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瀬戸内海そばにある陶芸家・伊藤環さんの工房で見た、愛される器の原点 【コウケンテツのヒトワザ巡り・番外編】 瀬戸内海そばにある陶芸家・伊藤環さんの工房で見た、愛される器の原点 【コウケンテツのヒトワザ巡り・番外編】

瀬戸内海そばにある陶芸家・伊藤環さんの工房
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連載 #コウケンテツのヒトワザ巡り

リンネル2023年8月号からスタートした、「手仕事の人と技を訪ねて コウケンテツのヒトワザ巡り」。連載1回目で訪れたのは、親交のある陶芸家の伊藤環さんの工房がある岡山県岡山市へ。コウさんが「毎日使ってしまうほど魅力的」という器が生まれる場所で、環さんのつくり手としての想いに触れてきました。

目次
瀬戸内海そばにある陶芸家・伊藤環さんの工房で見た、愛される器の原点 【コウケンテツのヒトワザ巡り・番外編】
  1. 瀬戸内海の自然とともにつくる器
  2. 目指したのは、日常で使える「食器」
  3. 仏教の教えが説く、作品の原点のカタチ
  4. 環さんの作品が購入できるイベントも開催決定
工房を訪ねたコウケンテツさんと川のほとりで。クリーミーなブルーの青空が瀬戸内海らしい。
この景色にほれ込んで、移住を決めたという環さん。おそろいのチノパンは、環さんが1920年代のチノパンをリプロダクトした「イチタスゼロ」のもの。

【伊藤環さん】
陶芸家。大学卒業後、山田光氏に師事。信楽 ・陶芸の森で若手作家と競作の後、郷里の福岡県朝倉市秋月で父・橘日東士氏と作陶。2006年神奈川県三浦市三崎にて開窯。2012年岡山県岡山市に移住。
http://itokan.com

インスタグラム @ichi_tas_zero

 

 

【コウケンテツさん】
料理研究家。旬の素材を活かした韓国料理をはじめ幅広いレパートリーを気軽に作れるレシピが人気。雑誌をはじめ、テレビ、SNS、 YouTubeなど多方面で活躍中。
インスタグラム @kohkentetsu
YouTube @kohkentetsukitchen

瀬戸内海の自然とともにつくる器

瀬戸内海の美しい景色に囲まれた、伊藤環さんの工房

瀬戸内海の美しい景色に囲まれた、伊藤環さんの工房。小窓から見える豊かな自然や、雨が降るたびにトタン屋根に響くしずくの音。時折聞こえる自然の知らせに、心を整えながら作業へと向かいます。

「作陶する所に窓があって、春になると神社の境内の桜が見えて、晴れ晴れした気持ちになります。初夏はカエルの合唱ですよ(笑)。もうここに来て10年以上が経ちました。以前の三崎(神奈川県)も水辺だったので、水の近くが落ち着くんですよね」。

四季折々を工房の窓で感じながら、土と対話して、土の声を聞いて仲良くやっていくのだと環さんはいいます。土の声を聞き逃さないようにするには、自然界に近い、こんな工房がうってつけなのでしょう。

作陶する所に窓があって、春になると神社の境内の桜が見えて、晴れ晴れした気持ちに
神奈川県の三崎から岡山へ住居と工房を移して11年
神奈川県の三崎から岡山へ住居と工房を移して11年経つ。

目指したのは、日常で使える「食器」

目指したのは、日常で使える「食器」

環さんがつくる器は、使いやすいのにどこかアート作品のような「用の美」が備わっています。日常の風景に溶け込んでいながら食卓を少しだけ特別にする器に、毎日、料理を盛りたくなってしまいます。

「30年以上ものづくりを続けるなかで、食器とはどういうものなのかがなんとなく身体に備わってきたように思います。
父(橘日東士氏)の時代の陶芸家は茶器や花瓶、壷などの焼き物をつくる時代で、陶芸家は食器をつくらないという風潮がありました。しかし、バブルが過ぎた頃からその価値観が『日常使いのものもつくる』に変化していきました。

僕も、食器をつくりはじめたんですけど、使いやすい器がどんな形かわかりません。そんな陶芸家のつくる食器はやはり売れません。どうしたかといえば、窯の直売店にやってくるお客さまに、僕のつくった食器を渡してアドバイスをいただきました。なんならろくろの前まで連れて行って、ご意見を聞きながら実際につくるんです。
それからずっと使う人の声が僕の師匠なんです。食器のサイズ感や勝手のよさを生活者たるみなさんに教えていただき、失敗しながら覚えました。そうしているうちに自分の食器がつくれるようになっていきました」

コウケンテツさんが「つい毎日環さんの器を手に取ってしまう」という理由は、ものづくりと向き合う環さんのそんなひたむきな姿勢からも感じられます。器を使う人たちに寄り添う使い勝手のよさの一方で、はっとするほどの美術作品のような佇まいを感じる機能美は、環さんが試行錯誤した末に生まれたものだったのです。

取材チームに「お茶をどうぞ」と出してくれた、小ぶりな取っ手つきのカップ。
取材チームに「お茶をどうぞ」と出してくれた、小ぶりな取っ手付きのカップ。

仏教の教えが説く、作品の原点のカタチ

『托鉢(たくはつ)』個展の作陶で、必ず作るようにしている器

「僕の器をつくるうえで決まりごとというか、個展の作陶で、必ずつくるようにしている器があります。『托鉢(たくはつ)』といって、お坊さんが修行の一環として街中で経を唱え、食物や金銭を受け取るための器です。僕はこの形がすごく好きなんです。
僕の中で、托鉢は、僕の器の基本というか、これをちゃんとつくれないと他のものもつくれない。ものづくりをするとき、必ずここを通らないと僕はダメだって、いつもどこかにあるんですね」。

ろくろに向き合う環さん
ろくろに向き合う環さん。ゆったりと一定のリズムで身体を動かしながらろくろを挽くのが印象的。

「なぜかというと、器はろくろを回して遠心力をうまく使ってつくります。下と横に広がる力を手でおさえ込みながら、重力や遠心力と相反してこの形に整えるんです。この力の作用は、地球のエネルギーっていうと大げさかもしれませんが、そんなふうに感じています。

また、「中庸」っていう言葉がありますけど、托鉢は左も右も上も下もない、中庸な形で、仏教の教えがここに在るっていわれています。托鉢をつくることで、それを体感するというか。いろいろな力を借りたり、感じたり。僕ひとりだけじゃないものと対話しながら、土を形づくる。僕はものづくりをそんな風に解釈しています」。

環さんの、哲学者、物理学者、アーティスト、いろいろな面が垣間見えた時間。
器づくりとの向き合い方を聞くことで、より環さんの「つくりたいもの」に触れることができた気がします。
ものづくりの背景に広がる、言葉では言い尽くせない奥深い思想や世界。それはつくり手だけが感じ取れる領域で、その違いが唯一無二の作品へとつながっているのかもしれません。

工房の脇においてあった花器
工房の脇においてあった花器。様々な形、用途、使う人のことを考えながら完成していった作品たち。

環さんの作品が購入できるイベントも開催決定

2022年10月に開催し、大好評だったコウさんの愛用品を販売する「コウケンテツのこれええで展」の第2回が開催決定。本企画で取材した、伊藤環さんの器も販売します。さらに、イベントではコウさん×作家さんの特別オーダー品も限定出品予定!
ここでしか手に入らない限定商品に出合えるチャンスです。ぜひお立ち寄りください。

コウさんがオーダーした「こぶりな飯碗」
コウさんがオーダーした「こぶりな飯碗」。ふたりによる初の共作は、互いに意見を出し合い、完璧なカタチを目指します。

【コウケンテツさんのこれええで展2】
場所:阪神梅田本店7F イベントウエスト
日時:10月4日(水)〜17日(火) ※最終日は午後6時まで
※イベント詳細は随時公式インスタグラムにて公開していきます。
インスタグラム @hanshin_ls_event


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photograph:Shinpei Kato text:Asami Asai
リンネル2023年8月号より
※画像・文章の無断転載はご遠慮ください

リンネル 2023年8月号通常号

リンネル2023年8月号・付録のご案内

おしゃれと暮らしの夏支度!

特別価格:1,240円(税込)
表紙:夏帆
2023年6月20日(火)発売 ※一部地域では発売日が異なります

リンネル2023年8月号・付録

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