータイトルにもある通り、描かれているのは、ある一日のこと。しかも、特段大きな出来事も何もない、当たり前の日。

「小説の中の語り手が、そんな日のことを語り始めるとすれば、どうなるでしょう。例えば一日の中で、歩いてる時や、家で掃除をしている時に、何をしてるかと言ったら、今日じゃない日や、今そばにはいない人のことを考えている時間が、実はすごくたくさんあると思うんです」

ーー昨日あったこと、あるいは何年も前のことを、ふと思い出すこともあるかもしれません。

「そんなふうに、ある日のことを言葉にしようとすると、そこに違う日のことが流れ込んでくる。ちょっとした嘘も含まれていく。どんどんどんどん、言葉が増えていくんです」

ーーまるでその日に、その場所にいるかのように仔細に語ろうとすればするほど、思い出している別の人の視点も、自分の内面にも踏み込んでいく。

「まるでその人であるかのように話し出すこともできるし、まだ行ったことのない場所を想像することもできる。今日という時間の中では、どこにも行ってないし、誰とも会ってないけど、ちょっと考え始めただけで、今日がどんどん長くなる、ということは、いつでも起こりうるんです」

滝口悠生さん最新作

『長い一日』
8年住んだ家からの引っ越しを考え始めた小説家の夫と妻による、日常の断片と胸の内。1階に暮らす大家さん宅から聞こえる話し声や、いつものものが揃うスーパーマーケット、それらがなくなることで気づく深い愛着。日常がこんなにも楽しく、愛と謎に満ちた物語であることを改めて感じさせてくれる。

滝口悠生/¥2,475(講談社)

お話を伺ったのは……滝口悠生さん

PROFILE
たきぐち・ゆうしょう/1982年東京生まれ。2011年、「楽器」で新潮新人賞を受賞し、デビュー。2015年、『愛と人生』で野間文芸新人賞、2016年、「死んでいない者」で芥川賞を受賞。他の著書に『寝相』『茄子の輝き』『高架線』『ジミ・ヘンドリクス・エクスペリエンス』などがある。

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photograph:Shinnosuke Soma text:BOOKLUCK web edit:Liniere.jp
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