いざ妊活を始めると、夫の何げない発言にイラッとしたり、心が折れてしまったり、夫の無理解や言い出せないストレスが溜まることも。ときにシビアな話し合いも必要で、二人の間に温度差や深い溝が生まれがち。そこで、「妊活コミュニケーション協会」を主宰する鈴木早苗さんに妊活中の最適なコミュニケーションについてお話を伺いました。
お話を伺ったのは…妊活コミュニケーション協会 主宰 鈴木早苗さん
夫が踏みがちな“9つの地雷”をチェック!
❶ オレ関係ないもんね系
夫はどこか他人事……。当事者意識の差がちょっとした言葉や態度に表れる。
- 「(治療は)君がやりたいから、やっているんだろう?」
❷ 無知ゆえ系
妊活の仕組みや不妊治療についての知識がなくついつい言ってしまいがち。
- 「まだ治療しなくてもいいんじゃない? 焦りすぎでは?」
❸ 仕事・飲み会優先系
仕事や飲み会ばかりを優先して、妻の心が離れてしまう。
タイミングを取りたいときに「今日は疲れてるから」の連続に心が折れた。
❹ 理詰め・正論系
夫からしたら当たり前のことを言ったつもりでも、妻には相当こたえるときも……。
- 聞いてほしいだけなのに、解決策を提示される。
❺ やめれば系
「仕事やめれば系」はキャリアにかかわるので、遺恨を残す場合も。
- 「そんなにつらいなら仕事やめれば?」「治療いつまでやるの?」
❻ 悪気ない系
その場を明るくしようと思っての発言だが、ピントがズレている。
- 「ジャネット・ジャクソンは50歳で産んだし、焦らなくても大丈夫」
❼ 温度差系
温度差を感じ続けると、あきらめが進行してしまう。
- 治療の話をしても「ふーん」「へー」しか返ってこないのでむなしくなる。
❽ 一見尊重系
大事にしてくれているのかもと思いつつ、もしかして面倒くさいだけ?
- 「産むのはあなただから、君が好きに決めたらいいよ」
❾ 逆ギレ系
思わず妻に対してキレてしまうなど、不妊治療は二人の間に戸惑いをもたらすことも。
- 「またその話?」「何でそんなに泣くの?」
妊活中は感情的になりがち。会話には工夫が必要
コミュニケーション講師として活躍しながら、約6年間の不妊治療を経験した鈴木さん。
「仕事柄、不妊治療中の意思疎通は上手なのでは?と思われがちですが、そんなことはまったくなくて。高額の治療費をきっかけに、今までしたことのない激しいケンカになったり、自分の感情にうまく対処できず、プチ家出は3回しています(笑)」
妊活を始めてみると、鈴木さんとご主人の間に、これまで存在しなかった価値観のズレや温度差が急浮上してきて、その差がなかなか埋まらなかったそう。ケンカがヒートアップすると、ご主人が“君はわかってない!”と主張し、鈴木さんも“そんなことあなたに言われたくない!”と言い返し、正当性を主張する言葉の投げ合いが続くことも。
「あきらめずに話すことを続けていくなかで、相手が何を伝えようとしているのかに意識を向けるようになりました。ケンカ中“好きにしたらいい”と言う夫に対し、裏には私への心配が隠れているのではと思い、“もしかして心配してくれてる?”と聞いたら、“そうだよ”と怒り口調で返ってきて。お互いの表現が下手なだけで、根底には思いやりの気持ちが隠れている。目からウロコでした」
「のみ込む」「キレる」を卒業したコミュニケーションを
嫌われたくない、関係を壊したくないという思いから、そもそも妊活の話題を言い出せないという人も。
「人とのコミュニケーションは自分の内側から始まります。まずは自分が何を望んでどんな気持ちでいるのか、心に誠実になってみてほしいですね。ごまかさず、嘘をつかず、相手に伝えることは悪いことではありません。人生を長くともにしようと思って一緒に過ごしているわけなので、素直な気持ちを伝えることは本当に必要なことですよ」
“私は子どもがほしいの”“私は不妊治療を始めてみたい”と“私”を主語にして、自分が何を望んでいるのか、口に出してみましょう。
「心地よい暮らしを大事にするように、自分も大切にしてあげて、一番近くにいるパートナーに自分の思いを知ってもらうことからまずは踏み出してみてほしいですね」
人生の大事なとき、会話のしかたでその後のパートナーシップが変わる
パートナーに思いを伝えるとき、参考にしたいのが、次の項目で紹介している“心が通う5つのスキル”。攻撃的にならず、相手を責めず、素直になると、心地よい会話が生まれます。
「モヤモヤしたまま、相手に気を使って話題にすら出さなかったりすることもありますよね。“きっとわかってくれているだろう”と想像だけで終わらせることも。必ずしも相手が同意してくれるわけではないけれど、口に出すことを恐れないでください。妊活を通して夫婦のコミュニケーションに向き合ってみると、会話の質が変わってきます。それが、結果的にこれからの二人の人生を豊かにしてくれるはずです」
夫婦生活を送るうえで、これから先、妊活だけでなく、互いの病気や家族の介護など、二人でいろいろな人生の局面に遭遇する可能性が。
「二人で話し合わなければないけない場面が訪れたとき、この経験が活かせるはずです。最初からうまくはいきません。トライ&エラーをくり返していくと、ぎこちなくても会話が少しずつ変わっていきます」
話し合うときの“心が通う5つのスキル”
スキル1
「私」を主語にした言葉
「私、実は困ってるんだ」と「私」を主語にすると相手も受け取りやすくなる。反対に「あなたはなんで……」と「あなた」を主語にするよ、相手は攻撃されたと思い、防御的になってしまう。
スキル2
的をしぼる
要求するときは「常識で考えてよ」「普通の旦那さんは……」と世間と比較しない。「クリニックの日は10分話を聞いて」と具体的で現実的なものに的をしぼる。
スキル3
素直な気持ちを伝える
表現が難しいネガティブな感情は、「職場の妊婦さんをみていると、(私は)つらいんだ」など、私を主語にして相手を責めるニュアンスを含めずに言葉にする。
スキル4
理解をしめす
「うん、わかるよ」「疲れているから大変だよね」と、相手に対する理解や共感を言葉にする。シンプルな短い言葉でOK。理解の言葉がクッションとなり、二人をつなぐかけ橋になる。
スキル5
責任を共有する
「あの言い方はなかった、ごめん」などと、コミュニケーションの半分の責任を引き受ける。相手のガードを下げるきっかけとなり、建設的な話し合いができる関係へとスイッチしていく。
妊活中は感情的なバトルや、あきらめの境地になりがち。攻撃的にならず5つのスキルを心がけることで、相手も穏やかに話してくれるようになります。まずは、5つのどれかひとつを意識して会話をしてみましょう。
illustration:Ayaka Otsuka text:Chie Sakuma web edit:Mina Ota
リンネル2022年4月号より
※画像・イラスト・文章の無断転載はご遠慮ください
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