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:高橋 優さん「自由でいるためには覚悟がいる」/ベスト・アルバム『自由悟然』インタビュー
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心を打つ等身大の言葉と、アコースティック・ギターをメインにしたシンプルなサウンドで人気を誇る、高橋 優さん。メジャー・デビュー15周年を記念した3枚組ベスト・アルバムが完成しました。いつまでも色あせない輝きを放つ楽曲の数々、そこに込めた思いをうかがうのはもちろん、最近の暮らしのこだわりも聞いてみました。
音楽に片想いをして15年

━━2025年7月で、メジャー進出15周年を迎えられました。改めてどんな時間でしたか?
高橋 優さん(以下高橋) いろんなことありましたね。2010年のデビュー直後に起こった東日本大震災、またパンデミックや、世界で戦争が巻き起こったり、一貫してラブソングばかりを歌えない状況でしたね。特に、震災やコロナ禍では音楽を演奏することが不謹慎みたいなことを言われてしまい……。なんだか自分が悪いことをしているような気分にもなりました。だから、決してあっという間とはいえない15年だったのかなと思います。
━━それでも音楽をこうして続けられたモチベーションとは?
高橋 幸か不幸かわからないのですけれど、僕の場合は音楽をやっていて心が満たされた経験が、一度もないんですよ。つまり両想いになったことがなくて、ずっと片想い。ライブの最後のアンコールのあたりでようやくちょっと振りむいてもらったかな?みたいな気持ちになるんですけど、すぐにそっぽむかれてしまう。また、どこかへ行かれちゃうような気がして、ずっとしがみついているみたいな。好きなものにはしがみつくじゃないですか。ラーメンで行列してまで食べるようなものに似た感覚なのかもしれません。
━━(笑)。
高橋 僕は行列に並んでまで食べたいようなラーメンには、残念ながら出合えていないのですが(笑)。音楽に対しては熱烈に思い続けいるのですが、僕の場合はまだ満たされていない。もっとこうしたら喜んでもらえるんじゃないかな?こうしたら音楽というものが体感できるのかな?とか、試行錯誤し続けている感覚ですね。
━━今回、発表されたベスト盤『自由悟然(じゅうごねん)』、このタイトルにはどんな思いを込めているのでしょう?
高橋 これは、自分で考えた造語になります。例えば、遊園地へ行って、最初に何をするか?って考えたとき、ジェットコースター乗りに行こうかとか、腹ごしらえにハンバーガー食べようとか、もしくはトイレに行くとか、いろんなことを考えると思うのですが、どれもワクワクするじゃないですか。僕は、人生も一日の始まりも同じものだと思う。基本的に、自由にしてくださいと言われて、一日が始まっていくものではないかと。でも、その一方で、親や会社の言っていることに従うばかりで、自由じゃないって考える人もたくさんいる。僕の場合は、確かにそういう人たちからすると、楽しくやっていると思われるのかもしれないけれど、そうするために覚悟が必要なんですよ。ときには、音楽をやるなんて不謹慎と言われながらも、僕は全国各地へ行って、そこで待っている人のためにステージを披露してきた。自由でいる覚悟をもって、15年も活動してきて、いまここにいますという思いを込めたタイトルになります。
━━確かに、自由には責任が伴いますよね。
高橋 不自由って実はラクなのではないかと思います。自分のせいにしなくていいから。社会に入ると、勝手に自分で物事を進めてしまったら、ほかの人にも迷惑をかけてしまうから仕方ないのはわかっています。でも、音楽の道を選んだからこそ、自由でいたいなと。
━━本作は「優勝盤」、「優遇盤」そして「優男(やさお)盤」という3部構成になっていますね。
高橋 アッパーな楽曲を中心にした「優勝盤」、ミドル・テンポの「優遇盤」、バラードの「優男盤」に分けて構成したつもりです。リスナーのかたから、以前「静と動のギャップがすごい」と言われたことがありまして。「またどちらにも属さない部分もある」とも。なので、この3枚組にしました。また、プロデューサーである箭内道彦さんから「今回のコンセプトは、どこを切っても高橋 優だ」ということを言われましたので、ジャケットには<金太郎飴>みたいなデザインを入れたのです(笑)。
それぞれの暮らしに素晴らしいドラマがある

━━「優遇盤」には、今秋に配信された楽曲「未刊の行進」が収録されています。誰しもの人生を肯定し、サポートしてくれる力強さを感じる内容になっていますね。
高橋 この楽曲は、TVバラエティ番組のエンディング・テーマとして書き下ろしさせていただいたもの。僕のなかで<奇跡体験>って、たとえば飛行機事故で生命が助かった人のようなことではなく、もっと日常的な出来事から感じることが多い。先日、あるミュージシャンの友達と話をしていたところ、何を喋っていてもネガティブなんですよ(笑)。そういう人と一緒にいたら、こっちも暗くなりそうな気分になるものかもしれないですが、僕はそういう人を見ているのが好きでして。ネガティブな感情の人から話を聞いていると、おもしろい発見が多かったりする。また、街を歩いている人から話を聞くと、自分からしたら面白いエピソードの宝庫だったりするし。〈奇跡体験〉というのは、ふだんの暮らしのなかで巻き起こってるかもしれないと感じるのです。この瞬間も、もしかしたら〈奇跡体験〉かもしれませんし。だとしたら、僕らの人生ってただ刊行されていないだけの書籍のようで、それぞれが素晴らしい物語を持っているのだと思いました。現在を生きているすべての人が、価値があるのだと。だから、あなたの未刊のお話を聞かせてほしいという思いで作らせていただきました。
━━そして、「優男盤」には「黎明」という新曲が収録されています。15周年を迎えても、まだまだ進化し続ける、黎明期の状態にある高橋さんの思いが伝わるバラードですね。
高橋 今回の作品のなかで、ぜひ聴いていただきたい一曲です。もちろん100年先も歌い続けたいという思いもありますが、ほかにも例えば、親しい人と食事をして帰る時間になったとき、寂しい気持ちになるじゃないですか。僕の場合ですと、アンコールで最後の楽曲を披露する瞬間になると「えー」という声が響く。それって、また同じ時間や興奮を味わえるかどうかの保証がない気持ちからくる寂しさのような気がするんですよ。また、ライブがあるかもしれないけれど、その瞬間にまた同じようにお金払って元気に来れるのかがわからないし。そういう不安があるのなら、次に会ったら、また初めて出会った瞬間に戻って、お互いの思いを確かめようという。未来に対して何ひとつ不安に思うことなんてないということを訴えた楽曲にもなっています。
━━素敵なラブソングになっていると思います。さて、今回のアルバムで15年を振り返ってみて、改めて高橋さんの音楽のなかで変わっていないこと、核としてあったものは、なんだと思われましたか?
高橋 そうですね……、漠然としていますけれど、作っていてほろって泣きそうになったり、笑いがこみ上げてきたりって、自分の感情が触れる感覚は、ずっと核としてあるのかもしれません。こうやってお話させていただくうえでも、自分の体重を乗せて言葉を伝えることって、大事だと思ってて。ふわふわと喋ってしまうことってありません?なんとなく、社交辞令みたいな感じで。喉のあたりだけで喋っちゃうのは、怖いなって。それをやった後味の悪さを、経験したこともあるし。だから楽曲を作ることに関しては、ちゃんと思いを消化して、自分の心にグッと乗っかっている言葉を乗せるようにしています。その結果、どの楽曲も高橋 優になっているのだと思います。
━━このアルバムを携えて、全国ツアーもスタート。
高橋 ちょっと懐かしいナンバーから最新曲まで、高橋優の代表曲のオンパレードみたいなセット・リストになっています。だからこそ、このベスト盤で初めて触れた読者のみなさんにも足を運んでいただきたい。また、自分自身は15周年だからという気負いで臨むというよりは、このアルバムを携えて改めてみなさんに自己紹介する、初心に戻ったものにしたいと思います。
━━2026年9月には秋田にて主催フェスも開催されます。
高橋 前回のフェスが雨だったので、その経験を踏まえて改めて会場の環境整備をととのえて、皆さんに楽しんでいただけるようなものにしたいですね。
━━そのほか、26年も精力的な活動を期待しております。
高橋 能動的に過ごしたいですね。攻めの姿勢というか、自分から何かを掴みに行く姿勢を崩さずにいたい。15年やってきたからって、ソファに深々と腰を下ろすみたいなことはしたくなくて、もう一度デビュー当時に戻った気持ちで取り組んでいきたいです。
ツアーの楽しみはご当地スーパー巡り!

━━さて、リンネルは暮らしの雑誌なので、高橋さんの最近の生活ぶりもおうかがいできればと思います。
高橋 最近は近所にスーパーのある場所に引っ越しまして、自炊することが増えましたね。きゅうりを麹で漬けたりだとか、できるだけヘルシーなものを食べるようになりましたね。
━━3食、自炊みたいな?
高橋 僕3食食べなくて。朝は、食べると眠くなってしまうので、控えています。というのも、僕にとって午前中がもっともクリエイティブになれる時間なので、そこで楽曲のアイデアを練ったり、文章を書いたりすることが多い。そこで眠くなってしまうと、何もできなくなってしまうので、朝起きたら白湯を飲むくらいな感じで済ませます。それでお昼になったら、作り置きの玄米などをチンして食べるみたいな。
━━あんまり外食などはされず?
高橋 友達に誘われてご飯に行くときは、カレーや、お寿司、焼肉などなんでも食べます。ラクしようとすると、すぐにそういう生活になってしまいがち。それって、なんだかかっこよくない気がしていて。寂しいっていうか。だったら、スパイス・カレーでも作って、自分を満足させてあげたいかなって。また、そのほうが安心ですよね、身体にとっても。ちゃんと自分で見極めて選んだものを吸収してるっていう。
━━そうしたら、調理グッズなどにもこだわりがあるのですか?
高橋 それはないんですよ。自宅には、低温調理器と鍋、フライパン、それくらいしかありません。だから作るメニューも、バリエーション豊富じゃないんですけど(笑)。ただ、秋田には味道楽という調味料があるんですよ。醤油なども入っていて、それがあるとどんなものもたいていおいしく食べられるので、重宝しています。
━━なるほど。
高橋 だから、地方にツアーがあるときは、地元のスーパーに行くのが、何よりの息抜きになっています(笑)。一時期は、全国各地のスーパーの納豆を漁っていたことも。また、以前ラジオ番組で、全国のスーパー総選挙みたいな企画があったのですが、それに参加させていただいたときは楽しかったですね。自分が購入した納豆の画像とかを共有して、みなさんから驚かれました(笑)。
━━おすすめの食材はありますか?
高橋 秋田に「おはよう納豆」というものがありまして、ひきわりの、ネバネバがとても繊細で、おすすめします。東京のスーパーでも購入可能ですので、見つたらぜひ手にとってみてください! ただ僕の近所のスーパーでは取り扱いをやめてしまったようで、残念です(笑)。
━━ちょっとチェックしてみますね。
高橋 ちなみに「優遇盤」に収録の「がんばれ細野さん」は、以前通っていたスーパーの店員さんがきっかけで生まれた楽曲です。お客さんに対してとても気遣いができる店員さんだったのですが、ほかの店員さんからはちょっと距離を置かれているような印象。こんなに素敵な人なのに、なぜ仲間はずれにするのか?って。本気でスーパーにクレームの手紙を書こうかと思ったほど。でも、そういう立場でもがんばっている人が、世の中にもしかしたらいるかもしれないと思って、楽曲にして思いを届けようと思ったのです。
━━その<細野さん>に思いが届いているといいですね。
高橋 僕はすぐそこを引っ越してしまったので、たぶんご存じではないと思いますが。耳に届いているといいなと。細野さんはスーパーで頑張っているヒーローだから、僕にとってのスーパー・ヒーローですね!
自由を追求し続ける高橋 優さんの15周年ベスト盤!

高橋 優/¥4,950(通常盤)
ワーナーミュージック・ジャパン
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「明⽇はきっといい⽇になる」「福笑い」などのヒット曲はもちろん、インディーズ時代のナンバーや、10月に配信されたTVバラエティ番組のエンディング・テーマ「未刊の行進」、さらに書き下ろし曲として、これからの活動、リスナーへの感謝の思いを感じるバラード「黎明」も収録。進化し続ける姿勢を感じる3枚組。また、貴重なライブ映像を収録した映像付きの初回限定盤もリリース。
PROFILE
たかはし・ゆう/1983年秋田県生まれ。路上でのライブ活動を経て、10年にメジャー・デビュー。以降、9作のオリジナル・アルバムを発表。25年12月26日〜全国ツアー<高橋優 15th ANNIVERSARY SPECIAL LIVE TOUR 2025-2026「自由たる覚悟、然として奏ず」>がスタート。26年9月26、27日には地元・秋田にて自身主催の野外音楽フェス「秋田CARAVAN MUSIC FES 2026」を開催予定。詳細はオフィシャル・サイトにて。
こちらもチェック!
photograph: Miho Kakuta styling: Daisuke Kamii (demdem inc.) hair make & up: Masa Kameda text: Takahisa Matsunaga
※12月19日発売のリンネル2月号では、Webとは異なる写真とインタビュー記事を公開
※画像・文章の無断転載はご遠慮ください
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