CULTURE
:これからを生き抜く知恵のような一冊。安齋明子さん、安齋伸也さん『たべるとくらしの料理帖』インタビュー
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日常の中にある美しさに気づけたとき、胸の奥が、うれしくなります。そんな感覚を大切にしながら、日々を見つめ続けている安齋伸也さんと明子さん。食べること、暮らすこと、そして考えることを分けずにひとつの「研究」として捉え、自然や環境、人との関係を問い直すそのまなざしには、静かで確かな温度があります。効率や正しさだけでは語れない「美味しさ」や「心地よさ」とは何か。日常の手触りを通して見えてくる、新しい暮らしの輪郭について、お話を伺いました。
ふわっとなんとなく素敵じゃなくて、
ちゃんと真面目に遊びたい。
食べることを問い直す、考え続けることってこんなにおもしろい! そう思わせてくれる、じんじん胸がアツくなる本に出会いました。著者は「たべるとくらしの研究所」の安齋伸也さんと明子さん。
どこか固いイメージをもつ「研究」を屋号にあえてつけた理由をうかがうと、彼らの瞳が切なく、遠くなります。そう、福島県で彼らが営む「あんざい果樹園」が東日本大震災による被害を受けたのは15年前のこと。
「これまでの前提を超えるかたちで、食にまつわるリスクと向き合うことになって、安全安心とか、オーガニックとか、生きることも含めて、本当に全部考え直さなきゃと思ったのです」と言う明子さんに、伸也さんが続けます。
「ただそれをマイナスに捉えててもしょうがないんで、どう前向きに楽しめるか。食べるとか暮らすって終わりのない遊びだし、ずっと問い続けていかなきゃいけない。あ、これは研究じゃないかって」
そこで試みたのは、出会った作物を、塩や砂糖、麹を活用して保存、その一連の営みごとシェアすること。安心や安全、平和や幸せへの問いかけを、誠実かつポップに届けること。
「ただ思想だけでなく、生活に近い部分からどう組み上げていくかをやらないと、現実味がない。調味料はどこの誰の何を使うかという選択が、どうつながるかを意識するだけで、大きく違う。ふわっとなんとなく素敵じゃなくて、ちゃんと真面目に遊びたい。楽しんで突き詰めていった先にどういう世界があるのかを、見てみたいんですよね」
畑担当の伸也さんに対し、明子さんは加工・調理部門を担当。「食べることが満たされていると、空気感が変わる瞬間がある。いろんなことがうまく回るんです」。それはお腹いっぱいにすることとも、ちょっと違う。「たとえば子どもが疲れて帰ってきた時『家のご飯を食べるとすっきりする』なんて聞くと、やっぱり食べ物の力ってすごいなって」また本書で強調されているのは、レシピに対する考え。明子さんは言います。
「そこは本当に感覚的で、その時々の素材の状態と、全体のバランスを感じて決まっていくんです。でも、その『計れない部分』にこそ、命をいただく実感がこもっている。目の前の食材と対話して、どうすれば次の季節へ、次の人へこの命を繋いでいけるか。そのサイクルが、私たちの暮らしのベースにあります」
本書は、そんな彼らの絶望の淵からあがくように問い続けてきた渾身の記録。レシピ本という枠をゆうに超えた、これからの時代を生きぬく、知恵のようなもの。「でもそれは特別なことじゃなくて、きっと誰にでもできることなんです」
『たべるとくらしの料理帖』

安齋明子、安齋伸也/¥1,790(主婦と生活社)
レシピとエッセイが渾然一体となった本書は、安齋夫妻が6年間続けた定期便利用者へのお便りをベースに構成。塩だけで野菜を和えるシンプルな調理法から、自家製麹や味噌を使った料理、季節の果物の保存食まで。本の存在そのものから、グッと生きる力が湧いてくる!
安齋明子さん、安齋伸也さん
photograph:Shin Sasaki text:BOOKLUCK
リンネル2026年7月号より
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