今回、新著『エッセイストのように生きる』の発売に合わせて、エッセイスト松浦弥太郎さんにインタビューをしました。これまでさまざまなテーマで著書を生んできた松浦さん自身を振り返り、総括するような一冊に。便利になっていく暮らしのなかで、今自分ができることに向き合ってみましょう。
僕らにとって辛くて大変なことこそが、世界で一番素敵なことなんだよと
AI元年」ともいわれた2023年。「そんな中でね、自分がこれからどうやって人間味を守っていくのか、みんな問われていくと思うんですよ」
知性をたたえた穏やかな口ぶりと眼差し、松浦弥太郎さんが語ってくれたのは、私たちのこれからの生き方でした。「その選択肢として、自分がエッセイストという肩書きで30年やってきたことを言語化していくことで、今この時代の幸せになる方法のひとつになってくれたらいいなあって」
新刊『エッセイストのように生きる』は、これまでさまざまなテーマで著書を生んできた松浦さん自身を振り返り、総括するようなエッセイ。「何もエッセイストという職業になろうってことじゃなくて、生き方ですよね。その考えをまとうこと」
日々の中から感動や気づきを探し、自分自身を知っていく。それを書くという行為を通じて分かち合い、育んでいく。「きっとみんなにとっても、悪くない生き方だと思うんですよね」
そんな松浦さんの言葉の通り、5章からなるうち、実際の「エッセイの書き方」について言及しているのは、最後の1章のみ。それまでは「エッセイとは、なにか」から始まり、日々の心がけや姿勢についてのテーマが多くを占めています。そのかなめとなるのは、「書くために、考える」。「いろんなテクノロジーが発展して、僕らは何も考えなくても困らない時代になってきてるなって思うんです。自分にとってのレコメンドしか周りにないことで、嫌だなって思うことが排除されていく。自分を全肯定してくれて、ノーと言う人は誰もいない。だから、失敗することもないという生活を、手に入れてしまっている。結局はそうすると、どんどん人と付き合うのも面倒になってきたり。『不幸せな幸せ感』が増していくんですよね」
ゆえに困ったり、悩んだり、悲しい思いしたり、傷ついたり。そうしたある種のノイズが、人間にとって大切。
「だからこの本で言いたかったことって、一番僕らにとって辛くて大変なことこそが、世界で一番素敵なことなんだよと。それは仕事だけじゃなく、暮らしもそう」
この言葉は、2012年ロンドンオリンピックの際に流されたP&G のCM キャンペーン「世界でいちばん大変な仕事は、世界でいちばん素敵な仕事です」から着想を得たと言います。
悩み、考え、そして書く。「だから書くことって、考えることなんですよ。僕らが人間味を失わないための、ひとつのフィジカルな行為としてね」
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