CULTURE
:「ワクワクしながら、心地よい暮らしのリズムを愛する」 今こそ知りたい、日本人初のマリメッコデザイナー・脇阪克二さんのこと『脇阪克二のアイデア箱 つくりながら日々暮らす』
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マリメッコのテキスタイルデザイナーとして活躍し、帰国後はSOU・SOUで日本の伝統文化を感じる新たなデザインを生み出している脇阪克二さん。
80歳を過ぎた現在も京都で毎日絵を描き続ける、脇阪さんの言葉と生き方を丁寧にすくい取って、一冊にまとめた本が『脇阪克二のアイデア箱 つくりながら日々暮らす』(小学館クリエイティブ)です。
この本の文章を手がけた小宮山さくらさんに、制作の裏側や脇阪さんの素顔について、たっぷりお話を伺いました。
フィンランドのマリメッコ社、ニューヨークのラーセン社、ワコール インテリア ファブリックを経て、現在はSOU・SOUでのデザインを楽しんでいる。
脇阪さんについてお話を伺ったのは
クリエイターへの取材やインタビューを中心に書籍、WEB、広告などで活動。参加書籍に『脇阪克二のデザイン』(PIE International)、『谷内六郎のえのぐ箱』(東京新聞)、『猪熊弦一郎のおもちゃ箱』(小学館)、『とびきりおいしい おうちおやつ』(小学館クリエイティブ)ほか多数。
生き方も知ることができる
物語作品集
1944年に京都の西陣で生まれ育ち、1968年にフィンランドに渡り、日本人として初めてマリメッコのデザイナーとなった脇阪さん。
その後ニューヨークを経て、60歳を過ぎて京都に戻り、現在もデザインをし続けてきた脇阪さんの人生を、本書では約50年前のマリメッコ作品や絵、陶芸、現在のSOU・SOUのテキスタイルなどの作品とともに紹介しています。

左から「JUOLUKKA」1974年、「PIANO」1972年、「KALIKKA」1975年 『脇阪克二のアイデア箱』より
「この本は、ひとりの作家の生き方を物語のように描く物語作品集シリーズの第3弾として誕生しました。これまでに画家の猪熊弦一郎さん、谷内六郎さんの人生と向かい合ってきましたが、テキスタイルデザイナーという職業を取り上げるのは今回が初めてでした。
脇阪さんはマリメッコやSOU・SOUが好きな人にとってはよく知られた存在だと思いますが、アートやマリメッコにそこまで興味がないという方が読んでも面白いと思っていただけるよう、できるだけ親しみやすい言葉選びや語りかけるような口調を意識して、単なる作品集ではなく、脇阪さんの生き方も一緒に伝える本にしたいという思いで作りました。読んだ後に明日から生きるのが楽しくなったり、いろんなことをやってみたいと思っていただけたらうれしいです」と小宮山さん。

「BO BOO」1975年 『脇阪克二のアイデア箱』より
マリメッコ時代の脇阪さんの代表作が、この本の表紙にもなっている「BO BOO(ブ ブー)」。ミニカーが大好きだった息子さんのために何気なく描いた車の絵をテキスタイルにしたものです。本書では、どのような経緯でマリメッコで働くことになったのかも詳しく書かれています。
「初めてマリメッコの門を叩いたときにかばんに詰め込んで持って行ったという原画を見ると、当時の脇阪さんの激しいパッションが伝わってきます。脇阪さんにこれまでのことをお聞きすると、“ぼくは、そのときどきの流れにのってきただけです”などとさらっと言ったりするのですが、何度もお会いしてお話を聞いていくと、頑固な一面もあるし、決断も早く、言葉と行動にはっきりとした一本の筋がしっかり通っていることがわかってくる。
デザイナーとしてもすごい人ですが、ニューヨーク時代はふたりのお子さんを男手ひとつで育ててこられたり、日々お忙しいはずなのにお手紙にはすぐにお返事をくださったり、人としても尊敬するところがたくさんあります。脇阪さんのお話はいつも端々にユーモアがまぶされていて、ご一緒していてとても楽しいんです」

SOU・SOUのデザイン 『脇阪克二のアイデア箱』より
脇阪さんの言葉と哲学

『脇阪克二のアイデア箱』より
本書には、脇阪さんがさまざまな場で語ってきた言葉がちりばめられています。
「新聞や雑誌の記事に掲載されたものから、10年以上にわたるお付き合いの中で私が直接お聞きしたものまで、たくさんの言葉を集めた中から厳選して、私のレンズを通してまとめたものを収録させていただきました。脇阪さんの言葉はシンプルでわかりやすく、普遍的なものが多い。デザインについて語っている言葉のはずなのに、あらゆる生き方をされている方の心に響く、本質的なことがたくさん詰まっていると思います」

52歳で、当時デザイナーをしていたワコールの仕事を辞め、陶芸に夢中になった脇阪さん。オブジェのような愛らしい陶芸作品を作っていたそう。『脇阪克二のアイデア箱』より
座右の銘の『BE YOURSELF』は、マリメッコ時代に創業者のアルミ・ラティアから直接言われた言葉で、今でも自身の作品にも書くこともある大切な言葉だそう。そんな中で、小宮山さんが特に印象に残った言葉とは?
「脇阪さんは“自分を生かしてくれる『枠』があるから、自分自身を生かすことができる”といつも話されていました。マリメッコ、ラーセン、SOU・SOUといった大きな『枠』からオーダーを受け、その枠の中で最大限に生かせる自分らしさを追求することをされてきた脇阪さんの生き方から、私は『他者との出会いの中で自分を生かすということは、ときとして自分ひとりでできること以上の力になり得る』ということを学びました。
何かを表現したいけどやりたいことが見つからなくて悩んでいる人や、自分にはオリジナリティがないのではと考えてしまう人に向けた、脇阪さんの“『身近な誰かのために、自分にできること』を探してみてはどうだろうか。そしてその場所で、まずは精いっぱい行動してみるといいかもしれない”という言葉は、いろいろな人の背中を押してくれるのではと思います」

『脇阪克二のアイデア箱』より
また、妻の温子さんとの関係も印象的だったそう。
「脇阪さんと温子さんは、お互いになくてはならない存在。脇阪さんの人生において、温子さんの助言によって大切なことに気づく局面も多々あったのではないかと思います。
温子さんはすごくクリエイティブな方で、健康に気を使って常備菜を15種類くらい常にストックしていらっしゃるのですが、そのどれもがびっくりするほどおいしい。部屋のしつらえもご自身で楽しみながら日々アレンジしていて、どこにもない美しい空間になっています。直接ものづくりをする仕事ではなくても、日常生活を舞台に、豊かにクリエイティブに生きられるというのは、この本の大事なメッセージのひとつになりました」
「本作りも終盤に差しかかった頃に、“温子さんに言われてハッとしたことがあります”と連絡をいただいて。それが『描くことは、救い』という言葉でした。
若い頃に自分の原動力になっていた、がむしゃらなエネルギーや欲望、劣等感が、歳を重ねると少しずつなくなってくる。年齢を経た今、心にぽっかりと空いた虚しさの穴を埋めてくれるのが、『描くこと』で、人生に描くことがあったおかげで自分は救われているのかもしれないとおっしゃっていて。このエピソードは誰にでも通じる普遍的な話のようにも思えるし、脇阪さんにしかわからない、非常に個人的な話にも思えて。今でも強く心に残っています」
くり返すことが心地よさにつながる

『脇阪克二のアイデア箱』より
脇阪さんが35年以上、一日も欠かさずに続けている習慣は、妻の温子さんに宛てて絵はがきを描くこと。それは日々の自分を映す鏡であり、大切なデザインのインスピレーション源であり、温子さんにとってはかけがえのない宝物、そして創作の記録にもなっているといいます。
『毎日のくり返しのリズムが心地よければ、人生もまた、心地よいものになる』という言葉も印象的です。
「毎朝散歩に出かけて、はがきを投函して、毎日描く。毎日同じリズムで暮らしているから、その繰り返しのリズムがテキスタイルの心地よいリズムにもつながっていると思います。ちょっととぼけていて、優しくてかわいらしくて。脇阪さんから生まれるテキスタイルは、脇阪さんの人柄そのままだなと感じます」

絵はがきを描く脇阪さん。『脇阪克二のアイデア箱』より

77歳頃から数年にわたり、集中的に作っていたちぎり絵のシリーズ 『脇阪克二のアイデア箱』より
「80代になっても、いつもワクワクしながら日々ものづくりを楽しんでいる。脇阪さんは描くことを愛し、また描くことで救われている人」という小宮山さん。最後にどんな人に読んでもらいたいか、お聞きしました。
「文章を読んでいただくのももちろんうれしいですが、脇阪さんの手がけたデザインや作品がフルカラーでたくさん載っているので、パラパラめくるだけでも楽しめると思います。
マリメッコのテキスタイルやデザインに興味がある方から、ただこの表紙を見て“かわいい!”と手に取ってくれた方まで、あらゆる方に気軽に読んでいただきたいです。脇阪さんの人生を通して、ワクワクしながら毎日を過ごすことが、人生の豊かさにつながっていくことをお伝えできたらうれしいです」
『脇阪克二のアイデア箱 つくりながら日々暮らす』

脇阪克二著/¥2,750(小学館クリエイティブ)
- 日々の暮らしとリズムを大切にしながら京都で創作を続ける、80歳のテキスタイルデザイナーがいます。1968年にフィンランドへ渡り、日本人初のマリメッコ・デザイナーとして活躍した、脇阪克二です。
脇阪さんは言います。
「毎日のくり返しのリズムが心地よければ、人生もまた、心地よいものになる」
場所、時代、家族。
色々変われど、脇阪さんの視線の先にはいつも「暮らし」があり、日本人は暮らしの中に美を見つけるのが上手だと言います。
シャツや鉛筆、椅子や花をやさしい線で描く脇阪さんは、一体どんな人なのでしょうか。本書は、約50年前のマリメッコ作品や絵、陶芸、現在のSOU・SOUのテキスタイルなどの作品がふんだんに収録された画文集。
近年はジブリやハローキティとのコラボレーションなど、新たな挑戦もしていますが、暮らしのリズムを大切に、ワクワクする気持ちで作り続けています。
フィンランド、ニューヨークを経て60歳を過ぎて京都へ戻るまで、ひとつのことを長く続けてきた彼が、何を見てどう動き、何を大切にしてきたのか。80歳の今、何を思うのか。
脇阪さんによる言葉の数々は、生き方のヒントにあふれています。そして、日本人の美しさに気づかせてくれるでしょう。
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photograph:Sachie Abiko text & edit:Mayumi Akagi
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