2018年のデビュー以来、続々と話題作へ出演している古川琴音さん。映画『偶然と想像』でも、さらなる成長のきっかけを掴んだようです。
相手に集中することで、自分の中から感情が湧き上がってくる
ーーここ最近、古川琴音さんが挑戦したいと考えていることのひとつが、自給自足の暮らし。
「自粛期間中、今まで買っていたものを一から手作りしてみようと、ギョウザを皮から作ったんです。手間はかかりましたけど、おいしさは市販品の倍以上。もし、これを小麦から作ったらもっとおいしいんじゃないかな?と思って。中学校の農業体験のとき、自分で収穫したナスで作った料理がおいしかったのも思い出して、自給自足に興味が湧いてきたんです。ある山奥にお風呂を薪で沸かしたり、ごはんを囲炉裏で調理したりできる古民家の宿があるそうなので、まずはそこで、自給自足に近い暮らしを経験してみたいです」
ーー新しい体験によって得られる、新鮮な驚き。それは12月公開の『偶然と想像』でも、古川さんが実感したことでした。映画は『ハッピーアワー』『ドライブ・マイ・カー』の濱口竜介監督による、「偶然」をテーマにした3話で構成されたオムニバス映画。古川さんが演じるのは、第1話「魔法(よりもっと不確か)」の主人公、芽衣子。親友から気になっている男性との恋愛話を聞くうちに、彼が2年前に別れた自分の元彼だと気づき、突発的にある行動に出ます。
「芽衣子は、私自身は絶対にしないような衝動的な行動をする人ですけど、そこに非日常感があって楽しかったですね。たとえば元彼とのシーンでも、相手を責めたかと思えば、あなたのことが好きだった、みたいな脈絡のないことを言い出す。そうやって相手の反応をおもしろがっているし、彼女もスリルを味わっているんですよね。自分の人生では絶対にしたくないけど(笑)、与えられた役だからこそ思いきりできました。他の2編の登場人物も共通して衝動的なところがあるんですけど、人間ってときにこういう説明できないことをしちゃうよなあ……とおもしろかったです」
ーー俳優の自然な演技を引き出すため、撮影前には約1か月かけて、長いリハーサルが行われたそう。
「まず、言葉やジェスチャーを使わずに相手と会話してみることから稽古が始まりました。次に監督が作ってくださった、本編では描かれない登場人物たちの“アナザーストーリー”を読み込んで、それからやっと台本を読む……という流れでした。本読みでは“相手のおなかに鈴が下がった状態”を思い浮かべて、自分の声でその鈴を鳴らしたり、揺らしたりするイメージで読むんです。それを続けていくうちに、今こうして会話しているときに近い感覚になるんですよね。普段、人と会話しているときって、自分が何を言っているかよりも、相手に意識が向くと思うんです。それがお芝居の中でもできるようになっていきました」
ーー相手に集中することで、自分の中から感情が湧き上がってくる……という経験も、今までとは違うリハーサルの方法を通じて得られたもの。
「相手の反応を見て、自然と言葉が出るようになる。というよりか、その台詞が必要になってくるんですよね。だから気持ちも自然に乗るし、『台本にこう書いてあるから、こう反応しよう』と頭で考えなくても、本当に会話しているように自分の心が動くし、相手の心が動いていくのが感じられる。それは驚きでした」
ーーそうした気づきは、その後に撮影した「コントが始まる」などの作品にも影響しているそう。
「この作品で教わったことのほとんどすべてが、他の現場にも生きています。特に印象的だったのが、『1に相手、2に台本、3、4がなくて5に自分』という濱口監督の言葉。台本を読んだときに、自分の役を追求することも大事だけど、現場に行ったらそれを全部手放して、監督に言われたことを実行できるようにしたい。どの現場に行っても、そう思うようになりました」
ーー2022年は、初挑戦となるミュージカル『INTO THE WOODS』からのスタート。赤ずきん、シンデレラ、ラプンツェルといったおなじみの童話を現代的に解釈した、大人向けのファンタジーです。
「ミュージカルの楽しい世界と、ブラックジョーク的な世界をどうやって表現できるか……。私にとっては新年早々のチャレンジですね。その勢いに乗ったまま、いろんな挑戦ができる1年にしたいです」
ーー中学、高校と演劇部に所属し、大学では英語劇のサークルに入っていた古川さん。それだけに、舞台作品への思い入れは大きいよう。
「舞台は自分がお芝居を始めたきっかけでもあるので、決まったときはすごくうれしくかったです。学生時代の友人に報告したときにも反応が大きいですし、やっぱり特別感がありますね」
ーーこれからの目標は、「どんな場所でも、どんな形でも、お芝居ができるようになること」。
「たとえば、まだやったことのない声優のお仕事にも挑戦してみたいし、機会があれば海外作品にも出演してみたいです」
出演映画『偶然と想像』
監督・脚本:濱口竜介/出演:(第一話)古川琴音 中島歩 玄理、(第二話)渋川清彦 森郁月 甲斐翔真、(第三話)占部房子 河井青葉/2021年12月17日(金)よりロードショー中
「偶然」と「想像」をテーマに、異なる3つの物語で構成される短編オムニバス。ベルリン国際映画祭のコンペティション部門では銀熊賞を受賞した。撮影帰りのタクシーの中、モデルの芽衣子(古川琴音)は親友のつぐみ(玄理)から、気になっている男性(中島歩)とののろけ話を聞かされる。つぐみが先に下車したあと、車内に残った芽衣子が運転手に告げた行き先は─。第一話「魔法(よりもっと不確か)」。
お話を伺ったのは……古川琴音さん
PROFILE
ふるかわ・ことね/1996年生まれ、神奈川県出身。2018年、女優デビュー。2019年公開の映画『十二人の死にたい子どもたち』でメインキャストの一人を演じる。主な出演作に、連続テレビ小説『エール』、ドラマ『この恋あたためますか』『コントが始まる』、映画『泣く子はいねぇが』『花束みたいな恋をした』『街の上で』など。10月には、初主演短編映画『春』が公開。2022年1月にはミュージカル『INTO THE WOODS』の公演が控える。
古川琴音さんのナチュラルおしゃれでしたいこと【YouTube リンネル チャンネル】
photograph:Chihaya Kaminokawa styling:Kaho Yamaguchi hair & make-up: Taeko Kusaba text:Hanae Kudo web edit:Masako Serizawa
※画像・文章の無断転載はご遠慮ください
リンネル2022年2月号より
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