日常の中で起きる奇妙な事件やなんとも不条理な出来事。「怪談」まではいかないけれどモヤッとする……。そんなどこか気がかりなエピソードを絵と言葉で綴った『怪談未満』の著者、イラストレーター三好愛さんのインタビューです。
『怪談未満』として語ることで、違和感は上手に成仏させられるんです
怪しく謎めいたタイトルに愛らしく奇妙な絵。このなんとも気がかりな本『怪談未満』はエッセイを主体に、言葉と絵が絡みあった構成になっています。
「もともと引っかかった言葉を頭にとどめておいて、それをモチーフに絵を描くことが多くて」
この本の構成は自然なことだったと言う三好さん。
タイトルは『怪談未満』とありますが、中身に幽霊やお化けなどは登場しません。あくまで日常の中で起きる、珍妙な事件にゾワッとしたり、不条理な出来事にモヤッとしたり……。
「自分の中では当たり前にある、日常の出来事なんです。ただ捉え方によって、たまに“はみだす”みたいな感じ」
また魅力的なのは思わず引き込まれてしまう文体。描く絵と呼応するように、普通のようでいて、どこか事件性を帯びた読み味なのです。
「日常の違和感を細かく考えすぎたら、非日常に行っちゃった、みたいな。もごもご、ぶつぶつ言いながらひとりで解決していく感じなのかな」
その「もごもご、ぶつぶつ」のもととなっているのは、昔からあるというクセ。
「自分が納得いかないことが起こると、ひとりでずっとしゃべってるんです。まるで相手がそこにいるみたいな口調で」
これぞまさに怪談未満ともいえる習慣が、そのまま文章になったとか。
また執筆中に、妊娠・出産をした三好さん。そこで経験したリアルタイムのモヤモヤも収録。
「読んだ友だちが『私もこんなことがあった!』と体験談を語ってくれて。
そういうモヤモヤする体験は、みんなそれぞれ自分の中に持ってると思うんですよ。ただ『怪談未満』としてネチネチと語ることで、違和感は上手に成仏させることができる。気持ちがすっきりするようなところがあるんです」
新著『怪談未満』
三好 愛/¥1,650(柏書房)
引っ越した部屋の隙間にいる、ほかの生き物の気配。作家が在廊しているときを狙って、たびたびやってくるギャラリーおじさんなど。怪談とまではいかないけれど、じわじわと忍び寄る日常の不穏、腑に落ちない話ばかりを集めた27篇のイラスト・エッセイ。すりガラスの向こうで語られる独白のような、妙な湿り気を帯びた文体にハマることうけあい。
お話を伺ったのは……三好 愛さん
PROFILE
みよし・あい/イラストレーター。東京都在住。小説の装画や挿絵を数多く手がけるほか、クリープハイプのツアーグッズなども手がける。初の著書『ざらざらをさわる』(晶文社)は、紀伊國屋書店スタッフが全力でおすすめするベスト30「キノベス! 2021」15位にランクイン。
photograph:Shinichiro Soma text:BOOKLUCK web edit:Noriko Naya
リンネル2022年11月号より
※画像・文章の無断転載はご遠慮ください
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