CULTURE
:河合優実さん「その作品が出ることで、少しでも世界がよくなってほしい」/映画『あんのこと』インタビュー
CULTURE
:「不適切にもほどがある!」「家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった」といった話題作への出演も記憶に新しい、河合優実さんの主演映画『あんのこと』。実在の女性がモデルとなっている、主人公・杏に込めた思いを明かしてくれました。
河合優実さん「その作品が出ることで、少しでも世界がよくなってほしい」/映画『あんのこと』インタビュー
主人公・杏を「守ってあげたい」と思った

「私のところに来たからには、もう大丈夫だよ」。
実在の事件をもとに作られた映画『あんのこと』で河合優実さんが演じたのは、幼い頃から実母に虐待を受けて育ち、21歳で薬物依存症となっていた主人公の杏。脚本を読んだとき、河合さんは杏にそう語りかけずにいられなかったと振り返ります。
「最初に脚本を受け取ってすぐに、『私がこの役をやるべきだ』『絶対に届けなきゃ』と思ったわけではないんです。そんなに簡単なものではありませんでしたから。それでも、この女性を私が守りたいと思ったし、これから心の中で彼女と手を繋いでやっていこう、という気持ちになったのを覚えています」
俳優として、役のモデルとなった女性を守る。それは、できる限り相手を尊重することでもあったそう。
「普段の私は美味しいごはんも食べられるし、愛情をくれる家族もいる。ジャーナリストや誰かを支援する仕事に就いているわけでもありません。俳優という立場からは、演じることでしか、彼女の力になれる可能性はない。自分に当てはめて考えたとき、もし自分の人生が映画になるとしたら、どういう気持ちで物語にしてほしいか、どういう気持ちで向き合ってくれたら安心できるか、許せるか。そういうことをとことん想像しました。フィクションではあっても、実在した人の人生を映画にして、公開することになるので、最大限に尊重したうえで世に出したかったんです」
杏の輝きと“前に進む力”を信じて

母に虐待を受けるシーンをはじめ、見ていて苦しくなるような展開も多い作品ですが、「杏が持つ、前に進む力を信じて演じていた」そう。
「物語の中で、杏は学校へ通い、介護の仕事を始めて、今よりもよい場所へ行こうと努力します。できなかったことができたときは嬉しかっただろうし、私以上に優しさを持った人だったのかもしれない。あまり悲劇的な方に陥らないようにして、杏の人生の輝いていた部分を描くために何ができるかを考えていました」
撮影前には入江悠監督とともに、本作の着想のもととなった記事を書いた新聞記者のもとを訪ねたそう。
「どんなときが一番嬉しそうだったか、どんな姿やどんな言葉が印象的だったか……など、モデルとなった彼女について、知っている限りの話をしていただきました。そのなかで印象的だったのが、『彼女は恥ずかしがり屋の小さい女の子みたいだった』という話です。衣装合わせでも、その社会経験の乏しさからくる『幼さ』をヒントに、トレーナーやリュックといった杏の衣装を決めていきました」
意志を持って発言すれば、自分にあった作品に引き寄せられる

2019年のデビュー以来、話題作というだけでなく、世の中に訴えかける重要なメッセージを含んだ作品にも多く出演している印象の河合さんですが、どんなことを大切にして出演作を決めているのでしょうか。
「『社会派』と呼ばれるジャンルのものだけをやりたいわけではありませんが、やっぱりその作品が出ることで、少しでも世界がよくなってほしい。もちろん例外もありますが、映画やドラマというのはいやでも社会と繋がっているし、その時代が映し出されるものですよね。それを真剣に作ろうとすると、自然とメッセージや問題をはらんだ作品が多くなる気がします。自分が興味を持てる作品、好きな作品に出会えてきたことは幸せですし、意志を持って発言したり、行動していれば、ちゃんと自分の性質にあった作品に引き寄せられるんじゃないか、と思っています」
#河合さんに最近のこと、聞きました!
Q&A
━━Q.共演した佐藤二朗さん、稲垣吾郎さんの印象は?
二朗さんが演じる多々羅はタバコを吸うキャラクターですが、二朗さんはどのシーンで、どのタイミングで吸うかまで細かく監督と相談していて。感覚派の方というイメージがありましたが、緻密に役を捉える方なんだな、と感じました。稲垣さんとのシーンで印象に残っているのは、杏を見つめる眼差しのフラットさと温かさ。渦中にいる杏と多々羅を第三者の立場から見るという桐野の役割と、ご本人の持っている雰囲気がとても合っていたように思います。
━━Q.お芝居の経験を重ねるにつれて、変わってきたことは?
ひとつひとつの経験が栄養となって、自分の中に蓄えられていると感じています。主演作では、物語全体を自分が動かさないといけないので、お芝居を始めた頃よりも広い目線で見られるようになりました。脚本を読んで、「どういう映画を作りたいのか」「どんな役にすればいいのか」ということも冷静に考えられるようになった気がします。
━━Q.最近のマイブームは?
最近、ずっとやってみたかったバレエを始めました。ダンスは子どもの頃からやってきましたが、バレエは初めて。静かに見えるけど、すごくストイックで奥が深いし、全身の筋肉を使うんです。まだ通い始めたばかりですが、今後も続けていきたいです。
映画『あんのこと』

子どもの頃から虐待を受けて育ち、母に売春を強いられてきた杏(河合優実)。21歳で既に薬物依存症になっていた杏だが、ベテラン刑事の多々羅(佐藤二朗)やジャーナリストの桐野(稲垣吾郎)との出会いを機に、更生に向けて歩み始める。薬をやめ、仕事や居場所を見つけた杏だったが、突然のコロナ禍によってつながりが断ち切られてしまい……。
河合優実さん Profile
2000年生まれ、東京都出身。2021年、映画『由宇子の天秤』『サマーフィルムにのって』で数々の新人賞を獲得。2023年、『少女は卒業しない』で映画初主演、「家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった」で連ドラ初主演を務める。近年の出演作に映画『四月になれば彼女は』、ドラマ「不適切にもほどがある!」「RoOT/ルート」など。公開待機作に劇場アニメ『ルックバック』、映画『ナミビアの砂漠』など。
こちらもチェック!
photograph:Chihaya Kaminokawa styling:Tatsuya Yoshida hair & make-up:Takae Kamikawa(mod's hair) text: Hanae Kudo
リンネル2024年7月号より
※画像・文章の無断転載はご遠慮ください
おすすめ記事 RELATED ARTICLES
Recommend
SNAPRanking
DAILY
/
WEEKLY
季節のおすすめSEASON TOPICS
暮らしのいいこと大集合!Special Feature