「消費社会に振り回されない自分を持てる。そこに光と誇りを与えたい」/塩谷 舞さん新刊『小さな声の向こうに』インタビュー 「消費社会に振り回されない自分を持てる。そこに光と誇りを与えたい」/塩谷 舞さん新刊『小さな声の向こうに』インタビュー
言葉にできない想いを心地よく言語化してくれるエッセイスト塩谷舞さんの著書『小さな声の向こうに』は、塩谷さんが生きるなかで出合った“小さな声”に耳を傾けた言葉が綴られています。心の穏やかさを取り戻し新たな美意識の世界へと導かれる一冊です。
暮らしのなかの“小さな言葉”に耳を傾けた1冊
まとまらない、でも言いたかった思いを心地よく言語化してくれる共感の深まりと、新たな美意識の世界へと連れていってくれる視点の広がり、ともに感じさせてくれる一冊と出合いました。エッセイスト塩谷舞さんの新しい著書『小さな声の向こうに』です。
「日本の暮らしの中に潜む美意識や、静かな音楽や美術、ままならない自らの身体のこと│私が生きる中で出会った、様々な〝小さな声〞に耳を傾けながら書いた1冊です」
暮らしの描写から始まり、塩谷さんの考察が広がる。
「家事をしながら、これは自分がやりたいからやっているのか、女性だからやっているのか。好きでやっているのだけれど、もし自分が男だったらやってないかもしれない。そうした葛藤がすごくあって」
けれど家事が「お金にならない」や「社会的価値がない」と軽視されることもある。塩谷さんも以前はそう感じていたと言います。
「20代の頃は、社会の中で成果を挙げることこそが人生の意義だと捉えていた時期もあって。家事に時間を割くことに、もどかしさを感じていました」
けれども異国での暮らしやコロナ禍を経て、塩谷さんの価値観は変化していった。
「市井の人々の暮らしという1粒を最小単位として社会が構成されているのだから、その小さな粒の輝きに固執するのは自然なことだと思い至るようになりました。自らの暮らしも、女性の権利や環境問題と地続きになっている。美しい暮らしを礼賛することと、社会に目を向けることは両立します。たとえばウィリアム・モリスも、政治的な思想を掲げたデザイナーでした」
呆れるほどに何度でもひとつのことを反復する。そうすることで心の穏やかさを取り戻していく、だけでなく。この行為に価値があると唱え続けたいと塩谷さんは言います。
「日々暮らしを維持している側だからこそできることは、沢山あります。たとえば肌寒い夜、どんな寝具で過ごすのが最適かを判断することだってそう。そうした積み重ねは『この組織を自治できている』という、自分に対する信頼に繋がります。自炊をしたり、物を修繕することで消費社会に振り回されずに自分だけの美意識を持つことができる。今は、多くの人が暮らしの中の誇り、つまり背骨を失ってしまった状態なんじゃないかと思っています。どうすれば、暮らしの背骨を取り戻せるのか。そうしたことを懸命に考え、言葉にしていきたいです」
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