ニットデザイナーの三國万里子さんが、初のエッセイ集を上梓。編むこと、そして書くことの楽しさについてお話を伺いました。
編むことと、書くことは似ている
ーーニットデザイナーの三國万里子さんが、初のエッセイ集を上梓しました。編み物の本はいくつも出版されている三國さんですが、エッセイを書くきっかけとなったのは、友人に「書いてみたら?」と勧められてから。
「書き始めたら、身のまわりのこと、それから過去のことがどんどん出てきました」
ーー書くことに夢中になり「気がつくと日が暮れていることも」よくあったそう。時間を忘れて没頭するのは、編み物以上というから驚きです。
ーーさらに「編むことと、書くことは似ている」とも。
「柄やトピックをちりばめたり、下から編むようにだんだんつないでいったり。思ってもみないようなことが、書きながらわかっていくスリルもあって、結末の意外性は自分でも『あ、こうなったんだ』という感じ」
ーー3歳の頃から編むことを続けてきた三國さんだからこそ、文章を織りなすことを表現できるのかもしれません。
大人になった今、世界に恩返し
していきたいなぁという気持ちがあります
ーー読み手の記憶が呼び起こされるような、語りすぎない余白の美のようなものがある、三國さんの文章。そうお伝えすると、一度書いた文章を何度も読み返し、余計なこと、リズムにのらないことは削る作業をしているとか。「文章を口ずさめるぐらいに仕上げる」まで、読んでいる人の気持ちになり、書くことを楽しんでいるのだそう。
ーー家族や親戚などの登場人物は、みんな三國さんの視点で、愛情と感謝を持って綴られています。印象的なのは、少女時代に関わった大人たちの言葉。
「同世代の友だちになじめなかった分、大人に助けてもらったことが多々ありました。そういう意味でも、大人になった今、世界に恩返ししていきたいなぁという気持ちがあります。この本を読むことで、ちょっとでも楽になったりする人がいるのなら、私はとってもほっとします。少しは恩返しできたのかな」
ーー今、目の前ですべてを受け入れてくれるような笑顔でお話をされる姿からは想像もできない、多感な少女時代。まわりになじめなかったあの頃から、今や著名なニットデザイナーとなり、この本は編み物を知らない人々にも届いています。
「私から能動的に動いたわけではなくて。チャンスが来たときに、失敗を恐れて『私なんか』と、ならずに飛びこんでいっただけなのかもしれない。チャンスっていうのはそんなに、あふれるほどはやってこないから、やってきたときには摑んだほうがいいのかな、と思います」
新著『編めば編むほどわたしはわたしになっていった』
人をおもしろがらせることが好きな母親とのエピソード、夫との出会いのエピソード、読んでいて救われた気持ちになる、大人の世界の存在を教えてくれた「ひろしおじ」さんや「丹後先生」のこと。家族のことや過去の思い出を題材にしたエッセイでありながら、筋の巧妙さと着地のおもしろさは、短編小説のよう。
¥1,650(新潮社)
お話を伺った三國万里子さんProfile
みくに・まりこ/1971年新潟県生まれ。3歳で祖母より編みものの手ほどきを受け、長じて多くの洋書から世界のニットの歴史とテクニックを学ぶ。「気仙沼ニッティング」および「Miknits」デザイナー。著書に『編みものワードローブ』『うれしいセーター』『ミクニッツ 大物編・小物編』など多数。本書が初のエッセイ集となる。
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photograph:Nao Shimizu text:BOOKLUCK web edit:Masako Serizawa
リンネル2023年1月号より
※写真・イラスト・文章の無断転載はご遠慮ください
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