CULTURE

【女子旅 石川県】金沢・国立工芸館で、戦後の日本の印刷・版画・グラフィックデザインを巡る 【女子旅 石川県】金沢・国立工芸館で、戦後の日本の印刷・版画・グラフィックデザインを巡る

「印刷/版画/グラフィックデザインの断層 1957-1979」

石川県金沢市の国立工芸館で、3月3日まで特別展「印刷/版画/グラフィックデザインの断層 1957-1979」が開催中。戦後日本の印刷技術の飛躍的な発展や、複製メディアの多彩な表現を体感できる展示の見どころなどを、企画を担当した同館主任研究員の中尾 優衣さんに教えていただきました。能登半島地震の影響を受けたものの、現在は金沢市内には日常が戻ってきているとのこと。このようなときだからこそ、応援の気持ちを込めてアートを巡る旅に出かけてみませんか。

目次
【女子旅 石川県】金沢・国立工芸館で、戦後の日本の印刷・版画・グラフィックデザインを巡る
  1. お話を伺ったのは……国立工芸館 主任研究員 中尾 優衣さん
  2. 戦後日本の「版画」の可能性を広げた作品が集結
  3. 当時の展覧会ポスターとともに作品を振り返る
  4. 同時代に制作された工芸作品の特集展示も
  5. 金沢・国立工芸館でアートを巡る旅を

お話を伺ったのは……

中尾 優衣さん

 

国立工芸館主任研究員。工芸とデザインの両分野を対象に、展覧会と作品収集を行う東京国立近代美術館工芸館が国立工芸館として2020年秋に金沢に移転後、移転開館記念展第2弾『うちにこんなのあったら展 気になるデザイン×工芸コレクション』を企画。今回の特別展の企画も担当している。

戦後日本の「版画」の可能性を広げた作品が集結

「印刷/版画/グラフィックデザインの断層 1957-1979」

1957年から1979年までおよそ20年にわたり開催された「東京国際版画ビエンナーレ展」。その出品作家を中心に、国立美術館のコレクションを紹介する今回の特別展では、浜口陽三、池田満寿夫、菅井汲、加納光於、野田哲也、高松次郎、木村秀樹、井田照一など、戦後の日本で「版画」作品の表現に挑んだ作家たちの代表作を一挙に紹介しています。

マス・コミュニケーション時代が到来し、印刷技術が飛躍的に発展した戦後の日本は、美術と大衆文化の結びつきが一層強まり、複製メディアによる表現が関心を集めた時代。「東京国際版画ビエンナーレ展」は世界各国から作品を集めた国際的な規模の版画展で、当時の気鋭の版画家やデザイナーの活躍の場となりました。

「石川県金沢市に移転後、当館でのデザインに関連した展覧会は今年で4回目。今回の展示作品の中には、東京国際版画ビエンナーレ展以降展示される機会があまりなかったものもあり、全11回の受賞作品を一度に見ていただける貴重な機会となっています。
『版画』と聞いてすぐ頭に浮かぶであろう木版画だけではなく、当時の新しい技術を取り入れた写真製版の作品などもあり、それぞれ細部へのこだわりや仕上がりの表面感など、実際に見ることで初めて感じられる部分もたくさんあります。戦後の日本の版画の可能性を広げた作家の方々の作品を、ぜひ実際に目で見て体感していただきたいです」(中尾さん)

池田満寿夫《夏1》1964年 東京国立近代美術館蔵(国立工芸館提供)
今回の特別展のメインビジュアルに採用されたのは、池田満寿夫の《夏 1》。銅板に細かい傷をつけて生まれた青地の部分のインクのテクスチャーが、版画だからこそ表せる表情に。

「色の対比が鮮やかで、紙の余白をうまく生かし、さまざまな版画技法によるニュアンスの違いを盛り込んで横たわる女性を描いた作品です。現在も新鮮さが感じられる作品として、メインビジュアルに採用しました」(中尾さん)

池田満寿夫《夏 1》1964年
東京国立近代美術館蔵
野田哲也《日記 1968年8月22日》1968年 東京国立近代美術館蔵(国立工芸館提供)
第6回の出品作品である野田哲也の《日記 1968年8月22日》は、本人の家族の写真を切り抜いてコラージュにし、それを木版と謄写ファックスを併用して作品としました。それぞれの人物のデータを文字情報として入れるなど、シュールな面白さが。

「実在する人物の写真を使っていますが、謄写ファックスを使った独特の階調によって、非現実的で不思議な印象の作品になっています。技法的にも面白く、実物を見るとより作品の力を感じられると思います」(中尾さん)

野田哲也《日記 1968年8月22日》1968年
東京国立近代美術館蔵

当時の展覧会ポスターとともに作品を振り返る

展覧会ポスターと版画作品が混在する空間

「印刷/版画/グラフィックデザインの断層 1957-1979」

戦後美術の動向と切っても切れないのが、印刷技術の発展。当時は版画とグラフィックデザインの関係性も議論の対象になりました。

会場では、東京国際版画ビエンナーレ展の貴重な展覧会ポスターも展示。原弘、田中一光、永井一正、横尾忠則、杉浦康平など、日本を代表するグラフィックデザイン界の巨匠たちが手がけた全11回のポスターを、各回の受賞作品とともに見ることができます。第1回から順番にポスターと受賞作品を展示しているので、会場内はグラフィックデザインと版画が混在する空間に。

印刷/版画/グラフィックデザインという領域は、近接し重なり合いながらも決定的なズレのある、まるで〈断層〉のような関係性。同時代の多様な視覚表現のなかに交錯した版画とグラフィックデザインの様相を通して、印刷技術がもたらした可能性とその今日的意義を改めて検証する展示となっています。

「展示会場を順番に見ていただくことで、版画とグラフィックデザインの表面感の違いや、わずか20年の間の版画作品の変化・幅の広がりを感じ取ることができます。『版画とは?』という1960~70年代の大きな問いについて、来ていただいた方がそれぞれの答えを見つけていただけたらと思っています」(中尾さん)

当時のポスターを
あえて額装せずに掲出

「印刷/版画/グラフィックデザインの断層 1957-1979」

会場の入り口にも、並べて掲出された第8回東京国際版画ビエンナーレ展の展覧会ポスターが。銀色の紙に色彩豊かなロゴやモチーフが並ぶ様子が目を引きます。杉浦康平により手がけられたこの作品は、本来平面(二次元)で完結するはずのポスターに風景や見ている人の影が映りこみ、三次元性を持ち込むというもの。

「壁に並んだポスターは、今回の展覧会での試みとして考えていたことのひとつです。街角や壁に貼られているような、本来のポスターの機能を当時と同じ形で見ていただくことができればと考え、あえて額装せずに展示しました」(中尾さん)


同時代に制作された工芸作品の特集展示も

河野鷹思「現代日本工芸の秀作:東京国立近代美術館工芸館開館記念展」ポスター 1977年 国立工芸館蔵(国立工芸館提供)
河野鷹思「現代日本工芸の秀作:東京国立近代美術館工芸館 開館記念展」ポスター
1977年 国立工芸館蔵

今回は同時に、東京国立近代美術館工芸館(現・国立工芸館)の記念すべき第1回目の展覧会「現代日本工芸の秀作:東京国立近代美術館工芸館 開館記念展」を振り返る特集展示も開催されます。東京国立近代美術館工芸館は東京国際版画ビエンナーレ展と同時期の1977年に開館。当時の工芸作品の現代性にも目を向けることで、戦後美術を様々な角度から振り返ることができます。

「開館当時、第1回目の特集展示ということで並ぶ作品は本当に名品揃い。版画やグラフィックデザインの作品と一緒に同時期に展示された工芸品も見ていただくことで、それぞれの作品の魅力を改めて感じていただければと思います」(中尾さん)

荒川豊蔵《志野茶垸》 1957年 国立工芸館蔵(国立工芸館提供)
展示されている工芸作品の一つ、荒川豊蔵の《志野茶垸》は、表面の釉薬の味わいや色の変化による景色が美しい作品。

「窯で焼き上げて自然に生まれる表情を楽しむというのは、人の手では完全にコントロールしきれない工程が存在する版画の刷りと通じる部分があると感じています。工芸品の鑑賞というと難しく捉えられがちですが、日用品と形や用途は同じと考えてハードルを上げずに見ていただけたらと思います」(中尾さん)

荒川豊蔵《志野茶垸》
1957年 国立工芸館蔵

金沢・国立工芸館でアートを巡る旅を

国立工芸館は今回の震災の被害も少なく、現在は通常どおり開館しているとのこと。
「芸術は震災などの被害に対して直接的な支援ができるというわけではないですが、心が疲れて日常から少し離れたいと感じたときの受け皿となることはできると思います。いつでも作品を見ることができるよう、通常運転することが大切だと考えて運営しています」と中尾さん。
金沢市街のお店の多くも通常通り営業しており、茶屋街やお堀周辺の散策もおすすめだそうです。

「散歩したり、買い物や映画館に行ったりするような感覚で来館していただき、ひとつでもいいなと思う作品を見つけていただけたら嬉しいです。気に入った作品が見つかれば、作家や作品に使われている素材、年代など、次の関心の行き先が分かるはず。今度はこういう作品を見てみたいな、と興味の矢印が繋がっていくとさらに楽しくなると思います。
今回の作品も直接見ることで初めて版画のテクスチャーなどを感じられるので、難しく考えず、旅の途中にでも足を運んで見ていただければと思います」(中尾さん)

戦後の約20年での版画作品の可能性の広がりを当時のグラフィックデザインとともに振り返ることができる今回の企画展。実際に足を運び歴史の流れを追うことで感じられるものがきっとあるはず。応援の気持ちを込めて、金沢へアートを巡る旅に出かけてみませんか。


写真提供:国立工芸館

「印刷/版画/グラフィックデザインの断層 1957-1979」開催情報

「印刷/版画/グラフィックデザインの断層 1957-1979」
会期:2023年12月19日(火)~2024年3月3日(日)
開館時間:午前9時30分~午後5時30分 ※入館は閉館の30分前まで
休館日:月曜日
観覧料: 一般300円(250円)(税込)/大学生150円(70円)(税込)
*( )内は20名以上の団体料金および割引料金。
*オンラインによる事前販売もあり。
*高校生以下および18歳未満、65歳以上、MOMATパスポート・学パスをお持ちの方、友の会・賛助会員の方、MOMAT支援サークルパートナー企業(同伴者1名まで、シルバーパートナーは本人のみ)、キャンパスメンバーズ、障害者手帳をお持ちの方と付添者(1名)は無料。
〇割引対象:石川県立美術館・金沢21世紀美術館・石川県立歴史博物館・石川県立伝統産業工芸館(いしかわ生活工芸ミュージアム)・金沢市立中村記念美術館・金沢ふるさと偉人館の主催展覧会入場券半券を窓口で提示した方。
「印刷/版画/グラフィックデザインの断層 1957-1979」
主催:国立工芸館、京都国立近代美術館
共催:北國新聞社
協力:国立アートリサーチセンター
お問い合わせ先:050-5541-8600(ハローダイヤル)

edit & text:Liniere.jp
※画像・文章の無断転載はご遠慮ください

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