2冊目となるエッセイ集『けだま』(大和書房)を上梓した、モデルの浜島直子さん。服と記憶にまつわる22篇のエッセイを読んでいると、泣いたり笑ったり、共感したり、感情が揺さぶられ、浜島さんの日常や人柄が伝わってきます。本書の中から、2回にわたってその一部をご紹介。1回目は、浜島さんがモデルになったきっかけのお話「のっぺらぼうと白いシャツ」です。
浜島直子
1976年北海道札幌市生まれ。モデル。愛称「はまじ」。
『mc Sister』にて18歳でモデルデビュー。『LEE』では10年間専属モデルを務めるなど、現在も様々な女性誌で活躍中。また、TBS『世界ふしぎ発見!』では12年間ミステリーハンターとして出演するほか、NHK『あさイチ』、bayfm『Curious HAMAJI』など、多くのテレビ・ラジオ番組にも出演している。2020年には初の随筆集『蝶の粉』(ミルブックス)を上梓。夫アベカズヒロさんとの創作ユニット「あべはまじ」では絵本作家としても活動しており、ひらさわまりこさんとの共著『しろ』『ねぶしろ』(ともにミルブックス)がある。
http://hamaji.jp
Instagram@hamaji_0912
白いシャツの難しさと奥深さ
どちらかというと、地味な顔だと思う。愛くるしい黒目がちでもないし、顔全体の凹凸も少なく、しっかりファンデーションを塗ると頬が広く見え、おたふくお面のようになる。
だからなのか、シンプルな白いシャツを着るとたちまち歳は老けて見え、透けて向こうが見えるほど存在感がなくなる。要するに、いまいちパッとしないのである。
しかしお洒落に興味を持ち始めた10代の頃、アルバイトの初給料で買った記念すべき洋服は、「アニエス・ベー」の白いシャツだった。
自分に似合うとか似合わないとかそんなことは考えもせず、そのシャツが載っていた雑誌のページを溶けて無くなるほど眺め、触り、めくり、なぞり、とにかくアニエスの白いシャツが欲しくて欲しくてたまらなかった。
普通に着るとパッとしないものだから、どうすれば少しでも小粋なパリジェンヌになれるのか、のっぺらぼうの頭はいつもそのことでいっぱいだった。何度も失敗して、体感して、また失敗した。小粋さは空気感なのかもしれないとラフに着ようものならたちまち疲れたおばさんになり、白いシャツの難しさと奥深さを痛感した。
夏休みの最終日、友達と一緒に雑誌のイベントのファッションショーを見に行くことになっていた。
これは一大事だ。ただ買い物に行くだけではない。そこはお洒落が大好きな女子たちがわんさか集まる場所なのだ。
何日も前から寝ても覚めてもコーディネートに悩み、真っ先に決めたのは、やはり白いシャツだった。
わかったのは、シャツを着るのではなく楽しむこと
ベーシックにブルージーンズに合わせるか。チノパン素材のキュロットに合わせてボーイッシュにするか。それともタータンチェックのプリーツスカートに合わせてトラッドスタイルにするか。鏡の前で一人ファッションショーを繰り広げては、いまいちパッとしないのっぺらぼうのまま、白シャツと下着姿のままでボーゼンと立ち尽くした。まだか細いセンスの糸はチリチリとこんがらがり、ぐしゃりと溶けて心を暗く染めていった。
一旦シャツを脱ごうとボタンを全部外した時だった。ふと鏡を見ると、キャミソールの上にシャツをカーディガンのように羽織った状態になり、ハッとした。
そうか。今までシャツをシャツとして着ることばかり考えていたけど、もっと自由でいいんだ。シャツに着られるんじゃない。シャツを着るのでもない。
シャツを楽しむことだ。
何かがカチリと音を立て、扉が開いたような気がした。そしてチリチリと糸がまたつながりだした。
書籍情報
photograph:Miho Kakuta edit:Mayumi Akagi
※写真・文章の無断転載はご遠慮ください
※本記事は『けだま』(大和書房)所収「のっぺらぼうと白いシャツ」より一部抜粋して構成しました
Related Article おすすめ記事
-
【はまじさんの服の思い出 vol.2】 仕事のお守りだった、7つの定番アイテム 【はまじさんの服の思い出 vol.2】 仕事のお守りだった、7つの定番アイテム
-
服の記憶を入り口に、自分の内側を旅して 【はまじさんの服の思い出 vol.3】 服の記憶を入り口に、自分の内側を旅して 【はまじさんの服の思い出 vol.3】
-
浜島直子さんの健やか笑顔の原動力
浜島直子さんの健やか笑顔の原動力 -
居心地の悪い感情を「なかったこと」にしなくてもいい。 温 又柔さん書籍インタビュー 居心地の悪い感情を「なかったこと」にしなくてもいい。 温 又柔さん書籍インタビュー
-
私が変わるためにしたこと 【hal 後藤由紀子さんの「雑貨と私」の話 vol.3】 私が変わるためにしたこと 【hal 後藤由紀子さんの「雑貨と私」の話 vol.3】
-
聴く人にとってちょうどよい「柿山」のような存在になりたい 【OVER THE SUN 公式互助会本より vol.3】 聴く人にとってちょうどよい「柿山」のような存在になりたい 【OVER THE SUN 公式互助会本より vol.3】
-
桜井莞子さん「自分で楽しいほうに持っていくこと。誰かに強要されるんじゃなくてね」 書籍インタビュー 桜井莞子さん「自分で楽しいほうに持っていくこと。誰かに強要されるんじゃなくてね」 書籍インタビュー
-
【ニットデザイナー三國万里子さん】 『編めば編むほどわたしはわたしになっていった』書籍インタビュー 【ニットデザイナー三國万里子さん】 『編めば編むほどわたしはわたしになっていった』書籍インタビュー
-
モデル浜島直子さんが着るモダンな浴衣と思い出のエピソード【インタビュー後編】 モデル浜島直子さんが着るモダンな浴衣と思い出のエピソード【インタビュー後編】
-
モデル浜島直子さんの、この夏を楽しむ装いマストアイテム【インタビュー前編】 モデル浜島直子さんの、この夏を楽しむ装いマストアイテム【インタビュー前編】
-
菊池亜希子さん「野菜はもう“選ばない”が私のルールです」 【『whole』発行記念インタビュー】 菊池亜希子さん「野菜はもう“選ばない”が私のルールです」 【『whole』発行記念インタビュー】
-
台所から紡がれるひとりひとりの物語。大平一枝さん書籍インタビュー 台所から紡がれるひとりひとりの物語。大平一枝さん書籍インタビュー
-
和田明日香さん「自己満足でも、自分なりのこだわりを持つ。それも料理を楽しむ秘訣」 書籍インタビュー 和田明日香さん「自己満足でも、自分なりのこだわりを持つ。それも料理を楽しむ秘訣」 書籍インタビュー
Latest News
CULTURE
-
秦 基博さん「さまざまな軽やかさ・奥深さに触れられた1年でした」/アルバム『HATA EXPO -The Collaboration Album-』インタビュー 秦 基博さん「さまざまな軽やかさ・奥深さに触れられた1年でした」/アルバム『HATA EXPO -The Collaboration Album-』インタビュー
-
【モネ 睡蓮のとき 開催中!】 展覧会アンバサダーの石田ゆり子さんが語る、モネの魅力 【モネ 睡蓮のとき 開催中!】 展覧会アンバサダーの石田ゆり子さんが語る、モネの魅力
-
今日はがんばったからあそこに行こう! 麻生要一郎さん新刊『僕が食べてきた思い出、忘れられない味 私的名店案内22』発売 今日はがんばったからあそこに行こう! 麻生要一郎さん新刊『僕が食べてきた思い出、忘れられない味 私的名店案内22』発売
リンネル最新号&付録
2025年1月号
暮らしの道具大賞2024
- 付録
- marble SUD[マーブルシュッド]
ボアバッグ&
リング付きちょうちょ柄丸ポーチ
特別価格:1,520円(税込) / 表紙:上白石萌音 /
2024年11月20日(水)発売 ※一部の地域では発売日が異なります