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穂志もえかのバンクーバー通信「colorful days」【連載・第4回】渦中の人のことを想像し、想いを寄せたい 穂志もえかのバンクーバー通信「colorful days」【連載・第4回】渦中の人のことを想像し、想いを寄せたい

連載 #穂志もえかのバンクーバー通信 colorful days

ハリウッドドラマ FX「将軍 SHOGUN」の撮影のため、昨年9月からカナダのバンクーバーに滞在している女優・穂志もえかさん。初めての海外生活で感じているさまざまなことを、リンネル.jpの連載で綴っていただきます。第4回目の今回のお話は、カナダ住まいの身近で起きたデモを通して感じたこと、今の世界情勢にもつながる穂志さんの気持ちを書いてくれました。

目次
穂志もえかのバンクーバー通信「colorful days」【連載・第4回】渦中の人のことを想像し、想いを寄せたい
  1. 穂志もえかのバンクーバー通信「colorful days」第4回
  2. 穂志もえかさんプロフィール

穂志もえかのバンクーバー通信「colorful days」第4回

こんにちは!
皆様、いかがお過ごしでしょうか?

今この記事を書いているのは2月27日ですが、
まだロシアとウクライナの戦争に終結が見えず、
どこか心が落ち着かない日々を過ごしています。

先の記事でも、
バンクーバーに来て、人々の外に放出するエネルギーを感じている、
とお伝えしましたが、
デモなども本当によく見かけます。
その、自分たちの想いを行動でもって主張していく活力に、心が震える時もあります。

お気に入りの街で起きたデモについて思うこと

先日、2月14日には、
Women’s Memorial Marchという毎年恒例のデモ行進がありました。
これは、行方不明、殺害されたカナダの先住民族の女性たちを追悼し、また、格差や差別、暴力に対する抗議でもあるそうです。

カナダには複数の先住民族の方たちがいらっしゃいますが、
他国からの移民によって虐げられてきた歴史があります。
(断じて過去の話に留まらないのですが)

実は私は歴史に少し興味があったりしまして、
興味のない方は大変ごめんなさい、なのですが、
今回は、先住民族(カナダでは敬意を込めて「ファースト・ネーションズ」と呼ぶ!)関係のお話を少ししたいと思います!

Women’s Memorial Marchの行進は、
私も時々行く、ギャスタウンも通ります。

ギャスタウンとは、
バンクーバーの中心地、ダウンタウンの北東部に位置する街で、
煉瓦造りの建物や、観光名所ともなっている蒸気時計があったり、
レトロな雰囲気が特徴です。

夜はイルミネーションが綺麗で、来たばかりの頃は、
ちょっと表参道みたいじゃん!と思ったりしたものです。

お店の中もギャスタウンスタイルがあるらしく、
煉瓦の壁、天井にはダクトが剥き出しになっていて、
二階建ての造りのことをそのようにいうそうです。

夜のギャスタウン

私はギャスタウンの雰囲気が結構好きなのですが、
今年のWomen’s Memorial Marchでは、
ここギャスタウンで、
イレギュラーなことが起こりました。

広場のようになっている場所に長年あり、
ギャスタウンの名前の由来にもなった、
“ギャシー・ジャック”(本名:ジャック・デイトン)という人物の銅像が、
デモ隊によって倒されたことです。

彼の像をなぎ倒し、赤いペンキをかけ、
その首をチェーンソーで落とそうとする人々のニュースをテレビで見たとき、
私は今の出来事だと認識できませんでした。
ついこの間、私はその銅像の写真を撮ったばかりでした。
その日私は、彼について、
ギャスタウンに初めて酒場を開き、バンクーバーを発展させた人として紹介され、
疑いもなく、何かしら、讃えられる人物だと思っていました。
銅像になるくらいの。

長年ギャスタウンの一つのシンボルのようにあった銅像が突然壊された理由は、
彼が40歳のときに、ファースト・ネーションズの一つ、スコーミッシュ族の12歳の少女と結婚をし、
子どもをもうけさせたこと(その後彼女は15歳で家出)、
つまり小児性愛者であったことが露呈したからでした。(※1)

この話はスコーミッシュ族の方たちの間では長年語り継がれていたものですが、
一般には広まっていなかったようで、
バンクーバーに住んでいる人たちも、彼のこの背景についてはほとんど知らず、
ただ、彼は開拓者であるという認識だった人も多いそうです。

ずっと訴えてきたのにもかかわらず、問題として扱ってもらえなかったこの件が、
なぜ今、急に問題化したのか。

それは、去年の5月27日に
ブリティッシュ・コロンビア州の先住民寄宿学校跡地で、
215人の未成年の遺体が発見されたことがきっかけとなり、
ファースト・ネーションズ迫害の歴史を白日の下に晒す運動が
ようやく認められてきたからだそうです。(※2)

先住民寄宿学校の事件を追悼している近くの美術館

今回のWomen’s Memorial Marchで
人々が像をなぎ倒したことは、決してよいことだとはいえないかもしれません。
暴徒化してしまいそうな危うさもあったように見受けられますし、
既に、国や市は、被害者の子孫の方たちと、
事実確認をしながら、適切な像の撤去に向けて協議を進めている最中だったといいます。

ですが、おかしいと思ったことについて、行動に移し、
変えようと声をあげること、
見て見ぬふりをしないこと、という点では、
彼らのエネルギーのよい部分を吸収したいなと思います。

今私たちがいる世界が歴史の上にあることを感じながら、当事者に想いを寄せたい

私たちは紛れもなく歴史の上に立っていて、
向き合うべきこと、知るべきことがあると私は考えています。
同じことを繰り返さないようにするためにも。

今回の冒頭でも触れた、今の世界情勢についても通ずることとして、
私が大切にしている西加奈子さんの小説『i』の中の台詞をここに引用させていただきたいと思います。

「誰かのことを想って苦しいのなら、どれだけ自分が非力でも苦しむべきだと、私は思う。その苦しみを、大切にすべきだって。」

「渦中の人しか苦しみを語ってはいけないなんてことはないと思う。もちろん、興味本位や冷やかしで彼らの気持ちを踏みにじるべきではない。絶対に。
でも、渦中にいなくても、その人たちのことを想って苦しんでいいと思う。
その苦しみが広がって、知らなかった誰かが想像する余地になるんだと思う。渦中の苦しみを。
それがどういうことなのか、想像でしかないけれど、想像するってことは心を、想いを寄せることだと思う。」
『i(アイ)』西加奈子(ポプラ社、2016年)より
 (とても素敵な小説なので、是非…!)

想いを寄せ、できることから行動に移して生きていきたいと心がけています。

車窓から見えた大きな虹

今回はファースト・ネーションズの迫害の歴史についてフォーカスしましたが、
ファースト・ネーションズ文化には、
トーテムポールをはじめとした、素晴らしい伝統芸術も受け継がれていて、
なかなか日本では触れることができなさそうなので、こちらも興味があり!

まだまだ勉強不足で、
ファースト・ネーションズ関連の博物館などにも行ってみたいと思いながら
まだ行けていないので、
行けたら、またインスタグラムなどでシェアできたらと思います!

どうか、健康でお過ごしください。

ではまた!
次は英語学習(大苦戦中)などについてお話しする予定です!

■参考サイト
※1 
https://bc.ctvnews.ca/gassy-jack-statue-toppling-denies-squamish-nation-planned-reconciliation-event-1.5783058

※2 
https://www.bbc.com/japanese/57312454.amp

PROFILE

穂志もえかさん
女優。1995年生まれ、千葉県出身。講談社主催「ミスiD2016」にてグランプリを受賞。2018年公開の映画『少女邂逅』で初主演を務めたほか、映画『愛がなんだ』、『街の上で』などでも注目を集める。連続ドラマCX「アンサング・シンデレラ」や、KTV/CX「大豆田とわ子と三人の元夫」など話題作に多数出演。現在は、ハリウッドドラマFX「将軍 SHOGUN」撮影のため、カナダのバンクーバーに滞在中。
Instagram:@moekappa823

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photograph:Jun Imajo[profile]
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