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日本とアメリカを行き来する、陶芸家・中里花子さんのものづくり 【コウケンテツのヒトワザ巡り・番外編】 日本とアメリカを行き来する、陶芸家・中里花子さんのものづくり 【コウケンテツのヒトワザ巡り・番外編】

陶芸家・中里花子さん 【コウケンテツのヒトワザ巡り】
連載 #コウケンテツのヒトワザ巡り

『リンネル』2023年8月号からスタートした、「手仕事の人と技を訪ねて コウケンテツのヒトワザ巡り」。連載2回目で訪れたのは、佐賀県・唐津市にある陶芸家・中里花子さんの工房兼ギャラリー。こことアメリカ・メイン州を半年ごとに行き来しながら創作活動を行う花子さん。ここでは誌面では書ききれなかった、その裏側へと迫ります。

目次
日本とアメリカを行き来する、陶芸家・中里花子さんのものづくり 【コウケンテツのヒトワザ巡り・番外編】
  1. 焼きものに興味は全然なかったけれど
  2. アメリカで気づいた和の美しさ。自身も陶工の世界へ
  3. めざしたのは「八方美人の器」
  4. 日本とアメリカ、二拠点で活動する理由
  5. 花子さんの作品が購入できるイベントも開催決定
陶芸家・中里花子さん 【コウケンテツのヒトワザ巡り】

【中里花子さん】
陶芸家。佐賀県唐津に育ち、16歳でテニス留学のため単身渡米。帰国してからは「隆太窯」を開いた父・中里隆氏に師事。以後、郷里の唐津とアメリカのメイン州を半年ずつ行き来しながら作陶を続ける。
https://www.monohanako.com

 

【コウケンテツさん】
料理研究家。旬の素材を活かした韓国料理をはじめ幅広いレパートリーを気軽に作れるレシピが人気。雑誌をはじめ、テレビ、SNS、YouTubeなど多方面で活躍中。
インスタグラム @kohkentetsu
YouTube @kohkentetsukitchen

焼きものに興味は全然なかったけれど

陶芸家・中里花子さん 【コウケンテツのヒトワザ巡り】

ここは、九州の中でも「陶芸の里」として知られる佐賀県・唐津。

くねくねと続く山を上っていると、ふと、明らかに異なる空気をはらんだ脇道がありました。同じ自然のはずなのに、どこか海外を思わせるセンスと風通し。

やはり、そこが陶芸家・中里花子さんのスタジオでした。

祖父は人間国宝の十二代中里太郎右衛門氏、父と兄も唐津焼を代表する陶芸家として世に名を広め、家業に習って陶工になるのがとても自然な環境だったと言います。「ただ、あまりにも焼きものが当たり前の環境だったから、私自身は別に興味もなかったんですね。何なら、器じゃないことをやりたいと思ってました」

小さいころから熱心に取り組んでいたのは、テニス。16歳のころには単身でアメリカに渡り、全米大学選手権のダブルスでオールアメリカンの賞をとるほどまでになったそう。そのテニスから一線を退く、となったとき、これからの人生を自身に問いかけます。そして最終的に生業として選んだのは、父親と同じ陶芸の道でした。

陶芸家・中里花子さん 【コウケンテツのヒトワザ巡り】
口に二重の凹凸をつけた「ダブルリップ」シリーズ。牛箆(ぎゅうべら)と呼ばれる特有の道具を使って土を伸ばし、指で溝を押さえながら二重の層を作っていきます。

アメリカで気づいた和の美しさ。自身も陶工の世界へ

「器に興味が出たきっかけは、海外に出てみて『あれ、日本って器の使い方がちょっと違って面白い』と思うようになったんです。白い器があれば、染付もあったり、漆があったり、ガラスもそうですよね。いろいろなものをミックスして、ひとつのテーブルコーディネートをする。そんな食文化がある国って、素敵じゃない!と。だから私の場合は、海外に出たことが、日本へと引き戻してくれた。客観性ができたんですね」

陶芸家・中里花子さん 【コウケンテツのヒトワザ巡り】
器の縁に染色した、唐津の伝統的な装飾「皮鯨(かわくじら)」。インディコのようなブルーの色彩が、花子さん流。「この白とブルーのコントラストが美しいですね」とコウさんも感動した様子。

やがて帰国し、父親の「隆太窯」で2年半修業。ここでも大きな気づきがありました。

 

「焼きものって、よくも悪くも作り手の個性がすごく出るなと思ったんです。土って、すごく人柄を吸い取るというか。私が実家で修業をしていたとき、ほぼ同じタイミングで入ってきたお弟子さんがいて、基本一緒に練習をするんです。同じものを、そっくりそのまま模倣して作るんですけど、やっぱり違うんですよ。そのときに気づいたのは、個性って、そう無理して出さなくても出るものなんだって。それからは、あえて自分を出そうと頑張らなくてもいいのかも、思うようになりました」

陶芸家・中里花子さん 【コウケンテツのヒトワザ巡り】
完成した、ダブルリップシリーズ。

めざしたのは「八方美人の器」

隆太窯で経験を積んだのちに念願だったアメリカに戻り、アメリカ人陶芸家マルコム・ライトの工房で、陶工として働くことに。唐津焼伝統の手法から離れ、いざ自由に作陶できるとなったとき、めざしたのは「八方美人の器」でした。

 

「空気みたいな存在なんだけど、誰も気づかないわけじゃなくて、存在感はなんとなくある。器っていうのは芸術品ではなくて使うもの。いろんな人の家に行くし、いろんな料理が盛られる。それぞれの生活パターンがあるわけだから、やっぱり余白がないとダメだと思うんですよね。そう、だから八方美人でいてほしいんです」

 

それはどこか、料理にも似ているとも。「派手な見映えでなくとも、どこか艶っぽい料理に惹かれる。私の器もそういう存在でありたいなと思っています」

陶芸家・中里花子さん 【コウケンテツのヒトワザ巡り】

日本とアメリカ、二拠点で活動する理由

陶芸家・中里花子さん 【コウケンテツのヒトワザ巡り】
工房天井にミラーボールを発見! なんとここは以前「club monohanako」としてDJを招いてクラブ化していたことも。そんな自分らしい息抜きの方法をとりながら、日々作陶と向き合っている。

そうして現在は、しかるべき流れでアメリカと日本を行き来しながら、それぞれ現地で作家活動をする暮らしを選びました。ものづくりへの影響は?と伺うと、「先ずは空間のスケールが違うので、アメリカでは知らず知らずのうちに器のサイズ感が大きくなってしまうこともあります。それと作風に色味が付いてきたのも、海や山の自然が美しい景色からの影響だと思います。」

ただ、意識して変えているわけではなく「知らず知らずに」だとか。

「環境も変わるし、使う素材とかも違うんですね。だから同じものを作ろうと思っても違うようにできるので、違うものを作ろうと思わず、ゆるい感じで、楽しみながら」

 

そう言ったあと、とびきりチャーミングな笑顔を見せる花子さん。

「何かひとつのことだけにフォーカスするんじゃなくて、違う視点を持つ。それが今の私なりの、居心地のいいやり方なんだと思います」

陶芸家・中里花子さん 【コウケンテツのヒトワザ巡り】
話を伺うにつれ、テニス、家業、過去の葛藤など、共通点が多いことに気づくお二人。「花子さんは音楽を作るように作陶されているのが印象的でした。アーティストであり、アスリートらしいずっしりとした軸もお持ち。器づくりの背景にある、お人柄に触れることができてうれしかったです」(コウさん)。

花子さんの作品が購入できるイベントも開催決定

2022年10月に開催し、大好評だったコウさんの愛用品を販売する「コウケンテツのこれええで展」の第2回が開催決定。中里花子さんの器など、本企画で取材した作家の皆さんの作品を販売します。ぜひお立ち寄りください。
陶芸家・中里花子さん 【コウケンテツのヒトワザ巡り】
フリーハンドでエッジを形取ったチャクラシリーズも販売します。

【コウケンテツさんのこれええで展2】
場所:阪神梅田本店7F イベントウエスト
日時:10月4日(水)〜17日(火) ※最終日は午後6時まで
※イベント詳細は随時公式インスタグラムにて公開していきます。
インスタグラム @hanshin_ls_event

>> 中里さんのチャクラプレートに合わせて作ったコウさんの絶品「ゆで鶏の葉っぱ巻き」レシピをチェック!

>> 【コウケンテツのヒトワザ巡り&レシピ】の記事をもっと見る↗

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photograph : Tsugumi Meno text : BOOKLUCK
リンネル2023年9月号より
※画像・文章の無断転載はご遠慮ください

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