人々の暮らしと人生を台所という切り口から描いた「東京の台所」。22人の〈喪失と再生〉のノンフィクションの物語を収録した『それでも食べて生きてゆく 東京の台所』の著者、ライター大平一枝さんのインタビューです。
あまり見せたくないところだからこそ、その人が出る場所なんだって
東京で暮らす市井の人たちの台所を訪ね歩くウェブ連載「東京の台所」。ライターの大平一枝さんが気づきを得たきっかけは、以前取材した人から時おり届くメールでした。
「あれから再婚しました、離婚しました、母が亡くなって引っ越しましたとか、連絡があるんです」
本連載は、買ったものや収納術にとどまらず、人生の裏側にまで踏み込んでいくスタイル。基本、匿名で顔出しがないことも相まり「胸襟を開いて話してくださる」ことが多いと言う大平さん。
「エッセイストの平松洋子さんをお招きして対談した時、ちらっと『台所って奥の院よね』とおっしゃってくださって。あまり見せたくないところだからこそ、その人が出る場所なんだ、もっと書くようにしようと再認識させられたんですよね」
そうして10年。取材人数はのべ260人を超え、連載をまとめた3冊目の著書が『それでも食べて生きてゆく 東京の台所』。本書のテーマは「喪失と再生」です。
「振り返ってみると、コロナも大きかったのかなぁと。家でごはんを作る機会が増えた反面、長時間働きすぎて時間ややりがいを失われていると感じる人が増えたり。身内の死や健康、ふるさとや夢……何も失ってない人なんていないなあって」
また、そこに大平さん自身の「喪失」も重なります。
「友達が病気になったり、元気だった人がいなくなったりすることも増えて。そういう側面を掘り下げてきた時に、見えるものがあるんじゃないかって」
思いに至ったのは、やり続けてきたからこそ。
「慣れてくるかと思いきや、まだまだ書き手として未熟だし、だからこそ終わりがないのが楽しい、登りがいのある山だなと。それも、台所が気づかせてくれたこと」
今日からマネできる術を知りたい、すぐに答えが知りたい。そんな思いから私たちは逃れられそうにないけれど、せめて。物語には続きがあること、見えない奥にこそ面白さがあること。さらに続けることで見えてくる景色の広さや深さ、とめどなさを知っておきたい。そう、つくづく感じたのでした。
新著『それでも食べて生きてゆく 東京の台所』
朝日新聞ウェブマガジン「&w」の連載「東京の台所」書籍版最新作は、22人の〈喪失と再生〉の物語を収録。ノンフィクションでありながら、手ざわりと情感をたっぷり含んだ筆致。市井の人々の一筋縄ではいかない暮らしと人生観が、こみ上げる涙とともに浮かび上がる。台所から時代の変化を読み解くコラムにも膝を打つ。
お話を伺ったのは……大平一枝さん
PROFILE
おおだいら・かずえ/ライター。長野県生まれ。著書に『東京の台所』『ただしい暮らし、なんてなかった。』『ジャンク・スタイル』(平凡社)、『昭和式もめない会話帖』(中央公論新社)、『届かなかった手紙』(角川書店)ほか多数。『東京の台所2』(朝日新聞デジタル『&W』 )ほか連載中。
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photograph:Shinichiro Soma text:BOOKLUCK web edit:Liniere.jp
リンネル2023年5月号より
※画像・文章の無断転載はご遠慮ください
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