江國香織さん「感傷的にならないで“ただあるもの”として受け止めていたらいいなって」/新刊インタビュー 江國香織さん「感傷的にならないで“ただあるもの”として受け止めていたらいいなって」/新刊インタビュー
正解探しではなく、自然と本の世界観に導かれてしまう。今回は、江國香織さんの新著『シェニール織とか黄肉のメロンとか』の発売を記念し、新作に込めた思いをインタビューしました。
正解がない、歳を重ねた女性たちの漫然とした日常
何かを得るためではなく、ただただ読んでおもしろい。どんどん読み進めたくなるのではなく、ずっと〝この世界〞にいたい。そう心から思える、江國香織さんの新刊『シェニール織とか黄肉のメロンとか』と出合いました。主人公は、大学時代の同級生。50代になり、それぞれの道を歩む3人の女性と、とりまく人々の日常。いつかの思い出話もあるけれど、「聞いて〜」から始まる、現在進行形の話もある。それらが当たり前にひと続きのものとして、ポンポンとリズミカルに紡がれ、流れていきます。
「確かに〝今ここ〞の話なんですけど、過去が当然、誰にもあって。共有した過去もあれば、共有していない過去もある。ただ彼女たちみたいな関係性って、心強いなと思います」記憶はそれぞれ違っていたとしても、共有した〝あの時間〞があるというのは、何かの役に立っている。そう、江國さんは言います。
「ただ小説の中での彼女たちは、そんなふうには考えてないと思いますけどね。あんまり感傷的な人たちじゃないので(笑)。でもだからこそ、ある種そのドライな強さが、読者に見えるといいなって」
家に転がり込んできた友人から、夜ごと繰り出される愚痴やプチ自慢にあきれつつも耳を傾けたり、施設にいる義母や家族の世話で手いっぱいと言いながら、新しく来た犬に夢中になったり、80になる母親のことを心配して疎まれたり、その母親と友人がやたら気が合うのにモヤモヤしたり。
「会話が楽しいばかりの人たちを描きたかったんですけど、そういう人はそういないですよね。歳を重ねれば重ねるほど、自分の死に近づいていくわけだし、病気をする可能性もあるし、介護もあるし、周りの人が徐々にいなくなっちゃったりもする。みんなそれらを避けて通れないけれど、感傷的にならないで、〝ただあるもの〞として彼女たちが受け止めていたらいいなって」。
大事なのは、今夜おいしいものを食べたいとか、デパートに行きたいとか。「生活って、そういうものでできているのかなと思うので」。
彼女たちはかけがえのない関係だけど、友情を確かめ合うこともなく、ことさら意味も込めない。漫然とした、可笑しくも愛おしい日々が続く。
「何か得るもののあるほうが読み応えがある人もいると思うんですけど、正解探しみたいなことになるというか、導かれていくのが、私には苛立だたしくて(笑)。自分で入っていきたいって思ってしまうんですよね」
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