CULTURE
:捨てられずにとっておいた「紙」から見えてくるものとは? スズキナオさん『捨てた紙、捨てられない紙』インタビュー
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日々の暮らしのなかで、何気なく手にする紙。読み終えたらすぐに捨てるものもあれば、なぜか手もとに残っているものも。
『捨てた紙、捨てられない紙』では、そんな“紙”をきっかけに、忘れていた出来事や人との時間が静かに呼び起こされていきます。この一冊が生まれた背景を、スズキナオさんに伺いました。
読んで自分ごとのようになり、
思い出が刺激されて蘇ってくるようなもの
「紙がこの文章を書かせてくれた、という感覚がすごくおもしろかったんです」
今にも蕩けそうな目をしばたたかせながらそう語ってくれたのは、エッセイストのスズキナオさん。古いチラシや手紙、チケットの半券。意図して集めた「コレクション」ではなく、ただ捨てられずにとっておいてしまった「紙」。ここから記憶の扉が開かれ、やがて「捨てた紙、捨てられない紙」という名の美しい本になりました。
きっかけは、ブックフェアに出展するために作った小さなジンから。
「散らかった自分の部屋を見渡したときに、『ここにある紙について書く』ならできそうだなと思ったんです」。
どこかシュールで、ふふふとゆるむ紙の写真に短い文章を添えたジンの内容に対し、書籍ではより一編が長く「ひとつひとつの紙を『どこで手に入れたか』『そこで何が起きたのか』など、思い出の奥深くまで潜らないと書けなくて。大変でしたけれど、この形だから書けたことがたくさんあった。紙はあればあるほど、何かを思わせてくれるんです。段ボールの中に無造作に放り込んでいるだけの紙は、ゆえに拾い上げた時、中学生のときに書いた作文と、2000年頃に行ったイベントのフライヤーが隣り合います。
「このセット自体が自分の人生の過程そのもので、しかも時系列じゃないのがおもしろい。自分が思い返している『今』と、過去のある時がコラボしているみたいな。それを起こしてくれるのが紙で、レコードを再生するのにも近いかもしれないですね」
サブカル好きの心をくすぐりながら、じわりとたぐり寄せられるのは、個人的で滋味深く、愛おしい感情。とりわけご家族や周囲の人々とのやり取りを描いた章では、そこはかとなく漂う郷愁と、スズキさんらしいどこか育ちのいい文章が混ざり合い、胸に迫る味わいを生み出します。
「親戚が住む山形に行くと古いものが置かれていて、長く続いてきた時間と暮らしとが繋がっているように感じたんです。畑で同じ野菜を毎年育てるとか、ずっと続いてる行いに思いを寄せることが多くて。最新のカルチャーを追いかけるのとは別に、それも覚えておきたくて、紙やおばあちゃんからもらったものを、取っておきたかったのかもしれないですね」
そうして描かれるエピソードは、読み手の中に眠るさまざまな記憶と、自然と繋がっていくのでした。
「こういうエッセイは『今考えるべきこと』を伝えるのとは別に、疲れた時にいつでも行ける、避難場所みたいな感じ。時代性関係なく、読んで自分ごとのようになり、思い出が刺激されて蘇ってくるようなものになっていたら、いつだって読んでもらえる、そんな気がするんです」
『捨てた紙、捨てられない紙』

スズキナオ/¥2,200(和久田書房)
街や酒場、旅ルポの軽快かつ読み心地のいい文章がクセになる!話題の著者によるネクストレベルは、自伝的要素とサブカル的なおもしろさが溶け合う、滋味深いエッセイ。主役は手もとに残された数々の「紙」。意図せず集まったそれらをきっかけに、奥底に潜む記憶と、人との関わりがたぐり寄せられていく。
スズキナオさん
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photograph: Kazuyoshi Aoki text: BOOKLUCK
リンネル2026年11月号より
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