生きづらかった日々を言葉と一緒に過ごしてきたと語るのは、翻訳・文筆家のきくちゆみこさん。今回は、きくちゆみこさんの新著『だめをだいじょぶにしていく日々だよ』の発売を記念し、新作に込めた思いをインタビューしました。
自分と向き合うことで他の誰かの役に立つことを願って
ずっと、人と会うことが完全に苦手な人間だったんですよ」人と人が出会い、関わり合うことで感じる闇。コミュニケーションがうまくいかずに「だめだなあ」と、自分を責めてしまう。幼い頃から、そんな苦い思いにたびたびかられていたという、翻訳・文筆家のきくちゆみこさん。
「今も自分の領域に人を入れることがけっこう苦手で、どうしても家族だけで過ごしたくなる。時には家族といるのもしんどくて、ひとりになりたいって思うこともいっぱいあって」机の下に潜るような、そう、彼女は表現します。
「それでもやっぱり、常に誰かを求めているんですよね。より深く、より遠くまで。どうやって、私なりに実現できるか。それでようやく辿り着いたのが、ジンだったんです」
個人制作の小冊子〝ジン〞は、きくちさんにとって、自分でコントロールでき、そのまま相手に差し出せる「完璧な世界」。ここでもたげた思いを深く考察し、言葉にし続けてきました。
「私の人生の中では、自分の中の苛烈なものごとを繰り返し思い出すことに、意味があるような気がしていて。見つめ続けることで、本当に何かが変わっていくんです。それはカウンセラーに話すとか、いろんな方法があるかもしれないけれど、私は書くことが一番深く潜れる。さらにそれを読み直すことで、同時に客観性を与えてくれる。ここで自分なりの開き方を学んだし、言葉が先に行って、私の道を用意してくれている感覚がありました」
さらにその道をより広く照らす光となる初の自著『だめをだいじょぶにしていく日々だよ』が上梓されました。
「本というのは、物質的な存在感が強いなと思います。私は父が編集者だったので、小さい頃から本に囲まれた生活をしていて。だから感じるのは、やっぱり本自体が、ほとんど人と同等というか。本の背表紙を見ているだけで、作者の後ろ姿を見ているような、ひとりの人格と一緒にいられるみたいな。それはやっぱりSNSとのつながり方とも違うし、リアルに人と喋ることとも違う。その作者と私が一緒にいる感じが、すごくあるんですよね」
たとえば心がじくじくと淀むとき、この本を開くと、懸命に言語化を試み、この世界に取り出そうとしている著者のひたむきさを感じる。そして自分を顧みるきっかけになるのです。
「私が常に書いていきたいのは、自分との向き合い方。どういう人間で、どういうときにどう心が反応するのか。それを認識しておくことが、自分だけではなく、遠回りのようでも、他の誰かの役にも立つんじゃないかと思うんです」
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