週末の予定は決まりましたか? 今、みなさんにおすすめしたい映画、本、展覧会などを、ライターの赤木真弓さんが厳選し「TO DO LIST」としてご紹介します。ぜひお出かけの参考にしてくださいね!
著書に『ラトビア、リトアニア、エストニアに伝わる温かな手仕事』、共著に『「好き」を追求する、自分らしい旅の作り方』(ともに誠文堂新光社刊)ほか。
リンネル本誌では、アート&イベントページを担当。
illustration:Hisae Maeda
■MOVIE 『美と殺戮のすべて』
世界を動かした、ある写真家の物語
今回紹介したいのは、私生活を赤裸々に写した作品で知られる写真家ナン・ゴールディンのドキュメンタリー映画『美と殺戮のすべて』。
ナン・ゴールディンは1953年生まれの写真家。厳格な家庭に育ち、姉の自殺をきっかけに両親のもとを離れ、オルタナティブ・スクールと呼ばれる自由で進歩的な学校に転校。仲間たちとの共同生活をありのまま記憶していくために写真を用いる、独特の表現スタイルを形成します。
1970年代以降、ジェンダーやノーマリティの定義を作品で探究。自身の人生や周りの友人たちの人生を記録し、写真家としての地位を確立。作品を通して社会問題を提起し、ニューヨークのホイットニー美術館やメトロポリタン美術館、パリのポンピドゥー・センター、ストックホルム近代美術館など、世界中で展覧会が開催されています。
そんな彼女のもうひとつの顔がアクティビスト。彼女自身も依存症に苦しみ、全米で50万人以上が死亡する原因になったとされる処方薬による薬害、オピオイド危機に立ち向かうため、2017年に政治団体を設立。世界中の美術館に寄付もしている大富豪である、オキシコンチンという薬を製造する製薬会社を営むサックラー家をアート界から追い出す活動をしています。
メトロポリタン美術館では、鎮痛剤のラベルを貼った薬品の容器を美術館の噴水にばら撒いたり、グッゲンハイム美術館では、ドームの上から処方箋に見立てた紙をばら撒いたり、ヴィクトリア&アルバート博物館では、血のりをつけたお金を撒いてダイ・イン(犠牲者になりきって横たわり、抗議を表明すること)をしたり。
誰もが知っているような美術館の資本元でもある、巨大な会社を相手に声をあげて戦う姿が、彼女の波乱万丈な人生と並行して描かれていきます。
私はよく美術館に足を運びますが、ちょうど先日、出展者がアクティビズムを行う場面に遭遇したこともあり、ナン・ゴールディンの活動はアーティストとして当たり前だと感じることができました。アートだけではなく、寄付によって成り立っている文化事業について、改めて考えるきっかけにもなりました。
美術館のあり方やアートの意味について考えることのできる、とても素晴らしいドキュメンタリー。ぜひアートが好きな方に観てもらいたいです。
出演・写真&スライドショー・製作:ナン・ゴールディン
2022年/アメリカ/英語/121分/16:9/5.1ch/字幕翻訳:北村広子
原題:ALL THE BEAUTY AND THE BLOODSHED/R15+
配給:クロックワークス
公式X@ATBATB_jp
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