【文筆家・甲斐みのりさんが考える、乙女の東京】 物語の主人公になれる場所を探して 【文筆家・甲斐みのりさんが考える、乙女の東京】 物語の主人公になれる場所を探して
特集女子旅おすすめスポット 暮らすように心地いいリンネル旅ガイドいつもの街が違う輝きをもって見えるような、街歩きの楽しみ方を教えてくれる文筆家の甲斐みのりさん。甲斐さんの原点ともいえる、東京を案内した『乙女の東京』が15年のときを経て、『乙女の東京案内』(左右社)として復刊。この本の中から、お店やバー、ホテルなどを3回にわたって紹介してきました。最終回となる今回は、本書にも紹介されている西荻窪の喫茶店「どんぐり舎」で、甲斐さんに“乙女”について、またお気に入りの場所の探し方を教えてもらいました。
甲斐みのり
文筆家。静岡県生まれ。日本文藝家協会会員。大阪芸術大学文芸学科卒業。旅、散歩、お菓子、地元パン®️、手みやげ、クラシックホテルや建築、雑貨や暮らしなどを主な題材に、書籍、雑誌、webなどに執筆。主な著書に『歩いて、食べる 東京のおいしい名建築さんぽ』『歩いて、食べる 京都のおいしい名建築さんぽ』(エクスナレッジ)、『たべるたのしみ』『くらすたのしみ』(ミルブックス)、『一泊二日 観光ホテル旅案内』(京阪神エルマガジン社)、『クラシックホテル案内』(KKベストセラーズ)、『アイスの旅』(グラフィック社)、『にっぽん全国おみやげおやつ』(白泉社)など。
Instagram:@minori_loule
変わっていく東京と、変わらない東京
前作から15年ぶりに復刊した本書。東京の街並みは様変わりしましたが、甲斐さんの好きな東京はあまり変わっていなかったそう。
「好きな店がなくなったりもしたので、もう一度東京を見つめ直して、記録に残したいという思いがありました。最近、懐かしい東京や喫茶店が改めて注目されていて、自分が20年来通い続けている好きな店に行くと若い人も多いんです。だから若い人たちに、伝え直したいと思いました」
前書と比べて変わったのは、「令和の東京」の章。コロナ禍に甲斐さんが足を運んだ場所が紹介されています。
「なかなか外出できないときに、パレスホテル東京に泊まって旅行気分を味わったり、東京ではない場所に行った気持ちになれる武蔵野園で散歩して、すごく救われました。そのほか新たに20軒ほど追加していますが、今回載せた場所は15年前とは全く変わっていなくて、写真もそのまま。なくなってしまったお店は普通は本から外すと思うのですが、私はなくなった東京も記録として載せなくてはいけないんじゃないかと思って残しました。
例えば、池波正太郎さんの食のエッセイを読んでいると今はない店も出てきますが、行ってみたかったなと思うことも楽しいと思うし、永遠ではないからこそ、今いろいろなお店に行っておきたいなとも思えます」
乙女心は誰にでもある
もともと、池波正太郎や植草甚一に影響を受けて、街案内の本を作り始めたという甲斐さん。
「自分が東京の街を歩き始めた20年前は、インターネットが出てきたばかり。今のようにスマホがなかったので、本や雑誌に付箋を貼って、地図をプリントアウトして歩いて出かけていました。そのときに読んでいた本も、この本の中で紹介しています。
私は10代の頃から、竹久夢二さんや中原淳一さんにすごく影響を受けていたので、『乙女の東京』を作った頃は乙女を“女性らしい感性”と受け止めていたんです。15年経つと時代も変わり、私も乙女という言葉の使い方について考えが変わりました。年齢や性別を問わず、誰の中にもある何かにときめく気持ちや、かわいいな、素敵だなとキュンとする気持ちを総称して、今は乙女心というのかなと。
東京で懐かしい雰囲気の店に訪れたとき、私は“宝物に出合えた”と思える感じがあって。小説や映画の舞台になった場所もあるし、物語性も感じます。自分がそこで過ごしている間は、物語の主人公になれた気がするんですよね。私は自分の物語の中にちゃんと存在しているんだなと思えて、ちょっと自信がつく。そういうお店をたくさん紹介しています」
物語の主人公になれるお店の探し方
この本では“乙女”という言葉から想像されるカフェやレストラン、ホテルだけでなく、バーや競馬場も紹介されています。
「競馬は、イギリスでは紳士のたしなみ。馬もきれいでグルメも楽しめて、すごくおもしろくて。バーも親切にいろんなことを教えてくれるんです。夜の街にも東京のおもしろい表情があり、行ってみると楽しみが広がります。これは私の乙女の東京の一部なので、この続きはみなさんで探してほしいですね」
そんな甲斐さんの“乙女の東京”の探し方とは?
「小説や漫画、ドラマなど、まずは自分の好きな作品に登場する舞台に出かけてみては? 自分の近所の歩ける範囲でも、行ったことがない場所はたくさんあると思うんです。駅前にはだいたい和菓子屋さんやパン屋さんがあるので、買ったものを公園で食べるのも楽しい。遠くに出かけたりお金をかけなくても、魅力的なものは実はたくさんあると思うので、自分の住んでいる周辺に目を向けてみてほしいです。東京に住んでいなくても、この本に載っているお店を目指す途中で別の店を見つけたり、そういう寄り道をたくさん楽しんでほしいですね」
街にはアイドルがたくさん
とにかく街歩きが楽しいと話す甲斐さん。最初は一人で入りづらいお店でも、“初めてなので教えてください”と言うと、優しくしてもらえることが多いのだとか。
「私は、一人で街歩きすることも結構あります。せっかくこの場所に行くなら、全部行っておきたいと思って、喫茶店に行って、お土産も買って、バーにも行って……と一日で回る軒数が多いんです。そうすると一人の方が身軽なので、友人と行くときは一箇所でゆっくりする、と分けて楽しんでいます。
私は街に出ると楽しみすぎて、移動がほとんど小走りなんです(笑)。気持ち的に次の店に早く行きたくて、つい小走りになってしまいます。街の中には、パン屋さん、お菓子屋さん、雑貨屋さんと、自分の好きなアイドルがたくさんあります。八百屋さんやスーパーを見るのも楽しい。降りたことのない駅も大好きで、行くと何かが見つけられると思うと、楽しみで仕方がないんです」
店舗情報
どんぐり舎
東京都杉並区西荻北3-30-1
03-3395-0399
定休日なし
10:00~21:00
文筆家・甲斐みのりさんが考える、乙女の東京
photograph:Miho Kakuta text & edit:Mayumi Akagi
※写真・文章の無断転載はご遠慮ください
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