CULTURE
:注目の人・瀧内公美さんの仕事論 「やれること」が、いつしか「やりたいこと」に。 しんどさ、わからなさを乗り越えて、人はプロになっていく/舞台『夫婦パラダイス〜街の灯はそこに〜』インタビュー
CULTURE
:意欲的な映画で高い評価を得て、今、テレビや舞台からも熱いオファーを受ける俳優・瀧内公美さん。
大河ドラマ『光る君へ』での怪演に続き、この秋上演される舞台では、初の関西弁でのお芝居に挑戦します。
年齢以上に大人びた存在感を発揮する彼女が、一作一作にどのように取り組み、自分を磨いているのか。同世代必読の「輝きのセオリー」をお届けします。
私、そんなに圧がありますか?
新作舞台では「関西ノリ」に初挑戦
━━美しく高貴で、でもちょっと恐ろしい――放送中のNHK大河ドラマ『光る君へ』で、柄本佑さんが演じる藤原道長の第二の妻・源明子に注目している人も、実は多いのでは? 皇族として生まれ、涼やかな美貌をたたえて優雅に振る舞いながらも、時には人を呪い、死に至らしめるほどの情念を燃やす女性の光と影を見事に体現しているのが瀧内公美さん。落ち着いた大人らしい雰囲気ですが、実はリンネル世代のおひとり。その佇まい、見習いたいほどです。
「私、そんなに圧がありますか?(笑) でも、ありがとうございます。明子さんは、本当に激しいものを持った人で、この先も、出てくるたびにパワープレーが続くんです。呪い殺す? もう、それどころではない感じですね。フフフ」
クライマックスに向けて撮影を続けながら、瀧内さんは現在、まもなく開幕する舞台の稽古中。1年4か月ぶりとなる舞台『夫婦パラダイス〜街の灯はそこに〜』は、大阪が誇る無頼派作家の代表作『夫婦善哉』をモチーフに作られた新作で、尾上松也さん演じる主人公の柳吉と駆け落ちする元芸者、蝶子を演じます。
━━本家『夫婦善哉』の蝶子といえば、お坊ちゃん育ちで甲斐性のない柳吉を三味線の芸で支え、はんなりとした色気を漂わせる女性。瀧内さんにさぞや似合うのでは、と想像しますが……。
「そう思いますよね。それが、全然違うんです! もう、ほぼ漫才だと思っていただけたらいいんじゃないかと。関西弁は初めてですし、まったく経験したことのないテンションの役柄なので、今いくよ・くるよさんやハイヒール・モモコさんの動画を見て、関西のお笑いの女性たちのノリを体に叩き込めたら、と日々お勉強中です」
わからない世界を、わからないままに。
振り切って、私も楽しくなろう
━━出奔し、場末のスナックに転がり込んだ柳吉と蝶子。二人を迎えるスナックのママも、常連客も、店に出入りする出前持ちの少女も、どこか一筋縄ではいかない人物ばかりですが、そこにさらなる謎の人物が現れ、ついには時間空間までもが歪み始めて、というファンタジックなストーリー。「まともに受けていたら前に進めない」と感じた瀧内さんは、とにかく振り切る覚悟を決めたといいます。
「何の脈絡もなく展開する物語を受け入れるのは大変ですが、ひとりだけ妙にリアルでいても『あの人、戸惑ってるね』と悪目立ちしそうだし、私自身も楽しくない。だったら、このノリに巻き込まれて乗っていこう、楽しくなるほうを選択しようと……。表現する技術の高い方々が集まっていますから、いかにお客さまに楽しくお見せするかということにかけては、稽古中の今でさえ、もうすでに笑ってしまう楽しい場面ばかりです」
━━思い出し笑いで、ときには目に涙まで滲ませる瀧内さん。思えば、物語の突拍子のなさは、私たちの人生にも通じるものなのでしょう。劇中、蝶子が祖母からの教えとして語る《この世というのはワカランところ、ひとも自分もワカランもの・・・》という言葉を「大事に届けたいと思っている」と語ります。
「蝶子がダメ男の柳吉さんを選んだのも、本当に『ワカランけれど』に尽きると思うんです。理屈だけではないというか。現代は、とにかく‟わかる”ことが正義じゃないですか。わからなければ、もうそこで終わり。でも、わからないことにはわからないがゆえの美しさみたいなものがあって、それが演劇にはとくにあると思うんです。2時間、劇場の中で夢を見て帰っていく……正直、やったことのないタイプの作品ですが、そういうものに出会えるのはすごく贅沢だし、こちらの遊び心も試されているように感じます」
探し続けた自分の居場所。
「こうしたい」は、常に胸の奥に
━━映画『彼女の人生は間違いじゃない』では、被災地の福島と渋谷の繁華街を行き来し、見えない明日を模索する女性を。『火口のふたり』では、結婚式を数日後に控えながら、震災で全てを失った昔の恋人との逢瀬を重ねる女性を。これまでに出演した代表作の中で瀧内さんが演じてきたのは、厳しく痛ましい「今」とリアルに向き合う、ひたむきな役柄でした。
「俳優としてのキャリアを始めた20代の頃は、まだ制服を着る女の子を演じる作品が多かったんです。でも、そうしたものに出演したとしても、実年齢が近い方たちには絶対に勝てない。だから私は、大人の表現でやっていける道を選ぼうと……ほかの人がやっていない分野を掘り進めて、自分の居場所を探していこうとしていました。そのなかで、結果的にリアリズムの世界に向かっていったという感じですね」
━━瀧内さんが譲らなかったのは、「こうしたい」という意志を貫くこと。
「この監督の作品に出たい、この方と一緒にやりたいといったことは常に思っていましたし、逆に、こうしたタイプの作品には出たことがあるから次は違うことに挑戦したいなど、常に幅を広げることも大事にしてきました。わがまましか言っていなくて、本当に申し訳なかったんですが、それを叶えてくれる方々が周囲にいたのは本当に運がよく、ありがたいことだったと思っています」
━━それでも「若いうちに大作映画に出ていたら人生変わっていただろうな、と思うこともありますよ」と瀧内さん。そんなときは、心の中で静かにこう唱え、自らを戒めるといいます。
「まず、終わったことは気にしない。そして、やりたいことをやるんじゃなくて、やれることをやる。それが、気づいたらやりたいことになっている可能性が高いから。特に、仕事はそうですね。仕事って『仕える事』だから、自分がやりたいことだけをやっていて楽しいといううちは、仕事になっていないし、まだプロじゃない。苦しいし、しんどいし、わからない、でも、そこを乗り越えていこうと思うからプロになっていけるんだと思うんです」
━━美しさも、落ち着いた佇まいも、この凜とした精神があってこそ。演じることに対する前向きな思いを保つためにも「プライベートは、好きなことだけをやります」と瀧内さん。ふわりと頬をゆるめます。
「好きなのはヨガですね。4年くらいやっています。今は稽古があるので、とにかく早く寝て早起きして、早朝に体を動かしています。朝6時前だと、まだちょっと涼しいんですよ。少し日光を浴びたりもして、自分の時間を過ごすのが、今の楽しみです」
舞台『夫婦パラダイス〜街の灯はそこに〜』
日本文学シアターVol.7『夫婦パラダイス〜街の灯はそこに〜』公演情報
日本の傑作文学をベースに奇才・北村想氏と寺十吾氏が奔放な想像力を羽ばたかせる、日本文学シアターシリーズの第7弾。川縁のスナックに集まる人々が、思わぬうちにとんでもない異世界へ……。お芝居に加えて、歌も踊りも歌舞伎も披露されるとか? 「稽古しながらどんどんカオスになっていて、演じる私たちもワクワクが止まりません」と瀧内さん。
作:北村 想
演出:寺十 吾
出演:尾上松也 瀧内公美 鈴木浩介 福地桃子 高田聖子 段田安則
東京公演/2024年9月6日(金)〜19日(木) 紀伊國屋ホール
愛知公演/2024年9月22日(日祝)・23日(月振休) 穂の国とよはし芸術劇場PLAT主ホール
大阪公演/2024年9月26日(木)〜27日(金) 森ノ宮ピロティホール
瀧内公美さん Profile
たきうち・くみ/1989年生まれ。富山県出身。
2014年の映画『グレイトフルデッド』で映画初主演。最近の出演作に、テレビドラマ『リバーサルオーケストラ』『大奥Season2 幕末編』『新空港占拠』などがある。近年の舞台出演作に『INTO THE WOODS』『奇蹟miracle one-way ticket』『天の敵』『夜叉ヶ池』など。
こちらもチェック!
photograph:Chihaya Kaminokawa styling:Kohei Oishi hair & make-up:Dong Bing Tou text:Michiko Otani
※画像・文章の無断転載はご遠慮ください
おすすめ記事 RELATED ARTICLES
Recommend
SNAPRanking
DAILY
/
WEEKLY
季節のおすすめSEASON TOPICS
暮らしのいいこと大集合!Special Feature