CULTURE
:15年越しで完成した、日本とフィンランドのコラボ絵本『アームとイルタ』ができるまで。イラストレーター・福田利之さん、アンネ・ヴァスコさんインタビュー
CULTURE
:
日本の福田利之さんとフィランドのアンネ・ヴァスコさん、2人のイラストレーターのコラボレーションによって生まれた絵本『アームとイルタ』。アイデアから発売するまでに15年かかったというこの絵本は、翻訳家・コーディネーターの森下圭子さん、グラフィックデザイナーの酒井田成之さんを加えた4人だからこそできた一冊だといいます。
絵本がどのようにして生まれたのか、絵本に込めた思いについて、4人にたっぷりお話を伺いました。
絵本のアイデアが生まれるまで

左から森下さん、酒井田さん、アンネさん、福田さん
フィンランドの絵本作家・イラストレーターのアンネ・ヴァスコさん、日本のイラストレーター福田利之さん、フィンランド在住の翻訳家・ムーミン研究者の森下圭子さん、デザイナーの酒井田成之さんの4人による絵本プロジェクトから生まれた『アームとイルタ』。
福田さん(以下福田):2010年にヘルシンキのギャラリー「Napa」で展示ができることになり、通訳を森下さんにお願いしたのが最初です。もともと北欧デザインに興味があったのですが、行ってみると人と人、自然と人の距離感、ちょっとシャイなところも日本人と似ていて、フィンランドの人は自然と人とのハードルがすごく低くて、自然と都会を自由に行き来しているところがいいなと惹かれました。
森下さん(以下森下):アンネと福田さんは、人の良さがにじみ出ていると思って。絵の技術が違っていても、どこか通じるところがあるかもしれないと思って、2人を引き合わせたんです。

フィンランドで合宿したときの写真。遊びの延長のようだったそう
アンネさん(以下アンネ):私はもともとカッパ(福田さんのこと)を知っていて、本当に大好きだったんです。いろいろな形で表現ができ、どれを見ても美しい。作品からも多くを学んでいましたが、知り合うことでより、いろいろなことを学びました。
福田:出会った頃は、アンネは絵本作家というよりイラストレーターという認識でした。その技量というか、ちょっとしたユーモア、深い意味がそこに自然と込められていて、日本人の感覚に近いものがあって。初めて見たときにいいなと思いました。
アンネ:こうやってお互いに“すごいすごい”と言い合っていますが、最初からすごく楽しかったんですよね。一緒にずっと遊んでいられたのがよかったです。
福田:そうですね。その場を全部作ってくれているのが森下さんなんです。

15年前に作った絵本のラフ。本の中央で話が終わるというのも、最後に木が出てくるところも同じでしたが、一つの絵の中に2人の絵が入っていたそう
絵本を作ろうというアイデアが生まれたのは、2011年のこと。東京と神戸で開催された福田さんとアンネさんの二人展のため、震災直後にもかかわらず、アンネさんは日本に来ることを決めたそう。
福田:情報がなく、海外から日本に来るのが難しいなかで、アンネが“いやいや行くよ”って来てくれたことに、本当に勇気づけられて。自分が決めたこと、思ったことに飛び込んでいくアンネが素晴らしいと思ったし、このことが実は今回の絵本に関係しています。
アンネ:絵本を作る話になったときのことをすごく覚えています。二人展にとても多くの人に来ていただいて、感想を聞いているうちに気持ちが高まり、この勢いで4人で何かできたらと思ったんです。東京から神戸に向かう新幹線のなかで、日本とフィンランドの本はページをめくる方向が逆なので、2人の本を一緒に作れるのではと思いつきました。

その後、福田さんと酒井田さんがフィンランドを訪れ、サマーハウスで絵本合宿をしたそう。
森下:北極圏に近い海のそばにある、築150年ほどの木造の家で。近くに店もなく、庭のいちごを摘んで食べたり。
福田:ヴィヒタを手作りしてサウナに入ったり。合宿といっても、ほとんど遊んでいましたね。アイデアを出し合って、本当に絵本を出そうというところまで来ていたけれど、いろいろあって出せなくなってしまって。そこから15年以上月日が経ちました。
絵本作りを再開

2023年にイベントのため、アンネさんが来日。福田さんと再会します。
福田:“あの本どうするの”という話になり、お互いにやりたいねと。森下さん、酒井田さんにも聞いてみると、みんな”やりましょう”って。
アンネ:この15年間、頭の中で引っかかっていたんですよね。これができない限り、私は引退できないと思うくらい、最初から絶対にいいものになるということを考えていました。
福田:明らかに難しい造りの本なので、なかなか難しかったのですが、古い友人でもある出版社の「888(ハチミツ)ブックス」に真剣にお願いしました。
森下:フィンランドの「VINHA(ヴィンハ)」は、昔からある書店を文化的な発信地にしようとしている場所で、1階が書店と古書店、それからカフェとギャラリーもあって、2階が宿泊施設(秋の間はアーティスレジデンス)になっていて、そこを切り盛りしている2人が出版も始めて。そこで合宿もして、版元にもなってくれたんです。
アンネ:もともと4人でやっていたことも楽しかったけれど、15年前に私たちのパズルの足りなかったピースが今回入り、仲間を増やすという形で実現できたことが幸せでした。

制作はとても楽しいものだったそうですが、一度途中まで進んでいたものをもう一度再開するのは、なかなか難しかったのだとか。
福田:最初は何も考えず、2人が真ん中で出会うという面白さだけだったのですが、ここ最近、いろいろとテーマにしている生と死の集大成みたいなものを、今回の本でやりたいと思ったんです。アンネの力を借りて、フィンランドの哲学や文学を頼りに、自分のネガティブと取られるような話をポジティブに持っていってくれる絵本ができると思ったんです。(この絵本の女の子)アームは、僕はアンネだと思いながら描きました。ちょっといたずらっぽいところもあるし、行動力もあって。
アンネ:道に迷ってどこにいるのかわからなくなるところは、私に似ていると思っていました。私には子どもがいますが、アームのようにいい人たちに出会って、なんだかんだ言いながらも、最後はよかったねと思ってもらえるような人生を歩いてもらえばいいなと思いながら描きました。

アンネさんから最初に送られてきたというラフ。福田さんの大きな刺激になったのだそう
福田:アンネの素晴らしいところに、ちゃんと添えるようなものを作らなきゃと思いました。アンネが最初のラフを送ってきたとき、負けたと思ったんです。すごくいい絵で。
アンネ:私もこの絵ができたとき、これで前に進めるって自分の方向性がわかったんです。
酒井田:ラフを一度出し合ったことで、お互いの刺激になったんですよね。
福田:動というものが本当にちゃんと表現されていて、僕はもう淡々と行くと決めたんです。白米に梅干しを乗せるくらいの感じで、映画の『ストレイト・ストーリー』(老人が病気の兄に会いに行く物語)みたいな感じで行こうと、その絵を見た瞬間に腹が決まりました。

福田さんが気に入っている原画
刺激を受け合いながら、それぞれの絵と文章を同時進行で進めていったそう。日本とフィンランドの両方で出版するにあたり、さまざまな調整があったとか。
森下:アンネの文章は情緒的で、福田さんの方は動きが言葉になっています。日本訳では、情緒は文化的な違いを補うために、本人に聞きながら言葉を足したり、意外と細かな調整をしています。動きの言葉はこうでしかないので、フィンランド語への翻訳はシンプルに、そのまま訳している感じです。
酒井田:フィンランドでも自然に読めるよう、本を上下逆にするデザインを提案しました。福田さんとアンネさんとはだいぶトーンが違っていて、アンネさんは鮮やか。普通の印刷ではどうしても出ない、鮮やかなピンクやグリーンができるだけ地味にならないように印刷所にお願いをして。結果、思った以上の鮮やかさになりました。
アンネ:印刷で、こんなにきれいに再現してもらえるとは。カッパの夜のシーンの、繊細な闇の色も出せていて驚きました。
自由に絵本を楽しんでほしい

左が福田さん、右はアンネさん側から見た表紙
『アームとイルタ』は、生命力あふれる女の子・アームがどんどん新しいものを受け取りながら前に進み、一方年老いたクマのイルタは持っていたものを少しずつ手放していくお話に。
森下:アームの方をフィンランド語で読んで思ったのは、アームはとても強い子だし、好奇心旺盛に見えるけど、それは当たり前ではないんですよね。旅立ちはやっぱり怖いもので、思い通りにいかないことも多分わかっていて。だから歩いているうちに、だんだん自分の道になっていくような歩き方をしている気がします。
アンネ:そうですね。やっぱり物事は思うようにはいかなくて、でもそういうときに人と出会うことで何かが変わっていく。
福田:いまの話が、まさにこの本の成り立ちと同じ。いろいろな人と出会って、みんなが助けてくれることで、この本ができあがった。15年前と時代が変わって、結果的に共生やボーダーレスという意味が含まれて、それをこのタイミングで出せたことに意味があるのかなと感じています。
酒井田:15年の間にみんながすごく頑張って、信頼やネットワークが培われてきたから、15年ぶりにやろうと言ったときに一緒にやってくれる人が現れたのだと思います。この15年は必要だったと思いますね。

アンネさんのお気に入りの一枚の前で

3月に開催された、絵本の原画展の様子
アームとイルタのどちらから読むかによって、印象が大きく変わるのも面白いところ。自由に読んでほしいそう。
福田:僕は、生まれるというコンセプトなので、アームの方から読んでほしいかな。アームの方からそのまま読み進めて、イルタがどうやって家を出たのかと見るのも面白いかも。
アンネ:半分だけ読んで、少し時間を置いてからもう半分を読むのもいいと思います。
森下:私はあまり考えずにアームを読んで、その後ひっくり返してイルタを読んでいるかな。
酒井田:僕は仕事柄、俯瞰して見ているから、両方同時進行でだんだん近づいているという印象でした。一旦読むのをやめてみるというのも面白いですね。
福田:おすすめは2冊買っていただいて並べて、アームとイルタを同時に読むことです(笑)。
森下:読んでいて改めて思ったのですが、イルタは恵まれた環境を後にして旅に出たんですよね。アームからの手紙が、それでもいいっていう気持ちにさせたというか。人の出会いって不思議ですよね。
アンネ:この人たちは、私たちよりもずっとずっと勇気があると思います。

15年間、4人が手放さなかったことは、2人の描く物語が本の両側からそれぞれ始まり、本の真ん中で出会って終わることだと森下さん。
森下:本は読み終えて閉じるけれど、この物語は終わるときに本が開かれた状態になっています。この開いた世界で終わるというのが素敵だなと思っていて。なんだかその世界が続いていて、世の中は悪くないな、私たちにはたくさん可能性があるんだなと、希望を持たせてくれるような終わり方をしている気がします。自由に読んで、この本が持っている可能性を広げていただけたら嬉しいです。
福田:みなさんの立場や考えがあるなかで、どういう解釈をするかはおまかせしたいと思います。僕がフィンランドに興味を持ったように、この本をきっかけにフィンランドに興味を持って、ぜひ行っていただけたらいいなと思います。
アンネ:4人が集まると、今度また何かしたいねという話になります。今後、フィンランドで展示をする予定で、その後も何か続くんじゃないかなと思います。
森下:それぞれすごく力がある人たちなので、1人で十分できているんですよね。この4人のいいところは、目立とうとする人がいないこと。人のいい人たちの集まりなんです(笑)。
『アームとイルタ』

福田利之(文・絵)、アンネ・ヴァスコ(文・絵)、森下圭子(訳)/¥2,750(888ブックス)
本書は福田利之さんとフィンランドのイラストレーター、アンネ・ヴァスコさんのコラボ絵本。2人がそれぞれ絵と文を担当し、本の両側からそれぞれの物語が始まります。本の上下を逆にすることで、前からも後ろからも読み進めることができます。
<あらすじ>
北の国、小さな岩の島に住む女の子アーム。生まれてから一度も見たことのない、大きな木への憧れを綴った手紙を、ボトルに入れて海に流しました。そのボトルレターを遠い場所に住む年老いたクマのイルタが拾い、自分がかつて聞いた美しく大きな木のことをアームに伝える返事を書きました。同時にイルタは、好奇心旺盛なアームの姿に若い頃の自分を思い出し、彼女に会いたくなりました。大きな木を目指して、それぞれの旅が始まりました。
アンネ・ヴァスコが描く生命力に溢れたアームの旅と、福田利之が描く人生の終焉を迎えようとするイルタの旅。本の真ん中でふたつの旅が重なります。
お話を伺ったのは
ティッシュペーパーやインスタントコーヒーなどを画材とする独特な手法で、凹凸のあるマチエールや時間の経過を感じさせる作品を制作。どこか懐かしい雰囲気と特徴的なフォルムで、唯一無二の作風になっている。装画や広告、CDジャケット、絵本、ロゴのほか、雑貨などのプロダクトデザインも精力的に行っている。絵本に『あの人が歌うのをきいたことがない』(文・堀込高樹、888ブックス刊)など。
日常での小さな発見に始まり、子どもの好奇心や我々を取り巻く社会や環境への視点から作品を生み出している。手描きとデジタル表現が融合した絵は、タッチ、リズム、フォルムが言葉と同じくらい物語性を持って読者に届いている。さらに彼女が作る世界は詩的でありながら繊細でユーモアがあり、注目されている。
ムーミンがきっかけで、1994年秋にフィンランドに渡る。ヘルシンキ大学での研究を経て企業の翻訳や通訳、視察やメディアのコーディネートをするようになり、現在は絵本をはじめとする書籍の翻訳、フィンランドやムーミンに関する執筆も多い。映画『かもめ食堂』ではアソシエイトプロデューサーを務める。現在フィンランドの首都ヘルシンキ在住。
2006年酒井田デザイン事務所設立。コーポレートアイデンティティ、ビジュアルアイデンティティ、エディトリアルデザイン、パッケージデザインなどを中心に活動中。近年は学習院ミュージアム、泉屋博古館、東京ステーションギャラリー、三重県立美術館などの、美術館の広報物・図録を主に手がけている。日本グラフィックデザイナー協会会員。
こちらもチェック!
photograph:Miho Kakuta text & edit:Mayumi Akagi
※画像・文章の無断転載はご遠慮ください
おすすめ記事 RELATED ARTICLES
Recommend
SNAPRanking
DAILY
/
WEEKLY





![【愛用歴25年以上!内田彩仍さんとドモホルンリンクルの素敵な関係】うるおいとエイジングケア※[基本4点]で肌力を鍛える!](https://liniere.jp/wp/wp-content/uploads/2026/03/S__21012484.jpg)
































