社会に不安が高まっている現在、避けられるリスクには、自分で対処したいもの。今だからこそ、防犯意識を高めて、自分と家族、財産を守りましょう。今回は特に大切な家族や子どもを守るための防犯についてご紹介します。自治体や教育委員会で防犯アドバイスを行う立正大学教授の小宮信夫先生にお話を伺いました。
PART1
家族を守るための心得、万全ですか?
Q 今の住まいは安全? チェックすべきところは?
A1 泥棒の目になって考える
自分が泥棒なら、このあたりの家でどこに入るか、侵入するならどの経路か、など想像を働かせてみて。強化しなければいけないポイントは、家によって異なるので、そこから対処するといいでしょう。注意したいのは、家の情報を外部の人にもらさないこと。表札に家族全員の名前があると、家族構成がわかりますし、玄関やリビングなど外部の人が入るところのカレンダーに家族の予定が書かれていると、旅行など留守の日がわかってしまいます。水道や火災報知機の点検など、なりすましにも注意。
A2 便利な家ほど防犯対策
駅が近い、公園が近い、コンビニやスーパーが近いなど便利な場所の物件は、犯罪者にとっても便利です。すぐに逃げられたり、人混みに紛れ込めたりできるし、下見もしやすいはず。また、線路沿いは、電車が通るタイミングでガラスを割りやすいなどの特徴も。便利な物件ほど対策を。
A3 選ぶべき物件
戸建ての場合は、近所の目があるか、マンションなら管理人が常駐しているかが大切。賃貸マンションなら、エレベーターは防犯カメラが必須。管理人室でエレベーターの映像を確認できれば、防犯意識の高い物件です。カギも二重になっているかチェックを。
Q 在宅時間も増え、気をつけるポイントは?
A 予定のない訪問者に注意
警察などになりすました「アポ電強盗」や、あやしい業者の訪問には要注意。通常、点検などの場合は、事前にお知らせが来ています。「火災報知機の点検です」と言われても、覚えがなければ、管理者に連絡を取ってから、家に入れるようにしましょう。「休業補償のお金を振り込みます」「感染者が出たので水道を消毒します」などコロナ関連の詐欺にも注意。
Q ご近所トラブルにはどう対処したらいい?
A 個人で対処しようとしないこと
主なトラブルの原因は、騒音やゴミなど。トラブルを起こしている人は常識がない可能性があるので、直接苦情を言うのは危険。賃貸の場合は、管理会社から注意をしてもらいましょう。自分が身に覚えのないクレームを入れられたり、苦情から嫌がらせに発展した場合も、管理会社や警察など第三者に入ってもらったほうがいいでしょう。
Q 防犯対策、何が有効?
A「音」「光」「時間」「人の目」に着目して
泥棒が嫌うのは「音(警備システムのアラーム音など)」「光(センサーライトなど)」「時間(侵入に時間がかかる)」「人の目」の4つです。
泥棒は、侵入に5分かかればあきらめるというデータがあります。カギの数を増やしたり、窓ガラスを強化して「時間」をかけさせるのは、手っ取り早い防犯強化策です。ひとり暮らしの女性の場合は、待ち伏せ対策で室内にカメラを取り付けて、スマホで確認できるネットワークカメラが有効。そのほか、センサーライトなど、ホームセンターで数百円で買える防犯グッズもたくさんあるので、数多く備えることが、防犯の環境づくりになります。
戸建ての場合、警備会社との契約は、料金は高いですが余裕のある人にはおすすめ。お金のかからない防犯対策として、ご近所さんと親しくして不審者がいれば連絡がくるというのもいいし、庭先をきれいにガーデニングして、みんなが足を止めるようになれば、それも犯罪抑止になります。
【家族の防犯のために確認しておこう!】特殊詐欺対策
□自分は大丈夫! 詐欺の被害にあわないと思っていないか?
□何でも心配して確認しながら行動しているか?
□家族を装う振り込め詐欺対策に、家族で合言葉を決めているか?
□自宅の電話は常に留守番電話になっているか?
□振り込め詐欺対策電話機を使用しているか?
□非通知拒否の設定をしているか?
□知らない人からの電話は確認のために常に折り返す癖をつけているか?
□家族の電話番号はすべて電話帳に登録しているか?
□友人などに相談する癖はつけているか?
あやしい電話には家族にしかわからない質問(愛称を聞くなど)を決めておくのも◎。「振り込め詐欺対策電話」は、詐欺電話に対して、警告、録音、拒否を行ってくれます。
PART2
子どもに教える防犯対策
「あぶない人」でなく「あぶない場所」を見極めて犯罪を防ぐ
「子どもがひとりで遊びに行くようになると、親の防犯意識は高まりますが、そのときに誤ったメッセージを伝えている場合が多いのです」と、小宮教授。
特に「不審者に気をつけなさい」「知らない人と話してはダメ」というのは、子どもに伝わらない注意になりがち。きちんとした服装の人が犯罪者であったり、道端で2、3回あいさつした人も子どもには「知っている人」になります。「犯罪に結びつくかどうかを、“人”で判断するのではなく“場所”で判断することが大切。犯罪が起こりやすいのは、“入りやすく、見えにくい”場所です。たとえば、“木に囲まれた公園がその典型”。また、植え込みやガードレールのない通学路は、車で現れる犯罪者が子どもと直に接してしまう“入りやすい”場所です。
注意したいのは、死角でさえぎられている場所が“見えにくい”のはもちろんですが、人が多すぎる駅の周りなども、連れ去りなどが起こっていても異変に気づいてもらえない、“見えにくい”場所であるということ。
「子どもがひとり歩きするようになったら、どんな場所があぶないのか、親子で散策しながら一緒に考えるといいでしょう」
CHECK!
1と2の場面、どっちがあぶない?
日常の行動範囲の中でも思わぬ場所に危険が。“入りやすく、見えにくい”を基準に、危険度を考えて。
一見安全そうな高級住宅街ですが、高い塀に囲まれた家ばかりの道は“見えにくい”場所に。通りに面した窓がたくさんあって、視線を感じる住宅街は犯罪者にとって見えやすい場所になり、犯罪を抑止してくれます。
日本の公園は誰でも入れるつくりが多いですが、防犯視点で考えると不十分。特に周りが木で囲まれていると、“見えにくく”危険性がアップ。海外の公園は児童以外は入れないように柵で囲まれており、大人は柵の向こうで見守ります。
車道から犯罪者が子どもに声をかけ、車内に連れ込もうと思っても、ガードレールや植え込みがあれば、それが障害になり“入りにくく”なります。子どもには、ガードレールの外側を歩かないよう、言い聞かせましょう。
男女どちらでも入れる「誰でもトイレ」は、犯罪の危険地帯です。公園ならば、男女の入り口が建物の反対側にある、商業施設なら女子トイレと男子トイレは別のルートで入るなどの場所が安全です。それ以外の場合は、親がついていって。
【子どもの防犯のために確認しておこう!】
犯罪を防ぐ3つの要素
「犯罪を防ぐため、みんなが実践できる手段を要素に分けて考えました。それが犯罪抑止の3要素です」(小宮教授)。「抵抗性」とは、実際に犯罪者を目の前にしたときに抵抗できる力のこと。ドアのロックや強化ガラスはもちろん、子どもに持たせる防犯ベルも入ります。また、「後ろを歩く人が危害をくわえてくるかも」という、警戒意識も含まれます。「領域性」は、犯罪者が中に入ってこられないよう場所を区切ること、「監視性」は、犯罪者の行動を見張る周囲の目です。「抵抗性」は個人の努力でできますが、「領域性」や「監視性は、地域に呼びかけて強めることが大切です。
こんなときどうする? 親が子のためにできること
子どもが大きくなり、目が届かない時間が長くなるほど、犯罪が心配に。親が家庭でできることは?
Q 在宅で子どものしつけに苦労。DVしかねない状況です……。
A 親自身がプラス思考で
親自身が、感染症や経済的な不安などでストレスを感じていませんか? 親子の関係は平時と変わっていないのに、子どもに手がかかると感じるのは、気持ちに余裕がないから。ネットで新しいことを勉強するなど、一緒にできる楽しみを見つけて。
Q 休校中の子どもが気になる。留守番時の注意点は?
A 家の中に「入らせない」を徹底
家のどこが「入りやすい場所」なのかを点検し、そこを「入りにくい場所」に改善しましょう。戸締まりをすることも大切です。子どもには、電話に出たり、チャイムを鳴らされても応答したりしないように伝えましょう。でも、テレビを消すなど、静かにしている必要はありません。
Q SNSで子どもを特定されるのが心配です
A 写真の背景には注意を
SNSにアップする写真。位置情報は削除されていますが、背景に写っている看板や建物で、場所を特定されることがあります。こまぎれの情報を積み重ねれば、自宅の場所や名前、学校名を特定することも難しくありません。アップする前に危険な情報はないかどうか、厳しくチェックして。
Q 子どもを性犯罪から守りたい!
A 親が子ども目線で説明をする
未就学児は、何が性犯罪なのかを理解できず、表面化しない犯罪件数が多いといわれています。実際、「むし歯を見てあげる」などとだまされ顔を無防備に触られた、などの事例も。たとえば他人に触らせてはいけない場所は、水着を着たときに隠れる「水着ゾーン」であると教えれば、お尻や胸を触られたときに、何かおかしいと気づけるでしょう。
また、犯罪者は人通りの多い場所でターゲットを物色し、人が途切れたタイミングや、尾行して人けのなくなった場所で犯行に及びます。子どもが多い場所は、一見安全そうですが、犯罪者にとっては標的の溜まり場のようなもの。公園で大勢で遊んでいるときでも、決してひとりにならない、トイレも友だちと一緒に行くなど、習慣にさせるといいでしょう。帰り道の周囲が田んぼや畑の
場合、見晴らしがよいからといって油断しないように。家の窓が見えない場所は“見えにくい”場所なので、ひとりにならないよう教えましょう。誘拐事件の8割は、だまされて自分からついていったケースです。景色だけがウソをつかずに犯罪に気づかせてくれるのです。
教えていただいたのは……小宮信夫教授
立正大学文学部教授。「地域安全マップ」の考案者。自治体や教育委員会で防犯アドバイスを行う。著書に『子どもは「この場所」で襲われる』(小学館)。
Text:Ema Tanaka Illustration:Nonoco Shiraishi web edit:Masako Serizawa
※画像・文章の無断転載はご遠慮ください
リンネル2020 年7月号より
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