アコースティックのシンプルな音色のなかに、日々移ろう暮らしの景色を投影させた楽曲の数々で人気の高い、奇妙礼太郎さん。今年で音楽活動を開始して25周年という節目を迎え、セルフ・タイトルのアルバム『奇妙礼太郎』を完成させました。菅田将暉さんなどと共演した話題曲も収録した内容。常に暮らしに根ざした音楽を追求する奇妙さんの真摯な姿を感じられます。そんな奇妙さんが、暮らしのなかで大切にしていることとは?
日常のなかで生まれた曲たち
ーー2021年にリンネルにご登場いただいた時には、ショートカットでしたが、髪型が変化されましたね。
奇妙礼太郎さん(以下奇妙):以前はお風呂なんかで自分で切ってたんですけど。ある日友達に、美容室行ってみたらどうって。僕は、あんまり行ったことない・したことないことするの好きなんで。じゃあ行ってみようかなと。
ーーまた、変化といえば、猫を飼い始められたそうですね。
奇妙:そうですね。もう一緒に暮らして2年以上経つんで、馴染んでるんですけど、最初は何か命に責任を負うとか、生き物に名前つけるとか、そういうことが初めてで。その行為がすごいことやなと新鮮で。
ーー確かに。
奇妙:自分の子供に名前つけてる人とかすごいなとか。一生使うのになって。そんなこと思ったりとか。なんかね、自分と暮らしてて、予測できないことで死んじゃったりする可能性もあるので、それを考えるだけで怖いみたいな感じ。初めて味わったなと思うんですけど、そんな話を友達にしたら、猫って本来外で逞しく生きてるから、そない心配せんで大丈夫って言われて、それもそうかと。気をつけることは確かにありますけど、伸び伸び暮らしてます。
ーーアルバム『奇妙礼太郎』には「いつのまにか猫」という楽曲も収録されていますね。
奇妙:そうなんですよ、これは1月程前、ベッドで寝転がって本読んでいて、気がついたら脇の下に猫が挟まってて。そうしたら<あっ曲できた>って。本当は<脇の下>でも良かったですけど、ふふふ。もうちょっと幅広くして「いつのまにか猫」に。
バラエティ豊かな方々とコラボレーション
ーー今回のアルバムは、ご自身の名前をタイトルにされていますね。今年で音楽活動開始25周年という節目もあって、されたのかなと思ったのですが。
奇妙:これは事務所やスタッフの方々と、さて今回のアルバムタイトルどうしましょう、というアイデア会議がありまして。セルフタイトルってまだやったことないですよね、みたいな流れになって。言われてみればそうだし、今回は全曲書いたし自分の素の部分がそのまま出ているので。ああこれだなと。
ーーでは、25周年とか意識せずに制作を?
奇妙:そうですね。
ーー今回は、活動初期から交流のある盟友というべき存在、Sundayカミデさんがプロデュースを担当されていますね。
奇妙:僕が家でギターを手に取って、歌ったものを、スマートフォンのボイスレコーダーに入れて、Sundayさんと、アツムワンダフルくんに送る。そこにアツムくんがトラックメイキングしたものを加えて、そこからSundayさんと3人でそれを聴きながらさらに詰めていくという始め方で。
ーーまた、今回は菅田将暉さん、羊文学の塩塚モエカさん、そしてお笑い芸人のヒコロヒーさんとのコラボ・ソングも収録されていますよね。
奇妙:アルバム制作が決まって、事務所の社長、マネージャーから25周年、これまで仕事をしてきた中、出会えた方と一緒に曲を作るのはどうですかと提案があって。驚いたというか、そういうことは全然頭に無くて。そこから相談していろいろ決めて、こちらからお誘いする形でご連絡して、先方からOKのお返事をいただいて作曲をはじめました。
ーーヒコロヒーさんとの共演曲、素敵ですね。おふたりで休日のベランダでほっこりしている雰囲気が伝わってきました。
奇妙:話が決まってからすぐにイメージが膨らんで書けて。交互に歌っていて、そこでの声のトーンがものすごく(フィットして)素晴らしい仕上がりになって、完成して、なんか嬉しくて。何の接点も無いふたりが、歌の中だけで互いのことを知らずに存在しているようなところが好きで。素敵な歌です。
ーーこれら共演曲も含め、アルバム収録曲は奇妙さんの日常を切り取ったような風景が浮かぶものばかりが収録されていますね。
奇妙:そうですね。受け取った人がその人だけのイメージを膨らませるのが好きで。リリースされた後は、その人だけのものになって、それぞれ共に生きてゆくという感じが好きです。
ーー「ほんまにおいしいお好み焼き」は、聴いていると食べたくなりますし(笑)。
奇妙:なんかあれをライヴで歌った後は、会場の近所にあるお好み焼き屋さん、混むらしいです、ふふふ。
ーーお好み焼きに対して強いこだわりを持っていると思ったのですが。
奇妙:お好み焼きのこだわり、、こだわりあるかな?
ーー関西風と広島風がありますが、それにはこだわりはなく?
奇妙:そもそもこのふたつは別々の個性を持つ食べ物で、比較することに無理があると僕は思ってて。どちらも大好きです。食べたい。
ーー(笑)。この楽曲も含め、自然に出てきた言葉やアイデアを丁寧に表現されているアルバムだと思いました。
奇妙:そうですね。お好み焼きの楽曲もそうですけど、その場でパッて出たものの豊かさを信じているというか。出だしのアイデアはくだらなかったりするんですけど、それを完成させたり、またライヴで披露したりすると、すごくいいものになったりする。
ーーつまり、アルバムの収録曲は、今後さらに成熟していくということですかね?ライヴで観客の皆さん、また日常でそれぞれが好きなとらえ方で楽しむための、旅のしおり的な?
奇妙:これで完成だし、どんどん変化もしていくし、それがとても楽しみ。僕たちと観客、ライヴのためのフォーマットでもあります。
ーー9月には日比谷野外大音楽堂での初のワンマン公演が控えていますね。
奇妙:とても楽しみ、最高の時間にします。
ーーその間にも、この夏はたくさんのライヴやフェス出演なども決まっていますね。奇妙さんにとってライヴが暮らしの一部になっているのではないでしょうか?
奇妙:そうですね、各地でお会いできるのいつも楽しみです。
ずっと変わらず好きな作品
ーーQ.最近の暮らしで何か変化はありましたか?
奇妙:最近というか東京に住んで10年なんですが、2年に一度、なぜか引越してしまいます。
ーーQ.引っ越しの際って、結構荷物多かったりするのですか?
奇妙:楽器はやっぱり割とありますけど。本はね、なんか本棚がいっぱいになったら一回全部近所の古本屋さんに持ち込むんですよ。うわー!って。衝動に駆られる。だから、何回も買い直している本があったり。
ーーQ.そのなかでお気に入りの作品ってありますか?
奇妙:土田世紀さんの『同じ月を見ている』という、全7巻の漫画ですね。それすごい好きで、自分で読むっていうのもあるんですけど、仲良くなった人やお店に勝手に送ったり。
ーーQ.どんなところが魅力ですか?
奇妙:僕が19歳ぐらいの時に連載してた作品で、当時は顔面がびちゃびちゃになるぐらい涙を流しながら読んでて。なんでしょうね……自分じゃないんですけど、自分の話をしてくれてるように感じて。いろんなエンターテイメントありますけど、これは自分のことだと思えるようなものなかなかなくて。でも、この作品でようやくそう思えるものに出会えて。それがすごいうれしくて。その感動を多分ずっと忘れられないというか、忘れたくないからずっと手元に置いてるんかなと思うんですけど。だから、一度全部の本を手放しても、すぐに買い戻してしまいます。
音楽活動25周年記念アルバム『奇妙礼太郎』
奇妙礼太郎/¥3,300(通常盤)
ビクターエンタテインメント
6.21 on sale
初めて奇妙さんが全曲の作詞・作曲を手がけたアルバム。アコースティックから、軽快に踊れるビートまで多彩なサウンド構成で、日々に柔らかな光を与える作品に。22年にキネマ倶楽部 (東京)にて行われたライヴ映像を収録したDVD付きの初回限定盤も発売。
Profile
きみょう・れいたろう/1976年大阪府生まれ。1998年より音楽活動を開始、2016年よりソロに。9月17日には『祝・日比谷野音100周年 奇妙礼太郎 活動25周年記念 日比谷野音単独公演 “I LOVE YOU”』を開催。
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リンネル2023年8月号より
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