日本でもブームになりつつあるサウナですが、フィンランドのサウナとは少し違うよう。フィンランド式サウナの根底にある精神とは? 今回はフィンランドで空前の大ブームの公衆サウナについてサウナ文化研究家のこばやしあやなさんにお話を伺いました。
フィンランドの公衆サウナから見えてくる、
「他者を信頼し、違いを認める」“ オマ・ラウハ(自分の平穏)”の精神
フィンランドのサウナの中では、人とのほどよい距離感が自然と保たれるそう。それは、フィンランド社会の人間関係で重要視される「オマ・ラウハ(oma rauha)」という概念に通じるものだというこばやしさん。
「自分の平穏、などと訳される言葉です。自分が干渉されたくないから、他者に対しても寛容になる。自己防衛方法のひとつで、自分が一番大切ともいえますが、根底に信頼関係が育まれる合理的な考え」
公衆サウナに絶対的なルールがないのもその表れ。多少常識はずれなことをしても、相手が楽しそうならその行為を咎めないのだとか。
「サウナに居合わせた人はサウナを楽しみたいという思いを共にする運命共同体。自分の世界に浸りながら、周りにもアンテナを張っている。信頼をもとにした心地いいフィンランド社会が感じられる場所です」
21世紀のサウナルネサンス到来
フィンランドの首都、ヘルシンキでピーク時の1945年前後には少なくとも120軒あったといわれる公衆サウナですが、1990年代にはわずか3軒に激減。
しかしこの10年ほどの間に、浴場施設の経営や行政とも無縁の、民間人の主導をもとに、通年営業の新築の公衆サウナが2軒、さらに季節限定オープンや非営利施設、古い建物内にあったサウナのリノベーション施設を含めると、10軒近い新規店舗が次々と誕生。
人がつながるサードプレイスの場として、公衆サウナが持つ可能性に注目が集まっています。
公衆サウナ内のこんなところが“オマ・ラウハ”
ロウリュするのは
ひと声かけてから

複数の人とサウナを共にするときは、気持ちのよい蒸気も人それぞれ。
「ロウリュしてもいいですか?」とひと声かけるのが暗黙のルールです。「聞かれて「NO」という人はいません。熱いのが嫌な人は、下の段のベンチに移ったり、サウナの外に出たりして、断らず相手に合わせるのもオマ・ラウハです」
聖なる場所サウナに
ふさわしい振る舞いを

絶対的なルールは決まっていません。個人の振る舞いは本人の判断に委ねています。必要なのは最低限のマナー。バケツに水がなくなったら水を足す、サウナ前のかけシャワーで汚れを落とす、ベンチにタオルを敷いてから座るなどの配慮をすると◎。
セキュリティは
あえて強化しない

信頼感の下で運営が成り立っているという、フィンランドのサウナ。
「古い公衆サウナにはロッカーすらありません。心地よさを重視しているから、監視やルールを厳しくしたりしない。信頼されているなかで、誰も悪いことをしようとは考えない感じです」
おしゃべりしてもよし、
一人の世界に興じるもよし

誰かと親密に話してもいいし、一人の時間に没頭してもいいのがサウナの居心地いいところ。
「なぜかサウナの中では、普段話せない深い会話ができるのが不思議。でも一人で楽しみたい人もいるので、邪魔しないように声のボリュームを調整する気づかいが、無意識にできる場所でもあります」
日本の銭湯とフィンランドのサウナの共通性と違い

【同じところ】
●裸になって心身を清める
●始まりと再びブームとなるまでの歴史
●コミュニティ機能
銭湯もサウナも日常的に体を清め、リラックスして団欒を楽しむ場所。もともとは自宅に浴室がない人が行く場所だったため、家で入れるようになってから数が減っていったという歴史も似ています。また、基本的に男女別になっていて裸で入り、初対面の人と同じ蒸気や湯に浸かることができるのは日本とフィンランド共通。常連客が来ていないと心配する、コミュニティがあるところも同じです。
【違うところ】
●価格設定はフィンランドのほうが高い
●外気浴でクールダウンをする
●常連客の一見客への態度
「公衆浴場組合」による価格統制で、ワンコインで入れる気軽な銭湯。それに対し、フィンランドのサウナは最低限の施設でも1000~2000円。フィンランドではサウナで火照ってきたら、外気浴をします。涼しい室外でクールダウンしたらまたサウナへ。自分がしたいだけ繰り返します。また、フィンランドでは常連さんが外国人観光客や一見さんに対して、そこのよさを知ってほしいと、手ほどきしてくれることも多いのだとか。
教えていただいたのは……こばやしあやなさん

■フィンランド大使館員ラウラさんが楽しむサウナとフィンランド料理を見る↗
■一家にひとつサウナがある、フィンランド人が愛する3つのサウナとは?
illustration : Mana Kawasaki text : Mayumi Akagi web edit : Masako Serizawa
リンネル2019年12月号より
※画像・文章の無断転載はご遠慮ください
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