2冊目となるエッセイ集『けだま』(大和書房)を上梓した、モデルの浜島直子さん。服と記憶にまつわる22篇のエッセイを読んでいると、泣いたり笑ったり、共感したり、感情が揺さぶられ、浜島さんの日常や人柄が伝わってきます。本書の中から、2回にわたってその一部をご紹介してきました。3回目となる今回は、浜島さんが本書にこめた思いをたっぷり伺いました。
浜島直子
1976年北海道札幌市生まれ。モデル。愛称「はまじ」。
『mc Sister』にて18歳でモデルデビュー。『LEE』では10年間専属モデルを務めるなど、現在も様々な女性誌で活躍中。また、TBS『世界ふしぎ発見!』では12年間ミステリーハンターとして出演するほか、NHK『あさイチ』、bayfm『Curious HAMAJI』など、多くのテレビ・ラジオ番組にも出演している。2020年には初の随筆集『蝶の粉』(ミルブックス)を上梓。夫アベカズヒロさんとの創作ユニット「あべはまじ」では絵本作家としても活動しており、ひらさわまりこさんとの共著『しろ』『ねぶしろ』(ともにミルブックス)がある。
http://hamaji.jp
Instagram@hamaji_0912
飽きずに楽しめる、幕の内弁当のような一冊
初の随筆集『蝶の粉』(ミルブックス)の出版をきっかけに、文章力も高く評価されている浜島さん。
「実は一冊目の出版後すぐに今回のお話をいただいたのですが、産後の疲れという感じで、はじめは書ける気がしなかったんです。でも話しているうちに、洋服を入り口にしたら書けるかもしれないと思えて、毎月一本、締め切り日を設定して、2年かけて書きました」
本書を読んでいて驚くのは、浜島さんの記憶力。小学生のときのお気に入りの靴から塾の先生のブラウスとメイク、カメラマンの着ていたベストまで詳細に書かれていて、浜島さんの人生を映像で見ているような気持ちになります。
「私は子どもの頃から、記憶が映像で残っていて。例えば“旅行先で見たあの景色”と思ったら、スクリーンのようにバンと出てくるんです。特に服に関しては、気になった人は全身覚えています(笑)。“自分も持っていた、懐かしい! ”というところから、そのときのその人の話にしてほしい。それでみんなが持っているものをできるだけちりばめて書くことを心がけました。
靴やアニエス・ベーの白いシャツ、サムシングのジーンズなど、そのものをテーマに書こうとして書いたものもあるし、「おっぱいと水色のロンパース」のようにエピソードが最初にあって、服とかけて書いたものもあります。
中盤で次に何を書こうかと悩んだとき、担当編集者さんがリストを送ってくれて。そのリストを見て、人のことばかりで自分の服のネタが少ないんだなと気がつきました。ウエディングドレスについて書いた「樹木とドレス」は、その気づきから生まれたものでした」
今回の本は「幕の内弁当」をイメージして、いろいろな書き方で書いたという浜島さん。
「さっぱりとした酢の物もあれば、がっつりした揚げ物もあり、煮込み料理もあって、飽きずに最後まで食べられる幕の内弁当のように、一冊の中に笑えるものもあれば、ちょっとじーんとする話もある。おかずをすべて受け止めるような、1篇目から21篇目の答え合わせになる白米を22篇目の「けだま」にするというつもりで、最後の文章を書きました。いわゆるハウツー本のようなエッセイ風に書くのか、少し情緒的に随筆で書くのか、話によって意識的に分けて書いています。母について書いた「劇薬」はリズム勝負だと思って、書きました。おもしろおかしく書く方が、意外と難しかったですね。
編集者さんに送る前に必ず夫に読んでもらっていたのですが、私にズケズケものを言えるのは夫しかいなくて。「もう、『世界ふしぎ発見!』の話はお腹いっぱい」って言われましたね(笑)。笑える話やハウツーの話、子育ての話も多くない方が、ちゃんと本当に伝えたい空気感が生きるとアドバイスしてくれたのがありがたかったです」
文章を書くことをルーティンに
雑誌の撮影のほか、テレビやラジオ番組への出演と、多忙を極める浜島さん。
「前作の『蝶の粉』は、書いていた時間帯がまちまちですごく大変だったんです。今回は子どもが大きくなったこともありますが、学校や習い事に合わせた時間のルーティンができたんですね。習慣にしてしまうと、心と体が書くことにチューニングしやすくなった気がします。
といいつつ書けないときもあって、そんなときは最初、オンラインショップで買い物をしていたのですが、どんどんお金がなくなってしまって(笑)。ピピちゃん(愛犬)の散歩に行ったり、中森明菜ちゃんのYouTubeを見たり、気分転換をして、頭を全然違う状態に持っていくとアイデアが浮かぶことがありました」
普段は小説ばかりで、エッセイはほとんど読んだことがなかったという浜島さん。特に好きな作家の小川洋子さんからは、アドバイスももらったのだとか。
「ストーリーがすごくおもしろい作家さんもいますが、村上春樹さんや小川洋子さんの作品はストーリーをパッケージしている空気感や、読後のうまみがすごくあって好き。個人的に空気感が心に残る方が好みの文章だなと思って、『蝶の粉』を書き始めるときも、そういう読後感を味わえるようなものを書きたいということだけは、意識して書きました。
ちょうど行き詰まってきたときに、ありがたいことに小川さんにお会いすることができて。書けないときはどうしていますか?と聞いたら、“同じテーマでも自分のことや自分の目線じゃなく、もう少し客観的に見たら、きっとまた書ける”と言ってくださって。「シュヴァルのショルダーバッグ」は、シュヴァルはどんな気持ちだったかと想像しながら書くことができました」
これからもずっと続く、服との関係
本書ではモデルを始めた当初の七つ道具について書かれていますが、今の浜島さんにとっての七つ道具とは?
「もう10年くらい使っている黒い「コム・デ・ギャルソン」のポシェット、「ヂェン先生の日常着」のバルーンパンツ、「ビルケンシュトック」のサンダル、「セントジェームス」のボーダーと「コンバース」のスニーカーは当時から変わらずですね。あとは「モリスアンドサンズ」の靴下と「シルクふぁみりい」の下着。好きなものは色違いで揃えることもあります。ヂェン先生のパンツは、本には10本あると書きましたが、11本ありました(笑)。どれもマイ定番ですね」
昔着ていたお気に入りの服や、それを身につけていたときの出来事などを思い起こさせてくれるような、誰が読んでも楽しめる一冊です。
「たくさんいろいろな服を着て、失敗して着ない服もあったけど、46歳になった今、その経験が財産になっていると感じます。この本は私の本ではなく、あなたの本。若い人なら"こういうことがあるんだ”とちょっとした発見になったり、年齢を重ねた方は“私もそういうことがあったな”と感じていただけたら嬉しいです。自分の内側を旅するように、いろいろな方に読んでいただきたいですね」
書籍情報
photograph:Miho Kakuta edit & text:Mayumi Akagi
※写真・文章の無断転載はご遠慮ください
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