堀田真由さん「津軽塗と出会って毎日が豊かになった」/映画『バカ塗りの娘』インタビュー 堀田真由さん「津軽塗と出会って毎日が豊かになった」/映画『バカ塗りの娘』インタビュー
透明感のある美しさと確かな演技力で、話題作への出演が続く俳優・堀田真由さん。最新の主演映画『バカ塗りの娘』は、青森県弘前市の津軽塗を題材に、受け継がれる伝統と職人父娘の絆を描く物語。堀田さんは、津軽塗を継承する家業の行く末やバラバラになってしまった家族、自分自身の未来に、不器用ながらも誠実に向き合っていく娘・美也子を好演。伝統工芸の繊細で奥深い美しさに魅了されたと話します。
職人の指導のもと、津軽塗の工程を丁寧にリアルに撮影
映画『バカ塗りの娘』の舞台は、華やかな色使いと繊細な模様が美しい伝統工芸・津軽塗の世界。堀田さん自身も伝統文化を受け継ぐ地域の出身だそうで、親しみを持って作品に臨んだといいます。
「私が生まれ育った滋賀県長浜には曳山まつりという大きなお祭りがあって、そのときに子ども歌舞伎を演じる風習があります。学校の授業の一環でお琴やたて笛、茶道を習ったり、伝統文化に触れる時間が多かったんです。お祭りと伝統工芸とでは継承するものが違いますが、日本の伝統に携われることはとても嬉しかったですし、津軽塗の世界に触れられることが楽しみでもありました」
タイトルにある“バカ塗り”とは、津軽塗の通称。完成までに四十八工程あり、バカに塗って、バカに手間暇かけて、バカに丈夫といわれるほど、“塗っては研ぐ”をひたすら繰り返すことから、そう呼ばれるのだそうです。本作ではその工程を丁寧に映し出し、ものづくりへの情熱を静かに美しく描いています。津軽塗の職人から直接指導を受けながら、撮影を進めていったのだとか。
「工程がたくさんあったので、もう全然覚えられなくて。『次はこう塗ります』『筆を洗います』って、ひとつひとつ教えていただきながら撮影してきました。冒頭はセリフがなく黙々と作るシーンが続くのですが、工程のなかで生まれる音がすごく美しくて、心地いいんです。目で見ても、耳で聞いても幸せな気分になれて、静かだけど力強さと優しさのある映画だなと思います。それから、筆を洗うときに油を使ったり、卵を使ったりするんです。漆は江戸時代から続いているものなので、身近にあるものを使いながら繫がってきたんだなと、細かな作業のなかにも歴史を感じました」
小林薫さん演じる職人の父とともに作業する工房は、津軽塗職人・松山継道さんが長年作業していた松山漆工房をそのまま借りたもの。使い込まれた漆塗りの道具や漆を乾燥させる漆風呂、床や壁にいたるまで、漆と時間がしみこんだ説得力のある空間です。
「狭い工房で師匠でもある父と同じ方向を向いて、ひとつのものをなんども塗っては研いでを繰り返して作り上げていくのですが、その忍耐力や精神力は想像を超えるものがあります。職人さんに対するリスペクトをすごく感じました。機械化や自動化が主流になった今改めて、丹念に作られる美しい伝統工芸からなにかを感じていただけたら嬉しいです」
美也子が生まれ育った弘前に溶け込むことを大切に
青森・弘前の職人の家に生まれ育った美也子の素朴さやひたむきさを表現するために、一番意識したのは街になじむことだったそう。
「なによりも弘前の暮らしのなかに自分がいることが大切だと考えて、自転車を借りて街を回ったり、散歩したり、気温や湿度、匂いなどを全身で感じるように。撮影中に東京で仕事があるときには、自宅に帰らずにそのまま弘前に戻って感覚を保つように心がけました。それから、髪を25㎝切ったことも役に入る助けになりました。小さい頃からクラシックバレエを続けていたのでずっと髪をまとめられる長さを保っていたのですが、今回初めて肩より短い長さになって、より一層覚悟が決まったように思います」
堀田さん演じる美也子は漆の仕事が好きなのに、堂々と「職人になりたい」と言えない内気で不器用な性格です。それでも心の内には情熱を秘めていて、ひたむきに漆に打ち込み自分の道を切り開いていく姿は、見る人に前へ進む勇気を与えてくれます。
「きっと信念はすごく強いのだと思うのですが、今までは自分でもその部分に気づいてなかったんだと思います。漆を使ってある挑戦をすると決めたことから、バラバラになった家族がひとつになっていくのですが、そのなかで彼女自身がどんどん成長していくところもこの作品のひとつの見どころです」
美也子のキャラクターと近い部分を感じて、自分自身を振り返ることもあったようです。
「彼女ほど自己肯定感は低くないですが、自分に自信を持てないところはちょっと似ているかも。大人数があまり得意ではなくて、友達も3人ぐらいがちょうどいい(笑)。それに、大人になるにつれ新しいことがどんどん怖くなって、美也子と同じように初めの一歩を踏み出すことに怖さを感じます。それに、仕事柄もあるかもしれませんが、自分が発言することで周りを巻き込んでしまったり、なにかを変えてしまったり、言葉の力はすごく強いので、どう伝えようかと考えているうちに変な間が生まれてしまって、もう言わなくていいかなって話すのを止めてしまうことも……。ありがたいことに勝気な役が多いので、そのモヤモヤを役を通して晴らしているのかもしれないですね」
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