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:芥川賞を受賞した話題の一冊! 山と人生を重ねて瞑走する純文山岳小説/松永K三蔵さん新刊『バリ山行』インタビュー
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会社も人生も山あり谷あり…山と人生を重ねて瞑走する芥川賞を受賞した、松永K三蔵さんの新刊『バリ山行』。本書は山岳小説でありながら、同時にお仕事小説であり、組織で働いた経験がある人ならきっと共感できる社会のあり方がリアルに描かれた一冊に。この本を通して、今の世の中の本質的な部分に目を向けてみて。
山は世界のあり方とも似ていて、そこに僕らが人間としてどう対峙するか
まさに山に登りきったときのような、日常を超えたとめどない感情が胸を突き上げてくる。今年の芥川賞を受賞し、話題でもちきりの『バリ山行』の著者、松永K三蔵さん。
「山岳小説に期待するのは、自然の楽しさや心地よさ、開放感ですよね。その一方で、自然の厳しさやままならなさ、危険にさらされる部分もある。山は世界のあり方とも似ていて、僕らが人間として、そこにどう対峙するか。読んでいる人に感じてもらえるかもしれません」
舞台は神戸。会社員の波多は同僚に誘われるまま六甲山登山に参加、山のおもしろさに目覚めます。同時に社内で変わり者扱いされている妻鹿が、登山路を外れる難易度の高い登山「バリ」をしていることを知り、興味を持つように。一方、仕事では取引先とのトラブルやリストラ騒ぎなど、さまざまな事件に見舞われ、葛藤する心模様が並走して描かれていきます。そう、本書はロマンでありながらリアルで、山岳小説でありながら、同時にお仕事小説でもあるのでした。
「組織で働いている人なら同じような経験があると思うんですけど、誰が悪いわけでもなく、仕事をこなす上で板挟みになりながらも、歯を食いしばって進んでいかなければならない。自分も平凡なサラリーマンですし、組織に自分や、自分の家族の生活を左右される怖さを味わってきました。登山の経験もそうですが、仕事の経験もやはり小説に生かされてます」
ストーリーが進むにつれあぶり出されるのは、「極限を感じる」とはどういうことなのか。波多と妻鹿の対照的な言動から、とらわれていた価値観を揺るがされます。
「正解ってないと思うんですよ。自分の生活を守るのに必死である一方で、ふと、組織や上司が自分の本質的な部分に何を成し得るんだろうか、
とも思うんですよね」
それは社会のあり方が大きく変化しつつある今の世の中における、タイムリーなメッセージのようにも感じます。
「社会がよりシステマティックになって、個人のあり方が問われている。その中で、自分がどう生きていくのかを考えていくと、やっぱりより本質的なところに還っていくと思うんです。命、そのものの実感を得るというか。突き抜けろ、とまではいかないけど、うまく折り合いをつけながら、まずはそれを自覚することなのかなと思います」
新著『バリ山行』
お話を伺ったのは……松永K三蔵さん
まつなが・けーさんぞう/1980年茨城県 生まれ。 関西学院大学文学部卒業。2021年 第64回群像新人文学賞優秀作『カメオ』でデビュー。2024年『バリ山行』で第171回芥川龍之介賞受賞。兵庫県西宮市在住。
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photograph:Rana Shimada text:BOOKLUCK
リンネル2024年11月号より
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