CULTURE
:【今月のTO DO LIST】 5月にチェックしたい映画と本と展覧会
CULTURE
:
週末の予定は決まりましたか? 今、みなさんにおすすめしたい映画、本、展覧会などを、ライターの赤木真弓さんが厳選し「TO DO LIST」としてご紹介します。ぜひお出かけの参考にしてくださいね!
【今月のTO DO LIST】 5月にチェックしたい映画と本と展覧会
■MOVIE 『美と殺戮のすべて』
世界を動かした、ある写真家の物語

Photo courtesy of Nan Goldin
今回紹介したいのは、私生活を赤裸々に写した作品で知られる写真家ナン・ゴールディンのドキュメンタリー映画『美と殺戮のすべて』。
ナン・ゴールディンは1953年生まれの写真家。厳格な家庭に育ち、姉の自殺をきっかけに両親のもとを離れ、オルタナティブ・スクールと呼ばれる自由で進歩的な学校に転校。仲間たちとの共同生活をありのまま記憶していくために写真を用いる、独特の表現スタイルを形成します。
1970年代以降、ジェンダーやノーマリティの定義を作品で探究。自身の人生や周りの友人たちの人生を記録し、写真家としての地位を確立。作品を通して社会問題を提起し、ニューヨークのホイットニー美術館やメトロポリタン美術館、パリのポンピドゥー・センター、ストックホルム近代美術館など、世界中で展覧会が開催されています。

© 2022 PARTICIPANT FILM, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
そんな彼女のもうひとつの顔がアクティビスト。彼女自身も依存症に苦しみ、全米で50万人以上が死亡する原因になったとされる処方薬による薬害、オピオイド危機に立ち向かうため、2017年に政治団体を設立。世界中の美術館に寄付もしている大富豪である、オキシコンチンという薬を製造する製薬会社を営むサックラー家をアート界から追い出す活動をしています。

© 2022 PARTICIPANT FILM, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
メトロポリタン美術館では、鎮痛剤のラベルを貼った薬品の容器を美術館の噴水にばら撒いたり、グッゲンハイム美術館では、ドームの上から処方箋に見立てた紙をばら撒いたり、ヴィクトリア&アルバート博物館では、血のりをつけたお金を撒いてダイ・イン(犠牲者になりきって横たわり、抗議を表明すること)をしたり。
誰もが知っているような美術館の資本元でもある、巨大な会社を相手に声をあげて戦う姿が、彼女の波乱万丈な人生と並行して描かれていきます。

© 2022 PARTICIPANT FILM, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
私はよく美術館に足を運びますが、ちょうど先日、出展者がアクティビズムを行う場面に遭遇したこともあり、ナン・ゴールディンの活動はアーティストとして当たり前だと感じることができました。アートだけではなく、寄付によって成り立っている文化事業について、改めて考えるきっかけにもなりました。
美術館のあり方やアートの意味について考えることのできる、とても素晴らしいドキュメンタリー。ぜひアートが好きな方に観てもらいたいです。
■BOOK 『彼女たちの戦争 嵐の中のささやきよ!』
ささやかでも爪痕を残した“彼女たち”の人生

マルゴー・フランクとアンネ・フランク姉妹、エミリー・ディキンスン、伊藤野枝、ヴァージニア・ウルフ……。この中で聞いたことのある名前はいくつあるでしょうか?
科学者、詩人、活動家、作家、スパイ、彫刻家。戦争に巻き込まれたり、影響を受け、男性社会のなかで本来望む生き方を抑圧されながらも、尽力した女性たち。彼女たちの仕事がなければ、今の私たちはなかったのかもしれません。本書は、そんな女性たちの戦いの記録を描いています。

「ミレヴァ・マリッチ」小林エリカ デザイン:名久井直子
各章の扉には著者である小林エリカさんのドローイングとともに、取り上げられた女性たちの人生がひとことでまとめられ、その享年と職業が書かれています。
簡潔にまとめられた彼女たちの人生は、偉人として名前をよく知られている人でも一人の人間であり、時代に翻弄され、必死に生きた女性だったことがよくわかります。

「リーゼ・マイトナー」 小林エリカ デザイン:名久井直子
例えば、女性の参政権を求めて、競馬のレース中の馬の前に飛び出したイギリス人女性、エミリー・デイヴィソン。「核分裂」という偉大な発見をしたのに、男性の共同研究者に手柄を取られ、ノーベル賞を逃したリーゼ・マイトナー。子育てのために学問を諦めるしかなかったのに、長らくアルベルト・アインシュタインの悪妻としてされてきたミレヴァ・マリッチ。

「エミリー・デイヴィソンの葬列を組む女たち」 小林エリカ デザイン:名久井直子
聡明で才能があるのに、功績を奪われたり、評価されなかったり。昔の女性は大変だったんだね……と他人事には思えず、むしろ地続きであることに衝撃を受け、一人ひとりに「あなたの人生は決して無駄ではなかった」と言いたくなりました。
これまでも『親愛なるキティーたちへ』(リトルモア)や『マダム・キュリーと朝食を』(集英社)など、目に見えない時間や歴史、家族や記憶、場所の痕跡を着想の源として活動してきた小林エリカさん。あまり注目されてこなかった女性たちの人生に光を当てた本書でも、小林さんのメッセージが優しくも力強く伝わってきます。連続テレビ小説『虎に翼』を観ている人にもおすすめしたい、きっと心を動かされる一冊です。
『彼女たちの戦争 嵐の中のささやきよ!』
著者:小林エリカ
発行:筑摩書房
価格:¥1,870(税込)
■EVENT 「アウト・オブ・民藝」
民の暮らしと「民藝」との関わり

写真:高見知香
ちょうど100年前の1924年、柳宗悦や河井寛次郎、濱田庄司らによって生み出された言葉「民藝(民衆的工藝)」。当時、主に農村や漁村で暮らす人々に向けられた「民」という文字は、民藝に限らず、一般に流布していた民衆藝術、民族藝術、民謡をはじめ、民俗学、民間芸術、農民美術運動、平民工芸など、さまざまな場面に登場しました。そのため、それらの言説のなかで民芸品、民具、郷土玩具、農民美術などに向けられる眼差しも複雑に絡みあっています。

『アウト・オブ・民藝』 2019年/誠光社
『アウト・オブ・民藝』とは、こけしや郷土玩具、手芸や家庭内でのレクリエーション的創造など、民藝運動と近しい存在でありながら、「その他」として扱われてきたモノや行為に対して愛と探究心を向け、民藝運動の「周縁」にスポットを当てた活動です。
本展は、同名の書籍の著者である軸原ヨウスケさんと美術家の中村裕太さんが会場の生活工房とタッグを組み、社会変動の激しかった民藝運動草創期に焦点を当て、民衆の暮らしや新聞、雑誌の記事などから、「民藝」の受容と広がりを立体的に検証。今日のライフスタイルとしての「MINGEI」との食い合わせを「民」という文字からひもときます。

写真:高見知香

写真:高見知香
主に 1910年代から40年代の新聞や雑誌などの出版物をはじめ、彼らの日記や書簡などを時間軸に沿わせた「アウト・オブ・民藝の芋蔓年表」を展示。
「民」にまつわる文献や物品を芋づる式に展示することで、「MINGEI」とはひと味違ったB面を掘り起こしていく、興味深い企画展。世田谷美術館で開催中の「民藝 MINGEIー美は暮らしのなかにある」(6月30日まで開催)とあわせて見ると、より立体的に理解できそうです。
text & edit:Mayumi Akagi
※画像・文章の無断転載はご遠慮ください
おすすめ記事 RELATED ARTICLES
Recommend
SNAPRanking
DAILY
/
WEEKLY







































