LIFESTYLE
:【北海道東川町、織田コレクションを訪ねて vol.1】 デザインが教えてくれたこと
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:約20年前に北海道旭川に移住し、現在は北海道東川町の文化芸術コーディネーターを務める、椅子研究家の織田憲嗣さん。北欧をはじめ、世界各国の優れたデザインの家具や日用品を長年にわたって収集、研究する「織田コレクション」が国内外で高く評価されている織田さんは、広大な森の中に暮らし、「丁寧な暮らし」を提唱しています。そんな織田さんを訪ね、デザインに興味を持ったきっかけや、北海道に移住した理由、ものを買うときのルールについて伺いました。
【北海道東川町、織田コレクションを訪ねてvol.1】デザインが教えてくれたこと
人生を変えた、椅子との出合い

北海道・東神楽町の森の中にある、自らが設計した2階建ての自宅に暮らす織田さん。収集した貴重な家具や資料などは、半地下の収蔵庫にも収納。先日、東京都美術館で開催されていた「フィン・ユールとデンマークの椅子」など、これまで全国各地で開催される展覧会に出展もされました。
そんな織田さんが家具やデザインに興味を持ったのは、学生の頃だったのだそう。
「もともと父が家具が好きだった影響で、家具には魅力を感じていました。学生時代、大阪で父と大きな輸入家具ショップに行き、アルヴァ・アアルトのアームチェアとジョージナカシマのコノイドチェアがセールで出ていたのを見つけたのが、世界の名作に触れた最初の機会でした」

奥はデンマークのペーター・ヴィッツ、オーラ・ミュルゴー・ニールセン、手前はイブ・コホド・ラーセンデザインのイージーチェア。サイドテーブルは、スウェーデンのカール・マルムステンのデザイン
80年代には、すでに椅子を100脚ほど所有していたという織田さん。所有することから研究の道に進んでいったといいます。
「家に置ききれず、やめようかなと思っていたんです。でも偶然知った家具の在庫処分セールで、家具のリストを見たときに残しておくべきだと判断するものがたくさんあって。迷いが吹っ切れて、その場でこれからは研究の道に進もうと思いました。好みではないオフィス用の椅子もオフィスチェアとしては残すべきなんじゃないかと、好き嫌いとは別に研究資料として買うようになったんです。イラストレーション事務所をしていましたが、もうひと部屋を借りて研究室「CHAIRS」を作り、最初にデンマークを研究することにしました。当時、デンマークはどんどん工場が閉鎖したり、倒産していて。今なんとか手を打たないと手遅れになると思ったんです」

ものを買うときのルール
そんな織田さんが買うものには、あるルールがあるのだとか。
「見て美しいな、いいなと思ったものが基準。若い頃から、ものを買うときには予算内で買える最高のものを買おうと思っています。つまり自分のスタンダードラインを手が届く範囲で、できるだけ高いところに設定するということ。今の若い人たちはファストなものが全盛だと思いますが、材料や安全性など、安い価格を実現している背景をもっと考えないといけないと思いますね。価値観を少し転換して、安いからといってすぐに手を出さず、いいものを最後まで使い切ってほしいです」

結婚後すぐの頃に購入したという、ノルウェーのポルシュグルン社のプレートと、デンマークのイェンス・クイストゴーのカトラリー
織田さんがそう語るのも納得。結婚した頃に購入したというプレートやカトラリーは、50年以上たった今でも愛用しているそう。
「プレートの柄が擦り切れたり、柄の部分がダメになって木工作家に頼んで作り直してもらったりしながら使い続けて、寿命がつきないんです。ものの寿命には素材、構造、機能性、デザインという要素があります。流行を追いかけていると飽きがきてしまいます。デンマークの人は、職人が情熱をかけて作ったものは、使う側も情熱を持って使い続けるパッションも大事だといいますが、それらが揃うものが本物だと思います」

貴重なものばかり並ぶご自宅。1948年に製作された、フィンランドのカイ・フランクの木製の人形も

モンキーで有名な、デンマークのカイ・ボイスンによるダックスフント
捨てるようなものは、そもそも玄関をまたがせないと織田さんはいいます。
「ものを買う人の責任というものがあります。その責任が今ほどおろそかになっている時代はないと思います。昔は作る職人とともに、修理専門の職人がいました。今は修理するより買ったほうが安いという発想になっています。買い替え、差し替えの文化になってしまっているのが残念だなと思います」
北海道・東神楽町・東川町で研究を続ける理由

森とつながる広い庭の手入れも自身でするという織田さん
そんな織田さんは、29年前に北海道に移住。東川町に貴重なデザイン文化遺産ともいうべき資料の大部分を寄贈しました。
「家具職人の人材を育成する機関がたくさんあったり、“国際家具デザインコンペティション旭川(IFDAイフダ)”が開催されるなど、この地域は家具に関するインフラが整っています。寄贈先には、ほかにもオファーはたくさんありましたが海外だったので、東川町しかないと思いました。僕はあくまで個人で働いて得たお金だけでコツコツと買ってきたのですが、本来なら企業や自治体、国がやることだと思うんです。日本は、先進国で唯一デザインミュージアムがない。もしできたら日常生活にいいデザインが浸透して、間違いなく意識が高まり、生活文化も高まると思います。デザインの文化遺産を残していくことが自分の役割だと思っています」

本が好きだという織田さん。地下にある書庫のほか、書斎やほかの部屋にもたくさんの資料が並びます。
PROFILE
織田憲嗣さん
椅子研究家・東海大学名誉教授・東川町文化芸術コーディネーター。1946年高知県生まれ。大阪芸術大学卒業後、髙島屋宣伝部にイラストレーター、グラフィックデザイナーとして勤務。その後独立しデザイン事務所を設立。1994年から北海道東海大学芸術工学部(当時)教授となり、特任教授を経て2015年まで務めたのち現職に。現在北海道東神楽町の森の中の自邸で暮らす。
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photograph:Miho Kakuta text & edit:Mayumi Akagi
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