世界を舞台に活躍するピアニストの上原ひろみさん。最近では映画『BLUE GIANT』の音楽を手がけたことをきっかけに、さらに幅広いリスナーから注目を集めています。そんななか、新プロジェクト「Hiromi's Sonicwonder」を始動されました。名うてのミュージシャンたちと繰り広げるセッションは、音楽の遊園地を冒険しているような気分を味わえる、胸が高鳴る作品に。そのアルバムの内容はもちろん、目まぐるしく世界をまわる日々を過ごす上原さんの癒やしの瞬間もうかがいました。
新プロジェクト「Hiromi's Sonicwonder」
━━2023年2月にリリースした映画『BLUE GIANT』のオリジナル・サウンドトラックが大きな話題を呼びました。
上原ひろみさん(以下上原さん) 映画というプラットフォームで楽曲を制作するのは、いつも自分のいる世界とは異なるものでした。サントラというのは、限られた時間のなかで、物語や映像などを考え、それらをサポートする役割。また、私ではなく映画の登場キャラクターが演奏をすることを念頭に置かなくてはいけないので、いろんな方の意見やアイデアを汲み取らなくてはいけない。とてもいい刺激になりましたね。だから、今回のオリジナル・アルバムは自由を満喫しながら制作しました(笑)。
━━今回は新プロジェクト「Hiromi's Sonicwonder」名義でのアルバム・リリース。
上原さん 元々、久しぶりにバンド形態で音楽を制作してみたいという気持ちがありました。2016年にアドリアン・フェローさん(Bass)さんと一緒に演奏をしたことがあって、そのときに初めてとは思えないほどのケミストリーを感じ、彼と演奏をするためのオリジナル曲をつくりたいという思いが強くなりました。そこから、ほかのプロジェクトや新型コロナの影響もあって時間がかかり、ここにようやく今回実現しました。
━━Sonicwonderというバンド名にした理由は?
上原さん 07年にHIROMI’S SONICBLOOMというプロジェクトを始動して以降、「sonic」という名前がついたものは、私がキーボードをたくさん弾く作品になっているということを示しています。つまり、私のキーボード熱が高まっている証拠でもあるのですが(笑)。プロジェクト名を変えたのは、演奏しているミュージシャンの顔ぶれが異なるので、別の名前を考えました。
━━メンバーの方とどんなセッションをされて制作を?
上原さん まずはリハーサルを行って、その後ライヴを何本か経験した後に、スタジオに入って制作しました。先にライヴという緊張感のある空間でセッションできたからこそ生まれるものがある。それがいいカタチでアルバムに反映されていると思います。
━━全体的にどんな音を目指して制作されたのですか?
上原さん 音の遊園地を冒険しているような、ロール・プレイング・ゲームのような雰囲気をつくりたくて制作しました。
━━確かに、ゲーム音楽のような雰囲気がしますよね。上原さんもゲーマーなのですか?
上原さん 小さい頃は、遊んでいましたね。その頃の記憶が、今回の音に影響を与えているのかもしれません(笑)。
━━アルバム全体もそうですが、楽曲それぞれもいろんな世界をクエスト(冒険)しているようなスリリングな展開のものばかり。
上原さん 各メンバーのハイライトが、それぞれの楽曲であるように制作しました。
━━特にタイトル曲「ソニックワンダーランド」は、アルバムの世界を集約しているような仕上がりですね。
上原さん 今回参加した4人のメンバーが、音の世界を冒険しているような雰囲気が出た楽曲になったと思います。
自分がとても大切に思っている人に届くような楽曲にしたい
━━また、ヴォーカル曲「レミニセンス feat. オリー・ロックバーガー」は上原さんも作詞に参加されているそうですね。
上原さん オリーとは、大学時代の同級生で、これまでお互いをサポートしあいながら、キャリアを重ねてきた仲。歌詞に関しては、キーワードを伝えて、自分がとても大切に思っている人に届くような楽曲にしたいと思いました。思うように会えなくなってしまった人のことを考えながら制作しました。
━━それはロックダウンの影響もあるのですか?
上原さん それはもうすでに発表した作品で表現し尽くしたので、今回は完全にフリーです。これからも自由な感覚で音楽をつくるという意思を表現しているつもりです。
━━では、今回のアルバム制作を通じて、さらなる自由を感じましたか?
上原さん ミュージシャンの方々とセッションをして、世界中をツアーでまわれる喜び、自由を改めて感じることができました。
━━今後、「Hiromi's Sonicwonder」の展望はありますか?
上原さん 常にアルバムをつくるにあたっては、次のことを気にせず取り組んでいます。そのときの自分のなかにある流れ、タイミングを大切にしていて。だから、今はこのアルバムをリリースしてツアーを敢行することしか考えていません。
━━11月からは、このメンバーでの日本ツアーもスタート。初日を飾る11月22日(水) の渋谷Spotify O-EASTはスタンディング公演ですね。
上原さん ライヴをしていると、途中から席を立って踊ってくださるお客さんも多いので、最初からスタンディングの形態でパフォーマンスをしてみたいと思っていて、今回はそれを実現します。
━━スタンディングと椅子では、パフォーマンスに違いはあるのですか?
上原さん 特に変えようと考えてはいないのですが、観客のみなさんの反応によって自然に演奏スタイルが変化していく。だから、スタンディングだと、私も自然に立って演奏する割合が増えそうな(笑)。
━━楽しみにしています。また、このアルバムを暮らしのどんな瞬間に聴いてほしいですか?
上原さん 特に希望する場所や時間はないのですが、できれば爆音で聴いていただきたいです。『BLUE GIANT』を映画館で観たときに、その音の響き方がよかったので、できればそういう環境で耳にして、みなさんがテンションを上げていただけたらって。
一番の癒やしはお風呂の時間
━━ちなみに、上原さんは暮らしのこだわりはありますか? ツアーなどで日々世界をまわる日々が続いていると思いますが、癒やしのアイテムは?
上原さん 一番の癒やしは、お風呂です。一日のなかで最も楽しみな時間。ゆっくりできる日は一時間くらい、動画を観ながら満喫しています。だから、入浴剤(バスソルト)も好きで、ツアー中には欠かせないアイテム。特にワコルダーなど、スッキリとした気分になれる香りがお気に入りです。
━━世界中を旅する日々のなかで、理想的な暮らしのスタイルも見えているのでは?
上原さん ヨーロッパ地域の、日曜や平日の昼間にお休みしたり、またバケーションも長く取る生活は、仕事をするより生きることを大切にしている印象がして、素敵だなって思います。その反面、日本の24時間どこに行ってもなんでも揃ってしまう便利さも素晴らしいと思いますが。人々が暮らしやすい街作りをしているなと感じる場所は、世界にたくさんありますね。
━━上原さんは、現在NYも拠点のひとつとして活動されていらっしゃるそうで。どこかおすすめのスポットはありますか?
上原さん グリニッジ・ヴィレッジ地区は、老舗と呼ばれる有名な場所から、小さなものまで、たくさんのライヴハウスがあります。だから毎日夕方から深夜まで、そこを歩けばたくさんの素敵な音楽に触れられると思います。機会があれば足を運んでみてください。
NEW ALBUM『Sonicwonderland』
now on sale
アドリアン・フェロー(B)、ジーン・コイ(Dr)、アダム・オファリル(Tp)とともに、2023年5月に米カリフォルニア州にて録音された作品。実力派ミュージシャンと繰り広げるサウンドは、技術・表現力など、すべてが圧倒的。また、太陽のような笑顔で演奏する上原さんの表情もうかがえます。ドキュメンタリー映像を収録したDVD付きの初回限定盤も発売。
Profile
うえはら・ひろみ/1979年静岡県生まれ。2003年に世界デビュー。これまでグラミー賞をはじめ数々の音楽賞を獲得。21年には「東京2020 オリンピック開会式」に出演し話題に。11月22日〜全国ツアー『上原ひろみ Hiromi’s Sonicwonder JAPAN TOUR 2023 “Sonicwonderland”』がスタート。
こちらもチェック!
衣装:LIMI feu (ヨウジヤマモト プレスルーム 03-5463-1500)
Photograph:Miho Kakuta Hair & Make-up:Seiji Kamikawa Text:Takahisa Matsunaga
リンネル2023年11月号より
※画像・文章の無断転載はご遠慮ください
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