CULTURE

ドレスコーズ・志磨遼平さん「<才能>がある限り、何かを作り続ける」/アルバム『†』インタビュー ドレスコーズ・志磨遼平さん「<才能>がある限り、何かを作り続ける」/アルバム『†』インタビュー

ミュージシャンとして孤高の存在感を放つだけでなく、作家や俳優など多彩な分野で才能を発揮している、志磨遼平さん。ドレスコーズとして10作めとなるオリジナル・アルバムでは、原点に戻って、ロックンロールの持つダイナミクスやロマンティックな部分を感じられるエキサイティングな内容に。アルバムの制作過程や最近の暮らしぶりについて、ご自身が意匠を手がける東京・阿佐ヶ谷にあるミュージック/レコード・バーの『バー フジヤマ』にてお話をうかがいました。

目次
  1. 「デビュー盤のような10作めのオリジナル・アルバム」
  2. 「わき目も振らず好きなことを追求してきた」
  3. 好きなものに囲まれた健やかな暮らし
  4. NEW ALBUM『†』
  5. PROFILE

「デビュー盤のような10作めのオリジナル・アルバム」

━━昨年は自叙伝的な書籍『ぼくだけはブルー』を上梓。志磨さんの音楽人生を振り返る、とても読みごたえのある内容が話題になりました。

志磨遼平さん(以下敬称略) これまでもコラムの連載をまとめた本を出したりしたことはあったのですが、一からの書き下ろしで、それも自分の半生をまとめたものはもちろんこれが初めてです。そもそも過去のことを振り返るのは得意ではないので、書き終えたあとは妙に疲れたというか、自分が一気に歳をとったような錯覚におちいりました。でもそのおかげでさっぱりしたといいますか、これからデビューするバンドのような気持ちで10作めとなるアルバム制作に取り組むことができましたね。

━━そして完成したアルバム『†』(ヨミは不明)。ここにはどんな思いが込められているのでしょう?

志磨 はじめは英語や日本語など、いくつもタイトル候補を考えたんですけど、どれもしっくりこなくて。今言ったようにこれがデビューアルバムのつもりですから、とにかくシンプルで簡潔なタイトルがいい。散々悩んだあげく、この記号に行きつきました。通算10作めのアルバムということで、漢数字の<十>にも見えるし、ローマ数字でも<10>は<X>なので。僕は特定の信仰はないんですけど、十字架にはやはり<人生に迷った時の心の拠り所になるもの>というイメージがありますから。そう考えるとなかなか深い意味にも思えてくるっていう。そこにこのアートワークの妙ちくりんな人物が重なれば、いよいよ意味深に見えてくる(笑)。

━━(笑)。確かにビジュアルも衝撃的ですね。

志磨 (ビジュアルでは)まあ、今までも散々いろんなビジュアルを試してきましたから。今さら目新しさはないかもしれませんが(笑)。

━━アートワークからだけでも、常にストイックに新しいことを追求する姿勢が伝わってきます。

志磨 これは自分の性分なので。同じスタイルをずっと貫くことができないっていう。

━━10枚もアルバムを作られていると、どこかで聴いたことがあるフレーズも自然に出てくるものだと思うのですが、この作品ではそういう部分がないというか。とてもフレッシュで鋭角な印象がします。これまでの作品との作りかた、向きあいかたに違いがあったのでは?

志磨 現在、ドレスコーズに参加してくれている4人のメンバーとは、アルバムを2枚作って全国ツアーも3度まわっているのですが、みなさん僕の言うことを即座に違いなく理解してくれる天才集団でして。なので、今回の制作にあたっては<これからデビューするバンドのつもりで演奏してください>とだけお伝えしました。結果、僕がいち音楽リスナーとしてずっと聴き続けてきたような、荒削りで勢いのある自分好みのサウンドを録音することができたのです。こんなレコードがあったら、こんなバンドがデビューしたら、自分が絶対に一番のファンになるという、そういう作品を完成させることができて非常に満足しています。

━━いちリスナーとして、かなりエキサイトする作品だと。

志磨 こんなバンドを待ってたという感じですね。

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「わき目も振らず好きなことを追求してきた」

━━「ヴィシャス」から始まって、「ミスフィッツ」で終わる構成とか、これまでのロックンロールやバンドにリスペクトを捧げている姿勢も感じました。

志磨 僕はまずメロディを作って、それに合わせて後から歌詞を書くんですけど、それとは別でただカッコいいだけのタイトルのストックが大量にありまして(笑)。そのストックの中から新曲に合うものがあれば流用するんです。今回は「ヴィシャス」というタイトルの曲でアルバムが始まったらカッコいいなということで、一番威勢のいい曲にそのタイトルを与えたという感じですね。

━━タイトルやサウンドはインパクトが強く、鋭いのですが、メロディが流麗で耳に心地よく残るものに。そのバランス感覚が面白いと思いました。

志磨 一聴しただけ、パッと見ただけではすべてを理解できないように工夫しています。さっきのアルバムタイトルもそうですけど、ダブル・ミーニングでひとつの言葉にいくつもの意味を持たせたり、何かと仕掛けのあるものを作るのが好きなんだと思います。

━━確かに、歌詞に関してもいろんな読み取りかたができますが、すぐにイメージがパッと浮かぶような描写もされている印象です。

志磨 前作の『式日散花』と前々作『戀愛大全』は2部作で、内容も共に<死と別れ><恋愛>というセンチメンタルなテーマを抽象的に描いたものだったのですが、今回のテーマはとても具体的で直接的ですね。怒りや焦燥感が根底に流れていて、その上でポジティブであろうとしている。それが堂々とはっきり描かれているはずです。

━━だからか、ボーカルもエモーショナルですよね。

志磨 元気ですね、歌い方もね。

━━バラエティに富んだ10曲が収録されていますが、今回のセッションのなかでこれができてよかったと思う部分はありますか?

志磨 どれも気に入っていますが、冒頭3曲の勢いは特に素晴らしいですね。間髪入れずに畳みかけるような。

━━ロック・バンドらしい疾走感が伝わってきました。全体的にストーリーを考えて収録曲を構成されたのでしょうか?

志磨 ストーリーというほどではないですが、冒頭の「ヴィシャス」から「リンチ」まで繋がっていく流れは最初の構想の時点でありましたね。

━━ラストの「ミスフィッツ」は、次に繋がっていくような感じというか。またアルバムの世界へリピートして入りたくなる楽曲になっていますね。

志磨 これもカッコいいタイトルリストに入っていたものです。同名のホラーパンクバンドがアメリカにいまして、まあパンクが好きな人であればなじみのある言葉ですが、つまり(社会に)フィットできない、<ミスフィット>という言葉はよくよく考えてみると僕の創作のテーマそのものじゃないか、と思い当たりまして。僕はロックンロールが大好きで、ただただそれを追い求めて、わき目も振らず、世間の評判も気にせずに今までやってきたんですけど、いつのまにか孤高の存在だとか奇才だとか言われるようになりまして、まあイヤな気はしないのですが、僕としては何も珍しいことはしていないし、ロックンロールなんてみんな好きに決まっているだろうと思ってやってきたのに世間はどうもそうではないらしいという。なんだか大きな流れ・群れから、ずいぶんはぐれて、遠くへ来たもんだという複雑な違和感がありますね。

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好きなものに囲まれた健やかな暮らし

━━そういう違和感が新しい何かを作るモチベーションになる部分もあるのでは?

志磨 まあ、どうせ何かを作るなら珍しいもののほうがいいでしょうし。あまり気にせず、これからも古いものに学びながら歩もうと思っています。

━━また、おそらく他の人も心のどこかで感じる<ミスフィット(違和)>感にもリンクする楽曲にもなっているような。

志磨 僕と僕の音楽に共感してくださる方とのテーマソングのようなものができたことはよかったと思いますね。

━━まもなくスタートする全国ツアーは、現在の志磨さんのロックンロールへの思いを感じられる内容になりそうですね。

志磨 とにかく陽気に、ゴキゲンにやろうと思っています。なにしろこれはロックンロールアルバムですからね。

━━今後、ドレスコーズとして、志磨さん名義の活動など、何か挑戦したいことはありますか?

志磨 どういう言葉を選べばいいのか悩みますが……あえて<才能>という言葉で説明しますね。この<才能>が、枯渇するイメージが僕にはわかなくて。これから何をするのか僕にもわかりませんが、この<才能>がある状況が続く限り、僕はそれに引っ張り回されながら生きていくんじゃないでしょうか。僕は本当は何もしたくないんです。家からも出たくないし、働きたくもないし、目立ちたくもない。でも<才能>がある限り、何かを作り続けることが、僕の使命なので。<才能>に髪を立てろと言われればそうするし、眉毛を剃れと言われれば潔く剃る。何でもいいから作り続けるという生活が、今後もきっと続くのでしょう。

━━最後に、志磨さんの最近の暮らしについておうかがいできたらと。お話ぶりから、とても健やかな生活をされているような印象です。

志磨 これはとてもラッキーなことなのですが、何のストレスもなく生活していると思います。アルバイトもせずに、好きなことだけに没頭して暮らしているわけですから。しかも、自分が納得できない仕事はしないという、社会に出れば決して通用しないようなことも許される環境にある。そのせいで振り回される周囲のみなさんにとっては迷惑な話だと思うのですが、そういった方々のおかげで僕は純粋に仕事に打ち込める。だから健やかに見えるのだと思います。

━━お部屋は志磨さんの好きなものしか置いてない印象です。

志磨 もう足の踏み場もなくて。だから、部屋に入りきらなくなったレコードを、ここ(バー フジヤマ)に並べているという。僕の物置部屋みたいなものです。
━━つまり、ここで志磨さんの暮らしの一端を垣間見られるわけですね。

志磨 僕の好きなものだけが置いてありますので、みなさまもぜひいらしてください。

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NEW ALBUM『†』

ドレスコーズ
¥3,300(通常盤)
キングレコード/EVIL LINE RECORDS
now on sale
ローマ数字の10をさす「X」にも、漢数字の「十」にも見える十字架のようなダガー・マークをタイトルにした(ヨミは不明)、通算10作めのオリジナル・アルバム。先行配信された「ヴィシャス」や「ミスフィッツ」などを収録した全10曲。同時発売の初回限定盤は、7インチレコードサイズ紙ジャケット仕様で、昨年開催されたツアーのファイナル(Zepp Shinjuku)公演の模様を収録したブルーレイ付き。

PROFILE

しま・りょうへい/1982年和歌山県生まれ。毛皮のマリーズを解散後、2012年よりドレスコーズとして活動開始。最近は文筆活動のほか、映画のサウンドトラック、俳優など多方面でも才能を発揮。612日〜the dresscodes TOUR2025が開始。東京公演は、76Zepp Shinjukuにて。
https://dresscodes.jp/


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photograph: Miho Kakuta styling: Koji Taura hair & make-up: Noriko Okamoto text:Takahisa Matsunaga

撮影場所:バー フジヤマ
https://www.instagram.com/barfujiyama_asagaya/

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