「すぐそばに幸せがあると信じたかった」藤沢あかりさん書籍インタビュー 「すぐそばに幸せがあると信じたかった」藤沢あかりさん書籍インタビュー

テープ起こしを通して、自分のほしい言葉に出合えたという、ライター藤沢あかりさん。今回は、新著『レシート探訪 1枚にみる小さな生活史』の発売に合わせてインタビューをしました。レシートには、その人らしさが隠れている。藤沢さんが紡ぐ深い言葉は、当たり前に過ごしている日々の大切さに気づくきっかけになるはず。秋の読書のおともに、ぜひ手に取ってみてくださいね。

私は自分の人生を、もっと好きになりたかったんです。

「『生活感丸出し』ってよく言うじゃないですか」

ライターの藤沢あかりさんは、関西弁と標準語をミックスさせた抑揚で、ぽんぽん語り始めます。

「よくインテリアや暮らしの取材で家に行くと、だいたいみなさん書き込んだカレンダーとか、DMが積み重なっているほうとかを、まっ先に片付けるんですね。ただそういうのにこそ、その人らしさが出るなぁと、ずっと思っていて」。さらに、取材中においてもしかり。「テーマとは関係ない、何でもない話ですよね。この間こんな旅行してとか、昨日子どもがこうこうでとか、そういう雑談が意外とおもしろいなと思うんですけど……ま、記事には書けませんよね（笑）」

そんな、日々の中でこぼれ落ちてしまうような小さな話に、光を当てたい。そのきっかけとして、藤沢さんがふと着想したのが、財布のすみっこに押しやられた買い物の記録の紙「レシート」でした。

『レシート探訪 1枚にみる小さな生活史』で綴られるのは、料理家やスタイリストから、市井の人まで。26人のレシートにまつわるエピソード。ここから透けて見えるのは、お店の選び方、お金の使い方や考え方、ゆずれない好きの優先順位、ひいては生き方まで。「たとえば私が、痩せたい痩せたいって言ってるのにシュークリームのレシートがあるとしたら、それもひとつの事実であり、私の選択であり、意思じゃないですか。酔っぱらった帰りについ買っちゃったとかあるかもしれないですけど、ま、それも含めてね」

あまりにも些細で、ときに滑稽な、どうしようもなく人間らしいエピソードを藤沢さんは丁寧に掬い上げ、こよなき愛をもって紹介します。

「本当に何でもない話でも、いい話聞いたなぁと思うんですよ。そこから全部テープ起こしして、どこ拾おうかな？と。そこに一番時間がかかります。その人の家の感じとか、会ったときの空気とか、あーいらっしゃーい！ って言ってくれた顔とかを、全部思い出して。何がいいと思ったのか、自分がどこで心があったまったのかをすごい考えて、言語化するんです」

そして、あるとき気づくのです。それはまさに「自分に言ってほしい言葉」でもあるのだと。「身近なところにこそ、幸せがあると信じたかった。そして私は自分の人生を、もっと好きになりたかったんですよね」

新著『レシート探訪 1枚にみる小さな生活史』

藤沢あかり／¥1,760（技術評論社）

「あなたのレシート、見せてください！」ECサイト『北欧、暮らしの道具店』の人気連載コラムの書籍化。買い物からたどられるのは、その人らしさの断片。ふとつぶやくさりげなくも、ハッとするような言葉にたびたび出合う。また向き合う著者の眼差しがこの上なくあたたかく、「みんな生きてるなぁ」と当たり前のことが、じんと深く胸をつく。

お話を伺ったのは……藤沢あかりさん

photograph：Shinnosuke Soma　text：BOOKLUCK

リンネル2023年11月号より
※画像・文章の無断転載はご遠慮ください