CULTURE

作家・安達茉莉子さん「自分自身も誰かがそっとかけてくれた毛布の下で、必死に傷を癒していたから」 作家・安達茉莉子さん「自分自身も誰かがそっとかけてくれた毛布の下で、必死に傷を癒していたから」

安達茉莉子 作家 エッセイ BOOK カルチャー 『毛布 ‒あなたをくるんでくれるもの』

2015年から創作活動を始め、イラストと言葉による作品で多くの支持を得ている注目の作家・安達茉莉子さん。日々の出来事や感情を瑞々しく描くエッセイに、きっとあなたも心温められるはず。

目次
作家・安達茉莉子さん「自分自身も誰かがそっとかけてくれた毛布の下で、必死に傷を癒していたから」
  1. インタビュー
  2. 新著『毛布 ‒あなたをくるんでくれるもの』
  3. お話を伺った安達茉莉子さんProfile

人が感じていてもうまく取り出すことができない、言葉にならない思い

「『なんでわかるの?』と言われることがよくあって。『これは私のことを言ってる。自分のことを見てもらえた、という感覚になる』って」

ーーつん、と胸をつく言葉と絵で、熱いファンを増やしている作家・文筆家の安達茉莉子さん。自身初となるエッセイ集「毛布‒あなたをくるんでくれるもの」が発売されました。安達さんが一貫して綴るのは、人が感じていてもうまく取り出すことができない、言葉にならない思い。

「#MeToo運動があったとき、本当にこんなひどいことが世の中にあるんだと思いながら、どこかその中に入っていけない感じがあって。それはどうしてだろうって考えると、私は劣等感が強すぎて、自分を『女性』だと思えてなかったから。フェミニズムを語るには値しない、そう思っていたんです」

それに気づいたとき、衝撃を受けたとともに「言葉にすることで、モヤモヤしていた状況から、世界が少し整理される。自分のことがわかるための必要なプロセスでした」

自分を浄化することで、湖の水質が変わるように、まわりも少しずつ変わっていく

ーー思えば幼いころからずっと「書く」ことを手放さず、よすがにしてきた安達さん。誰のために書いてきたのかと問うと、大きな瞳をくるりとさせながら考え、慎重に言葉を紡ぎます。

「誰のため、という感覚はあまりないんです。だけど、いつも存在を感じながら書いていると思います。多分私と同じものを、悲しみだったり、うまくいかないことだったりを共有しているオーディエンスが、見えないけど、いる。そういう人たちに届いて、響くように」

ーーそうした響きこそが、社会を変える小さなきっかけになることも。

「自分を浄化することで、湖の水質が変わるように、まわりも少しずつ変わっていくって、あると思うんです。すごくじわじわと、でも変わるんだよっていうのも伝えたい」

ーー「毛布」というタイトルには、さまざまな意味がこめられています。人をくるんでくれる安心感や、守ってくれる象徴としてだけでなく、「傷を負った人の上に被せられるもの、という意味もあって。自分自身も、誰かがそっとかけてくれた毛布の下で、必死に傷を癒していたから」。

ーーそう、この本はまさに救命胴衣。ただ「助けてもらう」のではなく、自らを愛し、自らの手で救い出すことができる、ワークブックのようなもの。

「これまで自分なりに道筋をつけてきたことがこの本に表れているので、読んでくれた人にとってもそうなれば、とてもうれしいです」


新著『毛布 ‒あなたをくるんでくれるもの』

安達茉莉子『毛布 ‒あなたをくるんでくれるもの』

迷える時代の私たちを照らす新しい星。今、注目される著者の原点となるエッセイ集。自分を愛せず、見失っていた時期からやがて再生していくまでの過程。海外留学中に触れた、美しくしなやかな価値観。かけがえのない友人たちとの共鳴。個人的な体験からの新しい気づきが、温かいながらも力強く、知に富んだ筆致で綴られる。人生の絡まったリボンをほどくように読んで、感じて。


お話を伺った安達茉莉子さんProfile

あだち・まりこ/作家・文筆家。大分県日田市出身。東京外国語大学英語専攻卒業、サセックス大学開発学研究所開発学修士課程修了。政府機関での勤務、限界集落での生活、留学などさまざまな経験を経て、言葉と絵による作品発表・エッセイ執筆を行う。著書に『消えそうな光を抱えて歩き続ける人へ』(ビーナイス)、『何か大切なものをなくしてそして立ち上がった頃の人へ』(MARIOBOOKS)など。


photograph:Shinnosuke Soma text:BOOKLUCK web edit:Masako Serizawa
リンネル2022年7月号より
※写真・イラスト・文章の無断転載はご遠慮ください

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