「学生のときから、いつか求龍堂で画集を出したいと夢見ていたので、30年越しにちゃんと形になって、本当にうれしい」と平澤まりこさん。今年で画業25周年を迎えた平澤まりこさんの新著『いつかの森』が発売。今回は作品作りにおいて大切にしていることなどインタビューしました。
言葉にしてなくても繋がる、そんな喜びがあるんです
「作品を買うことって、作家のエネルギーやパッションを手にするようなこと。画集もそれに近いけれど、より一連の流れを俯瞰して見られる分、伝えたいことが凝縮されている気がします」。そう、あたたかで溌剌とした表情で話してくれる平澤まりこさん。長くイラストレーターとして活躍を続け、著書も多くある彼女ですが、このたび初の画集となる『いつかの森』を出版しました。「イラストレーションの仕事も好きで続けているんだけど、どうしても何かをわかりやすく伝えるという役目がある。対して作品は、見てくださる方が自分の感覚のなかでキャッチして、結びつけてくれる。言葉にしてなくても、無意識のなかで繋がっている、そんな喜びがあるんです」
平澤さんが選んだ手法は、歴史あるプレス機を使った“モノタイプ”と呼ばれる版画。版面全体にインクを塗り、布で拭き取ることで、深いにじみが現れます。1枚しか刷れず、じかに絵を描くことに近しいゆえ、陶作家の安藤雅信さんが「描版画」と名付てくれたそう。
プレス機に向かう際、自分なりのテーマにしているのが頭を使わず、直感に従い、ただ「描く」こと。「たった一枚だから、“いま”に集中することで、そのときの素直な自分が出る。無邪気さに触れたとき、人は軽やかな気持ちになるように、そのままでいたほうがいいなと思ったんです」
あまたの作品に登場する白い馬のモチーフも、背中からお尻にかけてのラインを描くことが気持ちよかったから。「ただ描いていくうちに、だんだん感じるものが変わってきて。白い馬っていうのは、自分を導いてくれる存在。凜とした佇まいや、慈愛のまなざしは、唯一無二だなと。私が今飼っている犬にも似ていて、純粋で、惹かれる理由です」
イラストはひとりでの作業ですが、描版画は刷り師さんとの協働で生まれます。「普通は既存のインクの色を使うのだけど、私の場合は贅沢なことに、つど色を作っていただいていて。いつも微妙な色をお願いしているから、絶対に同じはありえない。一期一会なんです」。だからこそ、思いがけぬおもしろいケミストリーが起こることも、ままあるとか。
今年で画業25周年を迎えたという平澤さん。まさにその節目としてふさわしい作品集となりました。「学生のときから、いつか求龍堂で画集を出したいと夢見ていたので、30年越しにちゃんと形になって、本当にうれしい」
新著『いつかの森』
かつて触れたかもしれない、神話のワンシーンのようなモチーフの数々。かつて見たかもしれない夢のように、ぼやりとたゆたう豊かなにじみ。また作品のタイトルや章ごとに書かれた美しいことばもよき手綱となり、ページをめくるたびに、空想の旅へと連れていってくれる。描版画74点のほか、陶作家の安藤雅信氏との共同制作による「陶彫画」も掲載。
お話を伺ったのは……平澤まりこさん
PROFILE
ひらさわ・まりこ/イラストレーター、エッセイスト、アーティスト。1996年 セツ・モードセミナー卒業。2002年『おでかけ手帖』(情報センター出版局)刊行以降、暮らし、旅、食などについての著書を多数刊行。近年は「描版画」と名付けた版画を手掛け、陶作家との共作による「陶彫画」とともに活発に展示発表を行う。
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photograph:Shinnosuke Soma text:BOOKLUCK
リンネル2023年10月号より
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